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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20221 歴史書


「ぁま! ぁま!!」

「落ち着けポロル」


 頭の中は赤ん坊でも、見た目は屈強な黒人男性である。目貫(めぬき)(あまた)はこの子とのスキンシップを避けてきた。もちろん恥ずかしいからである。

 しかし手をあげると、大喜びで無限にハイタッチをする姿を見ていると無碍(むげ)にもし難いものがある。


「ぐるっと見て回ったが、下の様子を探れそうな場所はない。底は見えない」

「だろうな。あれは普通の災害ではない。確信した。ネヘプは王国に仇なす者だ」


 『河』に切り込みを入れる『暗黒』。100メートル以上続く大地の裂け目。その正体にイムは心当たりがあるようだった。


「少し神話の話をするぞ。アマタもオノも聞け」

「分かった。ポロル、おとなしく聞けるな?」

「ぃん」


 これは『うん』ではなくイムの事である。イム、イムホテプは神官長で医者で書記長で建築家である。

 嘘みたいに博識で、良識があり、頭の回転もいい。彼の言葉には耳を傾けるべきであった。


「神々の時代に、偉大なる『太陽神(ラー)』は、不信心な人間を懲らしめるために破壊と灼熱の太陽と疫病の女神『セクメト』を生んだ。

 しかし、それは失敗だった。『セクメト』は不信心ものだけではなく人類そのものを滅ぼしかけた……」


 千も小野もこの時代の神話になど興味はない。だが、必要な話なのだろう。

 イムは他にも護衛や人足を連れてきていたが、ゆっくりと歩きながら喋る。距離を取っていた。彼らには聞かせないように。


「運よく、『今は疫病が流行っていない』。しかし現状の干ばつは、いつ『セクメト』になってもおかしくはない。

 偉大なる『ラー』は『セクメト』を遣わせたことを悔やみ王神の座を退いた」


 千も小野もイムの言い方に違和感を覚えた。

 『セクメトになってもおかしくない』……?


「イム……『セクメト』は『神』ではないのか? 比喩なのか…………歴史、あるいは」

「『災害』ってことなのか?」


 千と小野は打てば響く。過去の災厄を忘れさせないための例え話。千は『妖怪』を思い出さざるをえない。

 イムは満足したように頷いた。


「神官と王神のみが見れる『歴史書』にはな、一部の『神』や『オシリスの見つかっていない部位』などの位置が記されている。…………そして、エレファンティネの近くには『セクメト』が眠っている」


 千と小野、二人の表情が引き締まる。二人の想像は誤りだった。『災害』ではない。例え話でも何でもない。

 眠っている…………『存在』しているのだ。


「分かるな? 『セクメト』を使えば『神々の王(ラー)』ですら追い落とせる」

「『大量破壊兵器』なのか?」

「そう伝わっている…………『神々』は最も古い【客人(マレビト)】だ。彼らは幾つもの知識と、兵器と、祝福と、女王陛下を残した」


 千も小野もトンデモ系の歴史分野など知らない。ここにちどりか袖搦(そでがらみ)が居たら理解したかもしれない。

 『来訪者説』非常に高い知能と技術力を持つ存在によって、人類の文明は引き上げられたというオカルトだ。彼らは火星、アトランティス、遊星などから来たとされる。教えの後に去ったとも。


「ネヘプが『セクメト』を探している証拠はあんのか?」

「この『暗黒』だ。『歴史書』にある。『正しき道を歩まぬ者よ、その先に待つのは暗黒の顎のみである』。

 管理者側の『歴史書』にも同じ記述があるならば、ネヘプは『使い方を誤るな』というだけの警告と誤解した」


 千は頷いた。


「イムを指名したのは【王神】では無くネヘプか?」

「ネヘプは私を敬愛している。だからだと思った。仲の良い教え子に顔を見せてほしいと頼まれた程度だと思っていた」


 だが違った。ネヘプが欲しかったのは神官長の知識だった。


「『歴史書』は保管場所ごとに内容が異なるんだろう。管理者だけでも神官だけでもピースが揃わない。ネヘプはイムだけが持つ情報を持たなかった。だから失敗して、この地割れを作った。

 そしてイムは、ネヘプの叛意(はんい)を確定させるために『セクメト』を探している」


 イムはいい。千は思った。『探偵みたいだ』って言わないし。


「そうだが、少し違う。『もう見つけた』」

「…………マジかよ、何もないぞ?」


 困惑する小野。千は(かぶり)を振った。当たり前だ。何がどう隠されているのかすら分かって居ない千たちとはそもそも前提知識が異なる。


「王神陛下に伝えておかねばな。書記と神官は別にせねばならない」


 この時代には二つの文字が存在する。神性で難解な、暗号の如き象形文字『ヒエログリフ』と一般利用の『ヒエラティック』である。

 さらに時代が下ると民衆向けの『デモティック』も発達するが、それはまだ存在しない。


 この違いを理解するのは極めて困難であるが、日本人であれば比較的容易である。

 神聖なる『ヒエログリフ』は『太古の日本文字』。高位の者たちが記録に使う『ヒエラティック』は漢字。そして大衆向けの『デモティック』はひらがな・カタカナである。


「ここの岩に『ヒエログリフ』が刻まれている」

「…………刻まれているな」


 崖っぷちの岩の一面がきれいな断面でスパっと切られ、人形のような絵が刻まれていた。

 極めて危険な位置である。覗き込むには体を乗り出さねばならない。


「これは『正しくない道』。『セクメト』の息子、冥府で罪人を裁く王神の監視者『ネフェルトゥム』の『ヒエログリフ』だ。

 ネヘプは誤って起動し、『暗黒』を作った」


 日頃穏やかなイムの顔に、不快感と怒りが交じる。


「ネヘプは自分でやらなかったのか」

「そうだ。神聖な儀式を他人に任せ、それを失った」


 『ヒエログリフ』側に立っていたものは、間違いなく地割れに飲まれて奈落の底である。


「どうすればいい?」

「アマタとポロムの力を借りる。この岩を正しい方向に動かしてから儀式を執り行なえば、この『暗黒』は閉じ、代わりに『セクメト』への道が開かれる」


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