20204 同じとは限らない
「俺の子も……いや、俺のじゃないが……あの子も……」
『シャーク』が目を見開き、大きな手で口を隠して震えた。人間生きていればひとつや二つは取り戻したい過去があるもの。
探偵、目貫千は警察を名乗る小男、袖搦の言葉を信じることにした。
【互助会】とやらは分からないが、少なくとも彼は信頼できる。
「【狩人】……私ら【ドラゴン】殺しをそう呼んでいるのだけど、【狩人】には少なくとも二つの年代がある。
2008年から来たものと、2024年から来たもの。私は2024年で、さっき言った話も2024年だよ」
「…………2024年?」
「ふひっ、なんでそんなに前なんすかね」「2008?」「何かあるのか」「おそらくはね」
周囲の反応から、自分だけが2008年だと気が付き。千は憮然と…………『何かある』。
「それだ小野さん」
「あ?」
「袖搦さん。【ドラゴン】は宇宙人か?】
「は?」
さっきから、突拍子のない変人だと思われてそうで嫌な気分だが、他の聞き方も分からない。
だからって、質問を肯定もされたくないのだけれど。こんな話はにわかには信じられない。
「どういう意味だい?」
「ふひっ……この人、ヤバいんじゃ」
千は苦く笑う。先走り過ぎた。
「『河童はまるで宇宙人』ってことなのか?」
「そうだ……そして、『同じ【ドラゴン】』かは分からないが、『【ドラゴン】の手先』だ」
千の言葉を、小野が正確に言語化する。どちらにしろ現実感がない。しかし、千は心の中で死地妊と美咲を案じた。
美咲の言葉通りだ。『便宜上そう呼んでいるだけで、同じとは限らない』『同じものを別の名前で呼んでいるだけかもしれない』。
,「袖搦さん」
「2008年に何があるのか……それは張井さん達も気にしていたよ。分からないんだ」
千は小さく息を吐いた。何かが分かったという訳では無い。結局何も分からない。
しかし、考えるべき事が見えてきた。
「オレには、その【互助会】に伝えるべき『情報』があるようだな。整理しておく」
『河童』『くねくね』『わいら』……そして何よりもヤオ。
彼女は、やはり小野の関係者だ。おそらくは近い血縁。そして、2008年より前の時代から来ている【狩人】。
彼女と出会うのは『三回目』……つまり、『次の時代』だ。
「探偵さんがいいならあたしから質問だ。……あたしは『前回』を知らないんだが、そんな事あるのか? あんたらは憶えてるのか?」
「ああ、山の中で怪物に殺された」「俺は鉄砲水だ」
小野の問いに千と『シャーク』が答える。
「私は犬の群れだったな」
「ノーコメント」
ちどりが唇を尖らせた。別に無理矢理聞くことでもない。問題はそこではないからだ。
「補充はあり得るのか?」
「あると思うよ。少なくとも『現代』で死人が出ていて、にも関わらず【ラストイル】のアナウンスに変更はなかった」
納得する小野、『現代での死人』に対して、誰もが驚かない。千自身もだ。
【狩人】がヤキトのような社会不適合者ばかりならば、いつ『不慮の事故』に遭ってもおかしくない。
「ちぃみたいに人畜無害な奴は珍しいって事すかねぇwww……ふひっ、弱いんで守って下さい」
「一つ、【ラストイル】の言で気になる点があるんだが」
人任せにして安全を確保したいのだろう。ちどりの媚びるような言い方を無視して千は続ける。
「『六つの時代、六つの分け身』と言っていたな……もしや、【狩人】も六等分されているのではないか?」
「だとすると、ここに居る六人で戦力の三割以上になんぞ」
「一人の価値が上がる。つまり立花」
『シャーク』名を呼ばれてちどりの肩がビクリと震える。
「【望み】があるなら楽はできない。無いなら今言え」
「え? ふ、ふひっ? どういうこってす?」
「『シャーク』くんの言う通りだよ。無理して同行する必要はないんだ」
袖搦が優しい言い方をするが、それは即ち『足手まといになるくらいなら来るな』という切り捨てである。
ちどりは引きつった半笑いを貼り付けて周囲を見るも、誰一人味方ではない事実を突き付けられただけ。
「えっ、ええと……サーセン……調子コキました、ふひっ」
「…………なら、立花。一つだけ聞かせろよ」
ヘラヘラ笑いながら頭を下げるちどりを、小野が不機嫌に睨む。
「使い方があるな?」
「へ?」
「『はい』か『いいえ』でいい。お前の【武器】…………ただの棒じゃあねーだろ?」
虚をつかれた。ちどりの表情がスッと消える。危険な兆候だ……戸千は思った。犯罪者が覚悟を決めた顔。
「隠し球があるなら、危ないときはお前よりも自分の安全を優先してもいいよな?」
「……は? ふひっ、それって……その」
そうでないなら、この面倒くさくて胡乱な女を守ってやるつもりだと、小野は言っているのだ。
千は舌を巻いた。なんてハードボイルドな女だ。
だが、その話はそこまでだった。
最初に動いたのは千で、次は袖搦だった。乾燥レンガ作りの家の入り口側に、静かに立つ。千が警戒をしている間に、袖搦が全員に静かにのジェスチャー。
「あれぇ? こっちから声がしたと思っんだけどな」
「ここいらの村人は皆避難していますから、居たとして野盗か旅人です。女王陛下がお気になされる程では……」
明るい少女の声と、たしなめる大人の声。日本語ではない。誰も知らない言語。
であるにも関わらず……全員がそれを理解していた。できていた。
「声もだけど……なんであの【鉄面皮】のニオイが…………あっ!」
小屋の外で明るい声。気付かれた? というか、何者なのか。【敵】か味方かも分からない。
「ちょうどいいよ、イム。この人たちに手伝ってもらおう」




