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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第二章 仇国の魔女

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000000 【ラストイル】









 死の淵で夢を見た。



 死ぬ時は、死の世界は虚無だと思っていた。その先は何もなく、一切の光も許さない。どこにも届かない。たどり着けない。

 結局何もかも、半端なままだった。何一つ手に入らなかった。ここが終着点。行き止まり。




 そのはずだったのに。

 




 どことも知れぬ闇の中を堕ちていく。

 いや、闇ではない。


 全方向に、右も左も上も下も、前後すら存在しない周辺のすべてが、無限に続く暗き暗黒物質の虚無と、万色に輝く星に囲まれていた。

 そこにあるのは死の虚無ではない。もっと違うもので……だがそれが一体何なのかまでは分からない。



 思索する暇も、推理する時間もなかった。

 そこには答えがあった。



 細やかな疑問など、絶対的で圧倒的な存在を前にしては無価値である。

 『それ』は完成であった。圧巻であり、無謬(むびゅう)であり、絶後であった。


 沈魚落雁(ちんぎょらくがん)傾城傾国(けいせいけいこく)。どれほど言葉を並べても、それを前には無意味であった。

 適切な言葉を有しないほどに『美』そのもの。そこに人生の答えも、宇宙の意味も、人類がどこから来てどこへ行くかも包括されている。


 左右非対称でアンバランスなシルエット。均整取れた無比の肉体。二次性徴直前の、女になりきらない固い蕾のごときなだらかな流線型フォルム。

 光輝を背負った存在は少女だった。回る青球を捧げるように右手に有した。そう。有していた。『青球』―――地球は、彼女の所有であった。




《殺し奪うだけの才の果てたる百の魂の一つに、再度告げる》




 荘厳にして異質。『それ』をなんと呼ぶのか知らぬものはおるまい。

 左右非対称の少女。アーモンド型の右目と、閉じた左目。輝く瞳は火眼金睛(かがんきんせい)


 無垢の赤銅のように輝く肌に、青く輝く左右非対称の幾何学模様が縦横無尽に駆け巡る。

 額に嵌めた金輪から伸びる六本の角。重機のように肥大し無骨な金属の左腕。そして膝下から先が簡素な木杖に置き換えられた左脚。


 半身を喪失で形取った、隻足隻腕単眼の鬼女。

 だがそこにはアシンメトリーを屈伏させる繊細な美のバランスが存在している。そしてその美こそが、左右非対称の少女に置ける、最も際立った異形なのであった。




《汝らの魂に刻まれた【武器】を取れ、残る六匹の【ドラゴン】を殺せ》




 音のない声。絶対真空の宇宙空間に偏在する暗黒物質を振動させて伝達する【意味】。人類には把握しきれない【情報】を圧縮した【意味伝達】。




《……私は【最終意志障壁ラストイル】》




 知っている。

 何故なら、この風景は初めてのものではないからだ。一ヶ月前、ここに来た。そして、山の中を駆け回り、死に至った。


 あれは夢ではなかった。

 目前の【ラストイル】の圧倒的現実感。彼女を前にしては、これまでの人生すら夢幻(ゆめまぼろし)(あくた)に霞む。




《六つの時代、六つの分け身を撃滅せよ》




 【ラストイル】の宣告は、初回に比べれば親切なものだった。しかしそれでも、必要な情報の一切が欠けていた。

 結局彼女は人類と、存在の格が違い過ぎた。生物としての次元の違いが、決定的な断絶を生んでいた。




《汝らの一つが、審神者(さにわ)を申し出た。それに発言を許す》




 さにわ……神道における神の言葉を預かるもの。いわゆる預言者である。

 いかなる事があったのか途中退場者には分かるはずもない。


 ただ、何者かが……【ラストイル】の不首尾にしびれを切らした一人が、その言葉を情報を、噛み砕こうと努力しているのだ。

 そしてその末路が。ここに。







《SMBSSSEGPTPLMDIDISNKNCKPLMDSMBSSSCMTIMHTPKNMCOPSHTSPSTTTMSAMNHTPNPLTTCTNCMNACENATNRMSSMNFTHSMBSS》






 一切の意味を成さない女の絶叫。

 完全に狂気に堕ちたその悲鳴はすなわち、審神者を申し出た何者かが【意味伝達】の情報量に耐えきれず発狂したことを意味していた。




 畢竟(ひっきょう)。一切の情報もなく、【狩人】たちは第二の戦いに繰り出される……。




      武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部

        第二章 『地底の銀河』



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