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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20207 ピラミッド

「ありがとお兄ちゃんお姉ちゃんたち! 優しいね!!」


 提案を受け入れると、シスは全員に熱烈に抱き着いた。探偵、目貫(めぬき)(あまた)は酷い罪悪感に苛まれた。自分は最悪この子を殺すと言ったのだ。

 シスはニコニコしながら『宣誓』のように片手をあげた。


「お兄ちゃんお姉ちゃんを祝福するから、名前を教えて」

「……小野だ」「袖搦(そでがらみ)叉刺(まさし)です」「ふ、ふへっ……た、立花ちどりでぇす」「目貫千……あっちの寝てるのはヤキト」


 順繰りに自己紹介する。最後に残った『シャーク』が少しだけ迷った後に口を開く。


行々子(ぎょうぎょうし)マノだ」

「オノ、ソデガラミマサシ、タチバナチドリ、メヌキアマタ、ヤキト、ギョーギョーシマノ…………【魂を(セム)統べる(バァ)女王(イシス)】の名において汝らを祝福する…………困ったら私を呼んでね。その時はシスじゃなくて【神聖名(レン)】のほう、【シンビウス】ってね」





「ここらは昔は見渡す限りの草原だった。だけれど、『河』が()き止められてからはご覧の有様だ。陛下がお告げを受けたと言ったときには半信半疑だったが……客人方と出会えたのは神のお導きそのものだ」


 浅黒い肌の壮健な男、イムはシスの前では地味で霞んでしまう男だが、極めて高い位置にあるようだった。

 何でも今代の【神王】の信頼が厚く、相談役で大臣のような存在だとか。


 神官長で書紀で建築家。

 どれも極めて尊敬される立場であるのに、その全てを兼任してる。


 【狩人】たちはシスとイムに同行し、人の多い街につれてこられた。驚くほどに人が多く、しかし活気はなかった。

 市民の殆どは日照りと飢饉(きが)に疲弊しきっており、皆一様に痩せ細っていた。


 シスは公務があるからすぐに別れ、イムは贈り物を用意した。馬車に詰め込まれた財宝と美しい奴隷。

 人間を贈り物にすることに関して、小野が少なからず不快感を示したものの、文化的な問題だからと袖搦(そでがらみ)がなだめすかした。


 ここでいう奴隷は技能者であり技術者だった。踊り子、楽器演奏者、大工、通訳、書紀。

 現代人の感覚だと理解しがたいが、『雇用者と従業員』という感覚が薄く、富裕層は『奴隷』として部下の家族や住居の世話まで行うもののようだった。


 イム自身の身の回りの世話をする奴隷と、贈り物にする奴隷、護衛も含めて三十人を越す大所帯、荷物は大型の荷馬車を使うが移動は徒歩だ。彼らの荷馬は馬よりもロバに似たずんぐりとした生き物で、騎乗には向かなかった。


 一同はネヘプの管理するという街に向かうことになった。十日の行程と聞いた時は凄まじい距離だと思ったが、全員の足並みを揃えるため進みは恐ろしく遅かった。

 【狩人】たちは精神的な疲弊はともかく、肉体的にはまったく疲労しない速度だ。


「客人たち、見ろ。あれが我らの王の威光だ!」

「ふひっ、ただの山じゃないすか」


 移動の途中にイムが、荒野の中にそびえる小山を指さした。

 進行方向にあったので、それがただの小山ではないと分かってきた。建築途中と思われる複数の石の神殿、その中央に座するのは石の小山であるのだが……。


「ピラミッドかな……?」

「ピラミッド?」


 千は首をかしげた。聞いたことがある気がする。なんだかまでは知らないけれど。


「知らないんすかぁ? ひひっ、ジグラット、ピラミッド、ストーンヘンジ、モアイ……古代の石の大建築でしょ? どっかの国の古墳」

「…………普通の人は知らないよ」


 賢明なる、偉大な読者の多くは高い知識と深い教養を持つため、ピラミッドとは何たるかをご存知のことだろう。

 ピラミッドは古代エジプトの巨大墳墓である。巨大な、六層にも渡る階段状の石の建造物で、一辺が120メートルもある四角形をしている事で有名だ。しかし……ある種のオタクや知識人でもないならば名前を聞いたことがある程度の知名度であることは否めない。


 なお、その構築に利用した巨大な石をどう運んだのか、そして極めて精密な石工技術や測量については、未だに謎が多い。

 世界一有名なこのジェセル王の階段ピラミッドは最終的に高さ60メートルに達するのだが、今現在は40メートル程度だ。


 超常的な測量と建築技術で作られた、正四角錐のギザのピラミッドなどというものは、一部のSF作家の作り出したたわごとである。

 現実的に考えて実在するはずがないのは、誰でも分かるだろう。


 しかし、それでも荒野にそびえる巨大建造物は見る者を圧倒した。千もまた、畏敬の念を抱かざるをえなかった。

 このピラミッドの製作者は現代ではこう残されている。古代エジプトの建築学の父、その偉業から神々に列する事を許された偉大な男。イムホテプ。


 すなわち…………イム当人である。


 であるのだが、残念ながら千たちの中に歴史や建築学に詳しい者はおらず、イムが歴史的偉人である事実は理解されなかった。


「労働力はどう確保しているんです?」

「公共事業だからな、農閑期の農民や、常備軍、富裕層から差し出された奴隷だ。

 軍人や奴隷はよく働く。ここでの働きが評価につながる」


 農民たちにとっては小遣い稼ぎ、軍人や奴隷は主人の評価に関係する。

 時間給の他に成果によってボーナスがでるシステムであり、ピラミッド建築で役立ち認められることは、主人の名誉になるのだ。


「ピラミッドは我が王の威光を示す記念碑であり墓所なのだが……」


 イムはさみしげに階段ピラミッドを見上げた。建造物は建築の途中で放棄され、時間外経っているのだろう。酷く虚ろで荒涼として見えた。


「我が王は偉大な建造物を作れる財力と権力があった。何よりも、平和を愛し、戦のない世の象徴だった。

 だが……日照りはいかんともしがたい。民への補償も必要だし、最悪ネヘプと戦になってしまったら、建築などしている暇はなくなるだろう」


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