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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20338 グラス


「キャー!!?」「狼藉(ろうぜき)者ー!」

「キャー!! 裸の女!!?」


 門浦の寝所のドアを蹴破った(ばん)は悲鳴を上げた。肌もあらわな肉感的な美女ばかり数人、ほとんど衣服を身にまとわない淫らな姿で待機していた。


「待って待って、皆落ち着いて! 狼藉大歓迎!」

「そんな……初めてが五人相手だなんて……」

「神崎さんから聞いております、ウスイさんのお仲間ですか?」


 ひときわ美しく、同時に年嵩の女が毅然(きぜん)とした態度で話しかけてくる。

 蛮は小麦色の肌とトップレスのバストから目が離せない。


「ウスイさんのお仲間の方ですね!?」

「あ、はい! あなたはクフくんの……?」

「クフは無事ですか!?」


 食いついてくる女たち、裸の女に囲まれて蛮は状況が状況なのだけれど口元の緩みを抑えきれない。


「ぶ、ぶじですよぉ〜」

「なら、まだ王家復興の目はありますね、カドゥーラは『女王イシス』の寝所にいます」


 脳内がピンクに染まっていた蛮だったが、一瞬で血の気を失った。


「そこに! クフを行かせちまった!!」





「三人か、思ってたより少ねーな」


 クフ、佐香、美咲の三人が宮殿の最も高い位置にある、塔の最上階『天空の間』。

 街を一望できるその部屋は、常に奴隷によって新鮮な果実と水が届けられる。


 家具は長椅子とベッドしかなく、イシスがぐだぐだするためだけの場所である。

 緑の髪の美少女は悠然と長椅子に座り、果物を口に運ぶ。階段を登ってきた侵入者たちに少しも危険を感じていないかのように。


「お姉ちゃんたちも【客人(ディシディアン)】なら、カドゥーラお兄ちゃんのお手伝いを……あら? クヌムクフ……? へぇ、ふーん」


 長椅子には、ビール腹で脂ぎった薄らハゲの男と、緑の髪の美少女が座っていた。

 門浦とイシスである。イシスは三人の中に見知った顔があるのを見て、目を細めた。その表情は獲物をいたぶる猫に似ていた。


「お前の一族は滅びた。今後はカドゥーラを【王神(パルアー)】にするわ。なんで戻ってきたの?」

「…………その決定に不服があるからです」


 ふんぞり返った門浦に警戒しながら、クフ少年が答える。門浦はニヤニヤしながらグラスでビールを口に運んでいる。


「彼は臣民を酷使し、神聖な役職を侮辱ぶじょくしています」

「私が許可したのだけれど? 国民はすべからく奴隷として身を捧げるべし。そして神である私が神殿など不要と言っている。不服か?」


 この国の真の支配者は『王神』ではない。彼に権力を与える現人神【女王(イシス)】である。

 彼女の言葉は神の言葉。それに逆らうことは神に逆らうのと同じ。


「不服です」


 つまり、クフは神に反逆した。


「民にとって神殿は祈りの場、心の拠り所。であるならばそれを思いつきのように封鎖して娼館に変えるなど正気の沙汰ではありません」

「そういうとこ」


 イシスの指摘、クフは瞬きした。何を言われたのか理解できずに。


「保守的で、閉鎖的で、平和とか継続を重視するところ。

 私にとっての理想は革新的で無謀で、戦争や反乱を恐れないカドゥーラお兄ちゃんなんだよね」


「そんな……っ」


 絶句するクフを佐香が引き寄せた。その佐香の首筋に……刃が当てられる。


「というこってすと、もしやこの子は要りやせんでしたか?」


 美咲が手鎌を突きつけていた。佐香の顔が青ざめる。美咲は平然と、あるいは冷酷に佐香とクフを裏切った。


「ちなみにこの女、見た目通りでけー刀を使いやす。抜きが早いんでお気をつけて……」

「お前、出羽の女だな? 面白いやつを放置してたもんだぜ」


 裏切り……ではない? 平然と嘘を吐く美咲、この場を切り抜けるための行動なのだろう。

 門浦がいるならば巴静もいるはずである。佐香は様子を見る事にした。


 …………しかし、美咲の策略内容は分からず仕舞いになる。


「なるほどな……やれ」

「やっべ!?」


 美咲が佐香とクフを突き飛ばす。柱の陰からひどく冷たい目をしたスーツ姿の女、巴静が現れる。

 門浦はグラスを弄びながらニヤニヤ笑った。


「バーカ、舐めんな。そっちの女は酒だろ」

「……なんでっ!?」


「マヌケが。こんなに透明度の高いガラスも、あんなに質の良い酒も、この時代にはねーんだよ」


 佐香は蒼白になった。門浦の襲撃が合った時、そのまま放置したグラスと酒……!?

 あの場に居ない誰かの【武器】と考えるほうが馬鹿馬鹿しい。だったらもう少しちまちま飲んでいたはずだ。


 佐香の弱点は『出した酒は消せない』ことである。そして、グラスも意識しないと消せない。

 他の特殊型と違い、自分の出したコップの個数や場所も認識できない。


「ガキは殺せ、女は殺すな」

「はい」


 警棒による殴打、美咲は一撃で右手を打ち据えられて鎌を落とした。鳩尾(みぞおち)に一撃、顎に一撃。


「おげっ!」


 肩と背中にも打撃。美咲は自分の認識が甘すぎたことを思い知った。静は警察側、悪に立ち向かってくれる側だと、心のどこかで期待していた。

 しかしこの場で、美咲を叩くその動きに迷いはない。それどころか怒りと加虐心しかない。


「あぐっ! や、やめっ!?」


 左手で顔をかばおうと掲げたら、指を打たれてへし折れる。

 静は自分の不遇への八つ当たり気味に、美咲を叩きのめした。


「…………しかたねーな、ぶっ殺すか。クフくん、神の国で会おうね」

「サカさん……ッ」

「好きだよ」


 入口側には武装した兵士が居た。佐香はその顔面に、出したコップを即座にぶつけた。


「ぎゃああああ!?」「ぎぃぃぃぃ!!?」


 スピリタスを顔面で受け止め、目と鼻と口からほぼ100%のアルコールを吸収した兵士たち。悲鳴を上げてのたうち回る。

 クフを追いやり、佐香は仁王立ちで両手に酒瓶を呼び出した。


「自爆覚悟だからよろしくね、急性アルコール中毒は苦しいよ?」




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