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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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20203 自己紹介


「あそこにレンガの建物がある。話はそこで聞こう」

「『あれ』はどうする?」

「…………すまんが手を貸してくれないか?」


 探偵目貫(めぬき)(あまた)が見つけたのは『溝』沿いの小さな小屋だった。

 『溝』は地面から一段低く、中心に向かってなだらかに下っている。幅は恐ろしく広い、数十メートルある。


 無愛想で不機嫌な『シャーク』の手を借りて、二人がかりでヤキトを運んだ。邪悪な男だが、あのまま日干しになるのは少しばかり寝覚めが悪い。

 乾燥レンガの小屋はドアもなく、外からみると半分崩れていたが、中は家具はないものの比較的涼しく快適だった。


「改めて、袖搦(そでがらみ)叉刺(まさし)です。【武器】はサスマタ。趣味はカードゲーム。仕事はお巡りさん。と言っても、ここではあまり意味がないね」


 アラフォーの小男が頭を掻く。千は身を固くした。穏やかだが気を許せないタイプだと思っていたが、警察とは。

 同様に、『シャーク』とちどりも身を固くする。後暗い所があるのだろう。


「小野だ。【武器】は……手斧だな。保険のコールセンター勤務」

「目貫千。私立探偵だ。【武器】は……見せないとダメか?」


 ただ一人、警察と聞いても抵抗感のない小野。彼女の気配はすこぶる健全だ。


「お互いの信頼関係のために、お願いしたい」

「仕方ない……『マイナスドライバー』だ」


 千の手に、ふわりと現れたのは、大型ドライバー。持ち手は六角形のプラスチック、金属部分は太さ4.5mmで、長さは12センチ。

 手に馴染んだ、護身用の武器。本物は荷物と一緒にバスの中だ。


「ふひゃっ! ドライバーwww! ひひっひ、ドライバーってwww!!」

「この【武器】ってやる気あんのか?」


 腹を抱えて笑うちどりは無視して、小野が自分の手斧を出した。ドライバー、手斧、サスマタ、オール、ステッキ……。殺すための道具にしては、なんというか心もとない。


「『シャーク』。【武器】はレイオマノ。湘南でハワイ料理店勤務」

「レイオマノ?」

「……サメの牙を埋めたハワイの武器だ。ハワイ人のハーフ」


 浅黒い肌と茶色い紙は、日焼けと潮焼けだけではないのだろう。『シャーク』の目はよく見ると深いブルーだ。


「ふふひゃっ、どこの部族のお守りだよ」

「お前、さっきから聞いてて不愉快だからちょっと黙れよ」

「ふひひっ、サーセーンwww」


 ちどりの卑屈さと、急に他人をくさす喋り方、そしてヘラヘラした引き笑いは確かに不愉快だった。


「……………………」

「お前の番だろ」

「黙れって言われたんでぇ……www」


 千は小野に一歩近付いた。このままでは殴ると思ったからだ。小野は音高く舌打ちした。


「このクソガキ……」

「ええ〜? ガキにガキって言われたくないんだけどwww? 小野いくつよ、中卒? 働いてっからっていい気になんなよ、ふひっwww」

「……29で高卒だ」

「え」「え」「年上か」


 三人目は『シャーク』それにしては肌艶が良すぎる。千は小野を十代だと思っていた。


「立花さん、話が進まないから」

「……た、立花ちどり。【武器】は魔法のステッキ」


 袖搦に諭され、少なからず怯えた様子でちどり。自分より下だと思ったら威圧してマウントを取り、男には卑屈に怯える。


「最後に、『それ』はヤキト。クソ野郎だ」

「生きてるけど、彼に何があったんだ。【転送】の失敗とかかな」


「『河童』に尻子玉をぶっこ抜かれた」

「尻子玉wwwふひっ、本気で言ってますそれぇwww」

「袖搦さん」


 千に呼ばれ、袖搦が困ったように(かぶり)を振った。


「いや、私に聞かれても困る」

「だよな、申し訳ない」


 千だって困っている。ヤオそっくりの小野、腑抜けになったヤキト。自分の【武器】は工具。

 帰りたい。いや、帰れない。ダメじゃん。帰る場所ない。全部投げ出したい。


「すまんが、まず一つ聞いていいか? 大事なことなんだが」

「どうぞ」

「オレはこうなる前に致命傷を負っていた」


 ワイシャツの腹には穴が開いている。血痕は無いが。


「想定した順番と違うけど、まずはそこから説明しよう。さっきも少し言ったけど、これはチーム戦だ。

 【ドラゴン】と交戦して生き残った者が【望み】を叶える。【互助会】長の張井さんも、開始アナウンスの朱里さんも【望み】を叶えたんだ」


 開始アナウンス……千は思い出してゾッとした。袖搦以外の三人も同様の様子。


「結論から言うと、助かる。【望み】で叶うのは『知識の獲得』『本人または別の誰かの改造』『過去の変更』。

 張井さんはゲーム会社の社長なんだけど、自分のゲームをバカ売れさせた。そのゲームは『ラストウィル』……知ってる?」


 千は肩をすくめた。頷いたのはちどりひとり。


「朱里さんは『一回目』の情報不足に苦しんだから、情報を確実に得ようとした……人間の脳には負担が大きすぎたみたいだけど。

 他にも、少なくとも二人は【望み】を叶えている。一人は自分の連続殺人をなかったことにして、もう一人はオーディション番組の内定をもらった」


「ふひっオーディションっすかぁwww?」

「…………」


 一笑に付すちどり。千は嫌な気持ちだ。この女、ちどりって千鳥だろう? 『千』つながりという共通点がこんなに嫌なことってある?

 ノーブラロングTシャツでほどほどおっぱいも大きいのに、不潔な外見と胡乱な性格のせいで嫌悪感の方が大きい。それに対して小野はいい。大変いい。スーツに窮屈に押し込まれたおっぱいは大きいし、堅気で地味で口さがない友人感覚の距離で、頭も倫理観も良くておっぱいがデカい。


 それはともかく、千に言わせればオーディションまでという辺りに、その人物のプライドと自信を感じる。

 だが、それよりも問題はその前だ。


「殺人をなかったことにした……?」

「正確には不明だけれど、少なくとも警察とネット上の記録からは消えているらしい。本人と連絡は取れていないんだけど」


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