20223 魂の同期
「アマタ! お前なんて事を!!」
《良い、騒ぐな。ククッ。俺が力を見誤った。彼の戦働きを讃えよ、メヌキアマタは真の勇士である!》
探偵、目貫千は警戒を続けた。端から見れば一瞬の攻防だった。千は自称【ドラゴン】『セト』の右腕を破壊し、心臓を穿った。
「動くなよ、ドタマかち割られたくなけりゃ」
《好きにしろ、命を一つ失うだけだ》
「…………その『命』が無限か? 有限か? 無限ならそもそも『防御しない』よな?」
《ククッ、クッ、クククッ》
小野の言葉に『セト』が苦しげに笑う。その笑いは、彼の『命』が有限であり、同時に『死』を無視できないことを物語る。
《女、そして幼子も武器を納めよ。俺の負けだ。汝らに祝福……は要らんという顔をしているな。ククッ。
では質問に三つ答えるが……その前に名乗れ、宣誓する》
「あたしは小野、そっちはポロルだ」
手斧を振りかぶる斧、ポロルは歯をガチガチ鳴らしながら飛びかかろうとしていた。
《メヌキアマタ、オノ、ポロル。汝らの問いに嘘偽りなく答えると、『セト』の名において誓う……勇士とその友らに嵐と蛇除けの祝福あれ》
「勝手に祝福するな」
《おまけだ。おまけ。ククッ。それともう一点、俺は貴様ら【客人】の言う【ドラゴン】。六柱の次元介入者の一つだ》
息を吐き、あぐらを組む『セト』。事もなげに右腕を上げる。へし折れた関節は繋がり、脇の傷は完全に消えていた。
《俺の役割は『反逆者』。他の龍のやり方に疑問を挟む立場となる。例えば》
「物理法則と常識的にあり得ない、破壊兵器の貸与とか?」
《ククッ。聡いなメヌキアマタ。勇士でありながら賢者でもあるか》
名探偵扱いは嫌だが、賢者も抵抗がある。なんのいうか、持ち上げ過ぎだ。
《俺は過剰介入のカウンターとしてこの地に推参した。お前たち【客人】のようにな》
「『セクメト』を破壊するためのってことか?」
《そうだ。そしてオノ、お前の推測は正しい。俺の命は有限で、半日しか保たん。命を奪われ再生のたびに時間を消耗する》
時間制限付きだが、不死身の【義体】なのであろう。
《さて、自己紹介は十分だろう。以降は質問とみなす》
「最後に一つだけいいか?」
《なんだ?》
「オレたちが『セクメト』を動かそうとしていたらどうした?」
《全ての権能を利用して皆殺しにした》
千は頷いた。素手格闘では千に分があっただけで、本気で殺し合った場合は話が違う。
不死身を利用して、刺し違えに来ていただろう。
「小野、どう思う?」
「困った話だが信用するしかない。せっかくだから情報を引き出すべきだ」
「これとこれは確定で……」
「なら質問の内容を……」
千が小野と頭を突き合わせている間に、ポロルが不思議そうに『セト』に近付いた。
『セト』の皮膚は黒檀のように黒い。黒人であるポロルよりもさらに黒い。
「あーだー」
《よし。答えよう。俺の身体は戦闘用に特化し、それ故に闇に溶け込むジャッカルのような色をしている。種族が同じなのではない。
お前と彼らの肌の色が違うのは人種が違うからだ。しかし『人間』という枠組みでは同じだ》
千と小野は青ざめた。『セト』の前に座り、おとなしく話を聞くポロル。
《俺はお前たち【客人】のいう【ドラゴン】だが、偉大なる六龍の一柱であり、【王】ではない。お前たちの【世界律】が区別をしていないせいで複数の混乱が起きている。
俺は多次元的に投影されている影の一つ、あいつらと同じく、かりそめの肉体にに魂を乗せているだけだ》
「んだーぅぅ」
《お前が他の者と違うのは、お前の肉体は外のものであるが、魂はこの時代のものだからだ。肉体との同期がうまく行っていない。
【祝福】をやろう。お前がお前のままでその肉体を乗りこなせるように》
『セト』がポロルの胸に指を伸ばす。指先が赤く輝き、ポロルの胸に三本の線を描いた。
全ての交点が飛び出た逆三角。
《必要とあらば我が名を呼べ。我が真名は…………》
「待て! ポロルに何をした!!」
掴み掛かる千。しかし、『セト』は殺して殺せる相手ではないし、話も聞かねばならない。
だがそれでも、それでも……!
《すでに【馬鹿女】の【印】があるのだ。俺のがあっても対した違いはあるまい。
俺はこの幼子の魂と、肉体の魔力を紐付けただけだ。必要な時に、必要な力を振るうためにな》
「それは…………」
千は理解した。
ポロルはヤキトではない。【武器】は魂に紐付けされている。つまり、ポロルはヤキトの【武器】が使えなかったのだ。
ここまで、そんな機会はなかったけれど、いずれポロルが【武器】を手にしなければならない時が来ると思っていた。
そして、それは『セト』なしではあり得なかったことを。
「…………肉体の元の持ち主に、引きずられる事は?」
《ない。というか……面白いほど綺麗に魂を抜き取られている。何があったのか聞きたい位だ》
「なんだと?」
理解ができず、千はしばし言葉を失った。
頭の片隅で、美咲の言葉が警告を出す。ついさっきの、『セト』からポロルへの説明が、そして……『セト』が二度口にした言葉。
絶対に看過できない、質問しなければならないと思っていた言葉の意味が、繋がった。
「教える代わりに、『それ』について情報交換がしたい。残り二つの質問とは別口で」
《勇士で、賢者で、弁も立つ。面白いぞメヌキアマタ。それは俺にとっても意義のある話かもしれん》




