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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20206 依頼


 しばらく泣きじゃくっていたヤキトだったが、泣きつかれて眠りについた。

 その頃には目貫(めぬき)(あまた)と【狩人】たちは疲労困憊(こんぱい)の体であった。


「こ、こんな風に私は【(バァ)】を扱えるすごい【女王(イシス)】なんだよ……」

「…………」


 千は袖搦(そでがらみ)を見た。彼は困惑の顔で(かぶり)を振った。二人の考えは同じだった。

 シスは……この超常の力を持つ少女は【ドラゴン】なのか?


「『そう』であり『違う』んだよ、これがね」


 答えたのはシス本人。意味を理解したのは千と袖搦、そして小野の三人。


「私は【王神(パルアー)】に【神権(ホル)】を与える【女王(イシス)】。【奉仕者(ヘム)】に【(イレト)】を与えるものでもあるんだけど。

 お兄ちゃんお姉ちゃんたちみたいな【客人(ディシディアン)】がこの地を訪れるのは二度目……少しだけ説明していいかなぁ」


 千は頷いて先を(うなが)した。シスは外見通りの無力な子供にしか見えない。彼女の部下であるイムは、そこそこやるだろう。しかし、格闘戦ならば千には敵うまい。

 結論から言うと、千たちの想像は正しく、行動は誤りであった。三人には判断基準になる【情報】が足りない。その上、友好的に接して来るいたいけな少女を迷いなく惨殺できる側の【狩人】は、話を理解できていなかった。


「ええとね、ええと……」

「神を信じぬ輩には難しい話だが、我が国では神が各街の管理者に御印をお与えになる。

 女王陛下は神の巫女であるため、御印を他者に授けています。これは、授与そのものが陛下の責務であるということだ」


「ふひっ、何言ってるかわかんねーし」

「なら黙ってろ」

「サーセンwww」


 少なくとも千は、イムがシスの責任を回避しようとしているのが分かった。

 【印】とやらが何なのかいまいち分からないが…………。


「死ぬか?」

「すまん」


 無意識に小野の下半身を見つめていた。先ほどのシスの手つきを思い出す。なんて羨ましい……千も尻を好きなだけ揉んでみたかった。

 千たちが【印】そのものを危険視しなかったのは、理由は不明だが小野が『持っている』からでもある。それゆえに特別な警戒に至らなかった。


「管理者の中には印の力を悪用するものもある。この日照りと凶作、干上がった河……すべてはメンヒトの管理者ネヘプのしでかした事だ」

「どうやってだ?」


 小野が不機嫌そうに尋ねた。シスの動きを見る限り、『魔法を使った』なんて言われかねない。


「日照りは自然現象だよ。だけど、ネヘプのお兄ちゃんは【(イレト)】で得た知識を使って水を()き止めちゃったの。

 おかげで下流域は全滅、難民が各都市を圧迫しているし、【王神(パルアー)】の威光は地に落ちてるし……【神様(ネジェル)】は人々の暮らしを豊かにするために【(イレト)】をお与えくださってるのであって、苦しめるためじゃないのにね」


 『悪いやつがいるから斃して欲しい』ゲームのオープニングだなと千は思った。その千とは違い、袖搦は乗り気のようだ。


「その……【印】というのは【情報】あるいは知識なのかい?」

「人によるけど、多くは知識。人々をより幸せにするための知識だよ。ネヘプはたぶん水回りだったんじゃないかなぁ。治水して氾濫を減らせれば、雨季の死者も減るだろうし」


 少し考え込む小野と袖搦。千はシスの他人事のような言い方が気に触った。おくびにも出しはしないが。


「女王陛下が授けたのではないのか?」

「言ってくれるねお兄ちゃん。でも私は【奉仕者(ヘム)】に【(イレト)】を与えるだけ。お与えになるのはもっぱら【神様(ネジェル)】だよ」


 善意の第三者を主張するシス。千の感覚的には彼女は罪のない少女である。しかし、直感的には違う。

 この依頼は怪しい。千たちを利用して政敵を排除したいだけの可能性が、極めて高い。


「少し、仲間内で話をしていいか?」

「イム、外に出よう……ちなみに言っておくと、私たちが頼みたいのはネヘプの排除じゃないからね。水の堰き止めをやめるように、イムがお願いに行くんだけど、その護衛かな」




 二人が小屋を出た所で千は嘆息した。自分の感覚は当てにならない。確実に、シスが上手(うわて)だ。

 彼女は高い確率で【狩人】らを利用するつもりだ。


「【ドラゴン】が『文明レベルをオーバーした知識を与えるマレビト』だってことは、【互助会】で聞いてる」

「ふひっ、あのお人形みたいなお姫様、まさにそうじゃね」


 引きつった笑みを浮かべべるちどり、千と小野が頷く。『シャーク』が手を上げた。


「あの子を殺すのは嫌だ」

「それは分かるが……その事は先回しでもいいんじゃないか?」


 小野の提案。彼女は先程からずっと考え込んでいた。


「【ラストイル】ってデカ女と、シスの言葉から推測すると、あたしらはやっぱり六等分されてる」


 シスは『【客人】が来るのは二回目』だと言っていた。


「あたしらがやらなきゃならない」

「袖搦さん、【ドラゴン】を殺したらどうなるんだ? オレたちは現代に戻るのか」

「【互助会】ではそう聞いてるよ」


 シスたちが来る前に、いくつかの細かい【情報】を共有していた。その中には【義体】のこともある。

 今現在の肉体は、この時代に作られた戦闘用のボディで、意識だけが入っている状態。破壊されたら意識は現代に戻ると。


「イムに同行して、ネヘプという奴を確認するべきだ。【ドラゴン】の疑いがあったら殺せばいい」


 千は酷薄(こくはく)に宣告した。そうそう無感情に誰かを殺せるのか? そう思う部分もあれど、それが最適解だった。


「シスはどうするんだ?」

「ネヘプを殺しても帰れないなら、シスの所に戻り次のターゲットを探す。それがないならシスを殺す…………そういうことになる」


 『シャーク』の目が、それまで一切見せなかった感情を映した。嫌悪と憎悪。千は甘んじてそれを受け入れる。どれほど憎まれても、受け入れるしかない。

 そんな提案を、千はしたのだから。


 『殺し奪うだけの百の魂』…………それなら、もっと心のない殺人マシーンを選んでくれ。千は心中で【ラストイル】に毒づいた。



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