20218 決裂
「アタシが『洞窟』で捕まってた時に、ホラ、テッサと一緒に……」
「いや、マジで知らんけど……他人の空似じゃない? あたし『一回目』未参戦なんだけど……」
首をひねるクリス。しかし、すぐに考えるのをやめた。分からないことは考えない性質なのだろう。
「ま、いいか。そっちにいる【互助会】メンバーは?」
「袖搦さんだ。【互助会】は何人くらい居るんだ?」
「ん……二十人くらい? 知らんけど。でも袖搦なら大当たりだ。ツバキ、ここは任せるから」
クリスに連れられて、奥の部屋に。『神殿』に努めている現地人に声をかけて、クリスは人を呼ばせた。
「鶴来翔斗です」
やってきたのは大学生くらいの青年だった。かなりハンサムな部類である。
短く刈った髪と、神経質に第一ボタンまで止めたワイシャツ。真面目な堅物に見えた。
「まずこちらは、一応僕がリーダーということになっています。目的は【ドラゴン】討伐」
「こっちの頭はこいつ、探偵の目貫千だ。あたしは小野。【ドラゴン】討伐は一緒だな」
「小野…………失礼ですが、僕と同じ顔をご存知では?」
「は?」
それは奇妙な質問だったが、事情を知るものにとっては当然の言葉だった。翔斗には双子の弟がおり、その人物は小野と知己のはずだった。
怪訝な顔をする小野に、翔斗は頭を振った。
「失礼しました。情報を交換しましょう」
椿姫、クリス、翔斗の三人は最初からこの街の近くに居たという、街の状況とネヘプを確認し、彼こそが【ドラゴン】であると確信していた。
「そもそも、ダムを作って水を確保し、上水道を整備するとか。紀元前とは思えない」
ちなみに古代ローマは紀元前三世紀には都市に水道を張り巡らせ、モヘンジョダロは紀元前二十世紀頃に上水道を作っていたとされている。が、知らないものは仕方ない。
「【ラストイル】の話を憶えてる? 『六つの時代、六つの分け身』。アタシが元から『呪術師』だからだと思うけど、ある程度の話は理解できた。
あれは【狩人】を六等分して、この地域の各時代に派遣するってこと。
倒すべき【ドラゴン】は最も影響力のある一人でいい。つまりこの時代だとネヘプって奴だ」
シスについて、クリスたちは何も知らなかった。
「何も分からん」
「その女王様こそ【ドラゴン】なのでは……?」
「ちなみに袖搦さんと他に二人。ネヘプに丸め込まれて戦意喪失してんぞ」
結局、千たちもシスへの対応は決まっていない。彼女が何なのかは分からない。
「クソロリビッチタイプか……?」
「クリスさん、言い方」
「クソロリビッチ?」
「クソみたいなロリータファッションのビッチが居るんだよ」
そいつもまた【狩人】であるため、いずれかの時代にいるはずだとクリスは警戒していた……。
彼女の末路については情報共有されていない。
「何にせよ、あのネヘプってのは殺る」
「…………」
千は黙り込んだ。クリスたちは……この街にしばらく潜伏しているはずなのに、それでいいのか?
管理者を、優秀な指導者を失ったら、この街はどうなるのだ?
「情報ありがとな、探偵。もういい、後はアタシらが殺るから」
「どういう意味だ?」
「言葉通りさ。ショートはともかくアタシとツバキは叶えたい【望み】がある。そのためなら誰かを不幸にしてもいい」
「許容できない」
「傲慢じゃないか? 人間生きていくだけで他の誰かを食い物にしてんだ。『許し』なんて要るものか」
傲慢で結構。千はそれでも、自分の生き方を変えたくはなかった。
「鶴来さんだったか? あんたは平気なのか?」
「翔斗でいいですよ目貫さん、僕の【望み】は『前回』叶っているから……その分他の人の【望み】を叶えたい」
「生き残ったのか!?」
ならば【ドラゴン】との交戦経験があるということになる、だが翔斗は首を振った。
「勝ち抜いたのは僕の弟だ。あいつは同じ【望み】を、より良い形で叶えた……負けたくないんだよ」
あまり闘争心の強いタイプには見えないが、兄弟となると違うのだろう。千にはよく分からないが。
「しかし、見た目によらないね。探偵は仕事は仕事と割り切れるタイプに見えるけど」
「【狩人】は仕事じゃない。強制労働だ」
そしてハードボイルドは生き方の問題だ。
それをかなぐり捨てたら千は千でいられなくなる。
「彼女さんも同じ考え?」
「こいつはゲイだ。彼女じゃない」
「ゲイではない。彼女でもない」
おのれ椿姫……千は心中穏やかではない。変な誤解を生む発言はやめて欲しい。
「ネヘプは二日後にならず者退治の遠征に出る。あたしたちはその隙を見て現地協力者とあいつの秘密を確かめに行く。
それ次第で、あたしと探偵さんはあんたらと協力するよ」
「何があったら、人を殺す決意なんてできるんだよ?」
クリスの問いは正論であった。あの『大地の裂け目』の奥に、ネヘプを殺すに足る理由があるとは、到底思えなかった。




