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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20228 トラウマ


 完全に奇襲だったのに。こっそり背面からの一撃は空振りに終わった。

 津原椿姫(つばき)の【武器】は両手剣である。刀身は3フィート、柄が1フィート。柄頭は洋梨方で、鍔は幅広で頑丈。


 刀身は黒く真っすぐ、肉厚で幅広、先端は平らで、刺突を一切考慮していない。むしろ先端ほど肉厚になっている節すらある。

 根本には椿の花の図柄と『IDEAL LOVE』の刻印。これは白椿の花言葉『理想の愛』の英語だ。


 椿の花はあまり縁起の良くない花であった。椿は花が落ちる時、首からポトリと落ちていく。

 それが斬首に見立てられ、その白く美しい花すら死装束を思い起こされると忌避(きひ)された。


 だが一方で、花弁の落下は『潔さ』であり、古来から魔除けとしても重宝された。

 剣は権威の象徴であり、椿姫の両手剣は、特に王権と関係が深い。


 彼女の【武器】は処刑剣(エクスキューショナーズ・ソード)である。

 罪人の首を()ねるための刃。


「オラ死ねボケカスがぁぁ!!」


 布で隠していた右手から出てきたのは、先端に鳥の意匠の付いた白とピンクの金属棒だった。

 不意打ちの一撃を回避したちどりは、振り向きざまに強烈な反撃を繰り出す。


 棒による打撃、一撃で致命傷に達するものではない。だが、勘違いしてはならない。

 【狩人】同士の戦いで、特に【防具】が絡むのであれば、ちょっとやそっとの切れ味など意味をなさない。


 椿姫は胸元と脇と背中の大きく開いた扇情的なドレス姿だ。それが彼女の【防具】である。

 ドレス部分は刃を通さない特殊な素材だ。であるならば、【狩人】を倒すには椿姫の処刑剣のように重量ある攻撃か、打撃で負傷を増やすのが正しいことになる。


「うわ、えっろ……その格好でここまで来たの? ふへっ、ど変態じゃね?」

「あなただってぇ、似たような格好じゃない〜?」


 絹でできたちどりのドレスは、大きく胸の谷間を見せていた。どっちもどっち。五十歩百歩、しかし強いて言うならばバストサイズでは椿姫が勝っていた。


「椿姫さん、下がって!」

「下がらせるかってのよ」


 突進する翔斗、距離を取ろうとする椿姫に、ちどりはステッキを振った。

 ピンクと白に塗り分けられた魔法少女の変身グッズのようなそれ、ビームでも出るのかという警戒は正しかった。


 先端、鳥の形のエンブレムが射出され、椿姫の足に絡みついた。エンブレムと棒は細い鎖でつながっており、足を取られて転倒する椿姫。


「鎖分銅!?」

千鳥鉄(ちどりがね)ってぇの! ふひひ!」


 翔斗のタックルを転がって避けるちどり、ちどりと椿姫の間にピンと張られた鎖。翔斗は足を取られるも、転倒までは至らない。


「あぐっ」

「ひっひ! 姉ちゃん鳴いてるぞ!」

「んぐぅッ!?」


 鳥のエンブレムは翼部分が鋭く刃物になっていた。翔斗が引っかかった事で、椿姫の太ももにも突き刺さり肉を(えぐ)る。

 かと思いきや、血飛沫を飛ばしながら鎖が回収、足をズタズタに引き裂きながらちどりの手に戻った。


「んひっひっ! 鎧の兄ちゃんよぉ、もしかして自分が間にいるからもう平気とか思ってる?」

「…………」


 翔斗が身構える。左手を前に、右手はちどりから隠すように。まだ【武器】は出さない。ちどりが【防具】を見せないのと同じだ。何かあると警戒させるために。


「ふひっ!」


 射出されたエンブレムを翔斗は左手……【盾】で弾いた。一部の【狩人】が有する防御用の力場である。粒子が集まり不可視の障壁を作り出す。

 翔斗は素早く距離を詰めた。右手には【武器】、刃渡り20インチの美しい両刃剣が成型される。


 ゲームなどでは勘違いされがちだが、短剣と長剣は使い方や利用方法が異なる。

 無論、広い戦場で使ったなら長い方が当然有利だ。


 しかし、屋内や組討での取り回しでは短い方が勝る。翔斗の剣は一般的にはショートソード、短剣の部類に入る。つまり、インファイトが彼の距離だ。

 凄まじい踏み込みで距離を詰める翔斗、もう鎖を戻しても間に合わない。というか、全身鎧の翔斗に、ちどりの千鳥鉄はいささか心許(こころもと)なくすらあった。


「翔斗くん!!」

 

 椿姫の警告に、翔斗は素早く反応した。亜音速で翻ったエンブレムが翔斗の後頭部を襲う。

 スナップを効かせた鞭の先端は、音速を超えるとされる。千鳥鉄はそこまでは行かないが、恐るべき速度を持って翔斗を襲った。警告が少しでも遅かったら、後頭部を激しく打ち付けられていただろう。


「ぎゃっ!?」


 吹き飛んだ兜が粒子になって四散する。兜の下から現れた顔に、ちどりが悲鳴をあげた。

 高速で戻るエンブレム、ブルブルと震えて指差すちどり。その様子のおかしさに、翔斗は一瞬躊躇(ちゅうちょ)するも、すぐに突進した。


「や、やだぁぁ!!? やめてぇ!」

「…………ん? んん?」


 ステッキを投げて、両手を振り回して抵抗するちどり、完全に錯乱(さくらん)していた。両目からぼろぼろと涙を流して、ペタンと座り込んでしまう。


「痛たた……ちょっと〜? 翔斗くん何したの?」

「いや、別に……僕は何も」

「やだよぉ!? 痛いのやだぁぁ!!」


 太ももの傷を庇いながら、椿姫はゆっくり近付いてちどりを抱きしめる。つい一瞬前まで殺し合っていた相手なのに、よくそんな事ができるなと翔斗は感心した。


「怖くない、怖くない、あの悪い男に何されたの〜?」

「ひいぃ、ひぃぃん。ちぃはアイツに……マワされて殺されたんよぉぉ……ッ!」


 突然の風評被害にどうすることもできず、翔斗は所在なさげに立ち尽くす他できなかった。




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