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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃


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200017 最後の晩餐


「奴は人間を攻撃するが、殺意の程度は低い」


 ゆっくりと山中を移動しながら、探偵目貫(めぬき)(あまた)は自分の考えを披露していた。


 生物には生物の、機械には機械の強みと弱みがある。

 生物は動きが不確定であり、直感をもち、論理的とは限らない。つまり、正確で論理的な相手であるならば行動の推理ができるというものだ……。


「は? 人が死んでるぞ?」


 千の言葉に『アナグマ』が不愉快そうに唸る。多重人格者死地妊(しちにん)もピンと来ない様子。

 川瀬夫人は死んでいるし、骨の射撃は距離が遠くても肉に刺さった。至近距離なら大怪我だ。


「ただ殺す気なら、最初からあの射撃を使う。逃げる前まで使わなかった理由は以下のどちらか、あるいは両方だ。

 『リスクが伴う』『死体の損壊を避けたい』」


 両方の可能性が高いと千は感じている。リスクについては『アナグマ』は兎も角、『わいら』と直接戦闘した死地妊は理解を示した。


「あれが機械なら想像もしやすくなる。気になるのは動機か」

「名探偵かよ? だが機械に動機とかある訳ねーだろ」

「しがない私立探偵だよ」


 死地妊の皮肉を受け流しながら、千は言葉を探した。この場合は何ていうんだ?


「…………お前ら、SFは読むか?」

「読まないな」

「読むように見えるか?」


 妖怪に詳しいもう一つの人格、美咲なら読んでいるだろう。だが死地妊は絶対に読まない。千は断言できた。


「だろうな……SFで、たまにある展開だ。侵略型の宇宙人が偵察機を地球に送ってくる。

 目的は偵察だが、大抵はいくつか機能がつく」


「機能……『身を守れる』『飯を食う』とかか?」

「それと『現地生物への分析と擬態』もありあるな」


 死地妊はバカっぽいが、言っている事はまともだった。自己防衛と自給自足。長期間の偵察には必須の機能だ。

 そして、千は言いながら背筋が凍る思いだった。本当になんなんだ? 宇宙人か、異世界生物の偵察機なのか?


「あれが小動物の小骨を発射してきた理由はそれだろう。奴はこの山の中で自給自足して、『体』と『武器』を作ってんだろうよ」

「なるほど、『殺意は低い』な。大事な『素材』は可能な限り無傷で活用したいって腹か」


 『アナグマ』が唸った。川瀬夫人を丸呑みにしたのは、持ち帰って『素材』にするためだろう。

 本当は千たちもそうしたかったに違いない。しかし、思わぬ抵抗を受けて『武器』を使ってきた。


「それって、邪魔したほうがいいんじゃねーの?」

「やりようがない。俺達は逃げる側だ。警察にでも連絡も出来ないし、詳しく知ってるやつが……いや、そうか」


 居るではないか、詳しく知っていて、撃滅を企むやつが。

 ヤオが個人なのか組織なのかは分からないが、あれはそういう存在なのだ。


「野生動物なら獲物に手傷を負わされたらどうする?」

「執念深く追い回す。ロックに、絶対諦めず」

「あるいはもう絶対に手を出さない、だな」


 死地妊と『アナグマ』の答えはどちらも正しい。つまり、読めない。


「偵察機械なら?」

「目撃者は消すな」

「つまり、次は最初から『攻撃』が来る」


 三人は『目的地』についた。


「一応聞くが、正気か?」


 心底嫌そうな『アナグマ』。当たり前だ。迎え撃つなんて正気の沙汰ではない。


「ロックだな」

「危険と分かっているのに、移動中に背後から襲われるのはバカバカしい」


 死地妊はともかく、千の言う事は正しい。来ると分かっている危険なら、少しでも安全に対処するべきだった。

 ここでゴネて危険が減るのなら、『アナグマ』も無限にゴネただろう。しかし、彼の仕事は詐欺師である。シビアな考え方そのものが染み付いていた。


 彼の詐欺は著名人への当たり屋で、交通事故を起こし、隠蔽(いんぺい)を条件に金を取る。

 当然下調べと準備が必要だ。下調べを怠ったらどうなるのか……『アナグマ』は身にしみていた。


「『アナグマ』吸うか?」

「目貫さんはホープだろ? 俺はもっと軽いのが好みなんだ」


 自分のタバコを取りだす『アナグマ』。


「お前ら、火事には気をつけろよ」

「最後の晩餐(ばんさん)だ。大目に見ろ」

「やめろ! 縁起でもねえ!」


 千は本気だった。一服しながら靴下を脱ぐ。二重にして石を詰め、口を縛る。

 千は『アナグマ』に携帯電話を渡し、二人が隠れるのを横目に二本目のタバコに火を点けた。


 『最後の晩餐』は、冗談ではなかった。死に物狂いで戦わねばならないという予感があった。

 だがもちろん…………千は逃げ出したかった。


 こんな所で死ぬとか絶対に嫌だし、やりたいこともたくさんある。他の連中を差し出して命乞いすれば助けてくれるというのなら、千は幾らでも足でも舐める。

 もちろん無理そうなので、無意味に不様な真似はしないが。


 …………ここで千は一つ素敵な事を思いついた。そうだ。せっかくN県くんだりまでやってきたのだ。歓楽街に遊びに行こう。

 地元のM田では体面の問題もある。風俗店にお客としては入りづらい。というか、童貞だとバレたら面目丸つぶれだ。


 よし! 生きて帰って童貞捨てよう! 童貞のままで死ぬなんて絶対にゴメンだ。

 ヤオみたいな爆乳がいるといいな。髪は黒なショートカットで、細身で華奢な子が好みだから、最悪おっぱいはなくてもいいような……。


 真剣な顔で風俗店の事を考えながら、千は顔を上げた。風に乗って据えた腐敗臭が漂って来た。


「お出ましだな」


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