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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
序章 2008年の暗夜行

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20018 やったか


『ぅあああああんん』


 左手側が斜面、少し開けた場所。それでも日は完全に暮れた今、星の光は木々が遮り、かすかな月明かりだけでは余りにも頼りない。

 『わいら』『ムジナ』『獣』……何でもいい、この戦闘機械を、探偵目貫(めぬき)(あまた)は『わいら』と呼ぶことにした。


 『わいら』の感覚器官が何なのか分からないが、本体がこんなにもうるさいし、臭いのだ。視力か、あるいは別の感覚が鋭いと千は考えた。

 少なくとも軽自動車大の体の両側には、こぶし大の巨大な眼球が付いている。先程片方を破壊したつもりだが、痛覚やそれに類する器官はないのだろう。


 しかし、視覚があるのならばこちらには有用な武器がある。


『おおおおおおん!!』


 『わいら』の移動速度はそこまで速くない、図体がデカすぎるのだ。人間と変わらない。

 藪から飛び出した巨体。千は音と臭いから大体の方向に見当をつけていた。


 飛び出してくると同時に、フラッシュライトを最高光度で向ける。暗闇に浮かび上がったのは、腐敗した毛皮と皮膚をつなぎ合わせた異形のフランケンシュタイン。

 美咲ならばこれを何と呼ぶだろうか。千は左に飛んだ。


『おおおおおおおおんんん!!!』


 頭上を通り過ぎる白い弾丸。発射点は口腔。人間を丸呑みできそうな口腔をすぼめていた。つまり、 見えていれば対処も可能。


『おおおおおんん!! おおおおおん!!』


 連射。千は反対側に飛び射撃を回避。形はカエルのようだが、その移動はナメクジのようだ。たるんだ皮の下に無数の足か、ぜん動する部位があるかのような。

 光を当てながら移動する。接近して振り回されるフック状の前脚をくぐる。


「『アナグマ』!!」


 ポンプのようにうごめく『わいら』。射撃のために空気でも集めているのか。

 大音量で流れる往年の名作探偵ドラマ主題歌の着メロ。千は悲鳴を我慢した。目覚ましアラームをこれに設定していた!! これは! 自分の趣味が探偵ものだとバレてしまう!!


「うおおっ!!」

『おおおんんん!』


 口部をすぼめながら、『わいら』が着メロの発生源に身体を向ける。『アナグマ』が投げた千の携帯電話。

 撒き散らされる骨の散弾、携帯電話が粉砕されるのと、千が振り上げた『武器』が『わいら』の射出口に激突するのが同時。


 靴下に石を詰め込んだ簡易フレイル。その粉砕力は携帯電話の比ではない。

 砕ける感触と同時に、皮を破って骨の矢が飛び出す。射撃中にぶん殴られて暴発したのだ。


「うおっ、ロック過ぎんだろ!?」


 樹上から飛び降りてきた死地妊が、同じく石入り靴下を振り下ろす。落下エネルギーも加わり、凄まじい威力。人間なら即死だろう。


『おおおおおおおんん』

「さん。に。いち」


 音が変わって約三秒。死地妊を振り払って射撃しようとする『わいら』。鉤爪をフラッシュライトで払い除け、次の一撃を叩き込む。


『んんんんん』


 発射を許されず、射出のためのエネルギーと骨が内側で爆発。体中から小骨を生やす形で、『わいら』はよろめき、ぐにゃりと潰れた。


「やったか?」


 死地妊がとどめとばかりに追い討ちを叩き込む。『わいら』からは反応がない。

 案外あっさりとやれた……いや、相手の手札が分かっていて、想像以上ではなかったからだ。


 『わいら』がまだ他に隠し技を持っていたら……狩られていたのは千たちだったろう。


「マジでやりやがった」


 少し離れた、骨の射撃の流れ矢を受けない場所に隠れていた『アナグマ』。千がフラッシュライトで『わいら』を観察している間に、死地妊が『アナグマ』と、隠しておいた川瀬氏を引きずり出しに向かう。


 千は悪臭を放つ『わいら』をライトで照らして観察した。腐敗した毛皮と皮膚のキメラ。

 目玉に見えるガラス状の部位は小さな六角形の集合体だ。カマキリやトンボの複眼によく似ている。


 毛皮は腐った肉と脂にまみれて不潔で、じっとりと重い。内側を確認するには解体しないとなるまい。

 しかし、今の千はナイフなどの手持ちがない。解体は諦めるべきだ。


 口のような裂け目は、内側に無数の骨が(くし)状に並んでいた。だいぶ量が少ない。それを射出していたのかもしれない。

 だとしたら、あと二回もやり過ごせば射撃攻撃も弾切れだっただろう。


 千が二人から目を逸らしていたのは短い間。三分も無かった。

 千はこの奇妙な怪物が何なのか、それを調べていた。集中していた。それは、この先に必要な行動だった。


 『わいら』が一匹とは限らない。もう一匹遭遇した時のためには、調べておきたかった。


 言い訳にしかならないけれど。


「目貫!! 逃げろッッ!!!」


 死地妊の悲鳴のような叫び。

 振り向くと、彼女はおもちゃみたいに吹っ飛んで、木にぶつかって糸の切れた人形みたいに動きを止めた。


「Hey.普段の俺はgentleなんだぜ? 穴を殴らないんだからな」


 汚れたナイフを弄びつつ、黄色い歯の黒人が、闇の中から姿を現す。


「叩くときは平手に決めてる。殴ったら死んじまうからな」


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