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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20213 クヌマトネヘプ

 強盗が居たとして、その行動に殺意がどの程度あるだろうか。

 ナイフを突きつけて「金を出せ」と脅迫したとする。そのナイフはどの程度使うつもりだろうか。


 多くの場合殺意はなく、ナイフを相手に突き立てる度胸は、ない。

 襲撃者たちは投石を持って脅迫し、何かを略奪するのが……例えば荷物や食料、奴隷を奪うのが目的だった。


 だから必要以上に相手を傷つけたくなかったし、お互い無傷というのが一番だった。すでに強盗という悪に染まっていても、殺人や傷害は積極的にやりたくない。極めて人間らしい判断だ。


「てめえも【ドラゴン】殺しだな!!」

「……見て分かるだろう?」


 襲撃者のリーダー格の若い男が振り回している紐を、探偵目貫(めぬき)(あまた)は注意深く見つめた。

 どう見てもただの紐だ。そして、その先端には重りがある。扱い方は2008年で使用した『石入り靴下』に似て見えた。


 だが、千は直前の異様に鋭い射撃を思い出す。あれは投石具だ。遠心力で威力を上げる道具なのだ。


「奪うのは! 俺らの本性だろうが! 蛮族どもなんてNPCだぜ!」


 若い男の腕が動いた。射撃のモーションに入る前に千は身体を動かしている。想定通りの射線。


「お前も楽しめよ! 殺すも奪うも犯すも!」

「そうだな。そうするか」

「えっ!?」「えっ!?」


 前と後ろで驚きの声が上がる。袖搦(そでがらみ)だ。千は立ち止まった。投石紐の男に背を向けて、袖搦を見る。


(殺していいか)

「め、目貫さん!? そりゃないよ!!」


 首をブンブン振りながら身構える袖搦、そうは言っても、千は殺すべきだと思った。

 少なくとも、あの男はクズだ。生かしておいて得があるとは思えない。ヤオがノックアウトしたヤキトをその場で殺しておけばよかったように。


「なんだよ、仲間割れか!!」

「いや」


 千は何もない空間に向かって中段回し蹴りを放った。教科書のように美しい軌道。インパクトの瞬間、足の甲に粒子が集まる。


「は?」


 真っすぐ飛んで行くドライバー。投石帯の男は一瞬目を剥いた。普通の人間ならできない芸当だろう。だが、今の千は普通ではない。【義体】が曲芸じみた動きを可能にしていた。

 そして、そんな曲芸で仕留められるほど【狩人】は甘くない。それは自分自身の身体の動きと、この数日の交流で理解していた。


 千と袖搦、『シャーク』と小野の四人は自分らがどの程度動けるのかを確認していた。簡単な組手だけでも、現実では困難な動きが可能だと判明した。

 そして、千と『シャーク』は二人がかりで袖搦と同格だった。殺し合いのない『試合』では袖搦は圧倒的だった。


 ただし、その弱点は明確だが。


 千は投石紐の男をドライバーの投擲(とうてき)程度で倒せる相手だとは思っていない。故にドライバーに驚いた隙をついて距離を詰める。


「て、てめ!!?」

「奪い殺すしか才能のないやつはぬるいな」


 眉間を狙って飛んできた石を払いのける。間髪入れぬ連射は外れ。いや、千が先ほどと同じ回避行動を取っていたら命中していた。


「ド素人め」

「ふっざけ!!」


 後僅かな距離、右側に飛びのける千、投石帯の男は千に石を乱射、その脇腹に。


「おっぐ!!?」

「確保」


 奪うのは命にあらず、その自由のみ。

 

 千のコートの陰に隠れていた袖搦が、呼び出していた刺股(さすまた)を一撃。刺股は先端がU字の長物だ。無数に飛び出た茨状のトゲは、殺傷目的ではなく衣服を絡め取り逃げにくくするためである。

 …………が、勘違いしてはならない。


 暴徒制圧用のゴム弾でも当たれば骨を折れる。木刀でも急所を狙えば人は死ぬ。

 では、先端を鉄で補強した刺股では?


「おげぇぇぇ……っっ!!」


 投石帯の男は肋骨をへし折られ、内臓を圧迫されて体をくの字に曲げ……られない。タンクトップごと体を引っ張られて転倒した。

 素早く滑らかに、躊躇なく刺股を手放した袖搦が、馬乗りになって腕を極めた。千は舌を巻いた。人間の制圧に馴れた動き。穏やかで無害そうな外見からは想像もできない。


 千は袖搦が手放した刺股を拾った。彼には【貸与】と呼ばれる能力がある。【武器】を他人に渡せるのだ。

 小野や千も【貸与】可能だが、『シャーク』やちどりは不可能だった。


「抵抗をやめろ!」


 投石紐の男との攻防は一瞬だった。その他の襲撃者たちは対応できず、振りかぶった石を手にあ然としていた。

 その時である。


「軍だ!!」

「うわあ!?」「逃げろ!!」「ヤバい!!」


 誰かの叫びに、襲撃者たちが我先にと逃げ出す。蜘蛛の子を散らすように。パニックそのもの。


「止まれ! 逃げたものは殺す!!」


 雷のような怒号が響く、それでも逃げる襲撃者たち、降り注ぐ矢の雨あられ。


「うわ……殺さなくても……」

「殺人を厭わない強盗団なら、仕方ないんじゃないか?」


 射抜かれ倒れる襲撃者たち、眉をひそめる袖搦。正直、千もいい気分はしなかった。

 だが彼は、死にゆくものたちを横目に近付いてくる男を睨んだ。千に負けず劣らぬ巨漢、美しく日焼けした壮健な傑物(けつぶつ)


 輝く装身具と、白い服の男は片手を上げて弓兵たちの射撃を止めた。彼が指揮官だ。


「盗賊たちの頭目を押さえたようだな。礼を言う。そいつには手を焼いていたのだ」


 羊の意匠の兜を脱ぐ、三十過ぎくらいの男だ。そこから発せられる異様な気配に、千の胸がざわついた。これは……恐れ? あるいは……?


「私はクヌマトネヘプ。この一帯の管理者をしている、よければ街まで同行しよう」


 にこやかに話すクヌマトネヘプ……いや、千は理解した。そうか、この男が、この男こそが。


「我々は【王神】からの使者、イムホテプの護衛だ」

「イムホテプ様の!? これは申し訳ない、知っていたならば礼を尽くした歓待をしたものを!!」


 イムの名前を出した途端に狼狽(ろうばい)するクヌマトネヘプ。せわしなく周囲を見て、衣服の乱れや汚れを気にする。

 ……きらきらと目を輝かせる彼を、千は嫌いになれそうになかった。


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