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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20337 弱者が積んだ瓦礫の山


 神崎とマツの戦いは一方的なものになるはずだった。


 マツは素手、神崎はトンファーを持つが、それで埋まるような身長体重反射神経運動性能動体視力格闘技術ではない。

 神崎が何かするより早く、マツの拳がその綺麗な顔をぶん殴り、鼻、顎、頬骨、眼底を粉砕骨折させるはずだった。


 神崎がマツに対抗できるのは覚悟だけ。

 怪物と戦う勇気一つで、神崎は挑んでいた。


「なに……っ!?」

「きゃ……っ!」


 左のフェイントは通じず、右からのフックは粒子の力場に完全に防がれた。激しい衝撃に神崎が悲鳴を上げる。

 【盾】! 長月から【貸与】されたトンファーは【盾】としての効果もある。


 逆手に持ったトンファーは、その周辺に【盾】の力場を発生させる。

 つまり、格闘技や戦闘技術がなまじあるからこそ、間合いを見誤り防がれたのだ。


 【盾】の効果は極めて高い。マツは殴り抜けることもできない。神崎は拳を握って突き出した。

 ボクシングですらないボクササイズだが、右ストレートは思いのほか腰が入っていた。


「あだっ」


 神崎の拳を左手で払いながら、マツが距離を取る。


「…………」

「まさかマツお前、相手が【盾】持ってたからって【武器】を抜くような真似はしないよな?」


 拳を防がれたことでマツの目つきは鋭くなっている。神崎を油断のならない相手だと感じたようだ。

 釘を刺す笛吹(うすい)。マツは一瞥(いちべつ)をくれて舌を打った。そうしたいのは山々という顔。

 

「【盾】がなんだというのだ。そんなもの……その程度」

「もう一回、顔を狙う? 今度は素人には防げない速度で」


 神崎の挑発は効果的だった。マツは前に出た。顔面を狙った左ジャブを神崎がトンファーで防ぐ。

 右前への踏み込み。ブロックの脇から、頬を狙った右ストレート。


「あぐっ!!?」


 神崎の悲鳴、頬肉が歯にぶつかって引き裂ける、唇も割れた。たたらを踏むも倒れない神崎。

 良い根性だ。マツは神崎の輝く双眸(そうぼう)に魅入られた。目が離せない。いや、それはほんの一瞬だった。


 マツは追撃できなかった。バカげた理由で一瞬硬直した。


「う……ぅぅ……っ」


 神崎の美しい切れ長の目が潤み、宝石のような涙がこぼれた。口の端からは血の糸が引かれる。

 マツは下がろうとした。何だこの女は……何かおかしい。


「なんだッ、ヤバい……戦士ではない! だが危険だ……お前、『美しすぎる』ッッ!!」


 目が離せない!!


「ぅ……ぐぐ……っ」

「熱烈なアプローチだな」


 歯を食いしばって苦痛の喘ぎを我慢する姿に神々しさすら感じる。笛吹の煽りも遠い。

 マツは知らない。門浦も知らなかった。それ故に、術中にハマった。


 『精神攻撃系』【狩人】…………『骨抜き』のアンネ。『路傍の石』の美咲。そして『視線集中』の神崎。


「むっ!?」

「痛ぁぁ……でも、離さないから」


 マツが右腕を引こうとすると、異様な重量がかかっていた。これも、一部のものしか知らない使い方。

 【盾】で『掴む』。笛吹からの情報共有、『前回』鶴来(つるぎ)翔斗が死の間際に見せた足搔き。


 神崎の右手に粒子の輝き、【武器】が来る! 右を封じられているなら、マツは体ごと引っ張りながらボディを狙った。

 イルカのような流線的ボディ。戦士ではない肉体。マツの左フックに耐えられる腹筋はない。


「なにが! お前はなんだッ!! その顔を……!?」

「きゃ……っ」


 ボディを狙ったつもりのフックは、視線同様に吸い込まれるように顔面に叩き込まれる。【盾】をぶっ叩く形。

 訳が分からない、分からないからこそ、マツは左で連打した。


 【盾】越しでも重量はかかる、転びかける神崎。痛みの涙を流しながら、毅然(きぜん)とした目でマツを見つめる。


「そんな顔で! 私をッ!!」

「ぅぅぅ〜〜っ!」

「見るな!!」


 突然、マツの視界が開けた。これまで見えていなかったもの、聞こえていなかったこと、シャットアウトされていた神崎の顔以外の情報が洪水のように襲いかかった。

 腰に向かって抱き着く神崎。ゆるぎもしないマツ。身長は低くないが痩せすぎだ。片手で抱き上げられそうですらある。


 マツは自由になっていた右手を振り上げ神崎の背骨に叩きつけた。


「ぐぎゃッッ!!?」

「離せ! 怪物め!!!」

「がふッ!!」


 二度三度、四回目で神崎は離れた。その髪を掴み、マツは膝を叩き込む。


「……クク、ククククッ」


 マツは乾いた笑いを上げた。何をされていたのか未だに分からない。

 だが、鼻を砕かれ鼻血を吹き出す神崎からは、先程までの人知を超えた美しさを感じない。


「……は、はははは」

「げっ、うげ……っ、あっあ……ふふふ」


 笛吹が呆れたように笑う。神崎が鼻血と口からの血で、白い肌とドレスを赤黒く汚しながら笑う。

 尻もちをつき、手で傷ついた顔を抑えつつ、這いながら距離をとる。


「ふぅー…………訳がわからんが神崎、お前を侮っていた」


 マツは荒い息で、ゆっくりと神崎に近付く。何も理解できないが、この女は危険だ。


「うぐ、うふふふ……それが、最期の言葉でいい?」


 粒子がサラサラとこぼれ、神崎のナイトドレスが消失する。

 その下からは、白い裸形が現れる。モデルのようなスレンダーなボディバランス。マツは全身が熱くなるのを感じた。


「命乞いか?」

「え? 冗談」


 ガクガクと、生まれたての子鹿のような足で、神崎が立ち上がる。その左手にトンファーを握ったままなのは褒めていいだろう。

 まだ戦意は失われていない。


「いいだろう、殺してや……る…………?」


 マツの視界の中で神崎が横向きになった。違う。突然何もかもがぐんにゃりと歪み、マツは横向きに転倒していた。


「……………………あ?」

「痛ぁ…………よくみんなこんなことできるわね、げほっ、ごほ……っ」


 神崎の視線の先は、マツの下半身。先程笛吹に切られたパンツの、露出した傷…………そこに、美麗な装飾のなされた金細工が突き立っていた。


「ま、待て…………」

「そこ以外、私の力で刺せる場所ないし……あ〜……前歯折れてる、鶴来くんみたいになっちゃう」


 神崎の【武器】は……『毒』!

 マツは立ち上がろうとして腕に力が入らず顔面を石畳に直撃させた。


「く、こんな……こんな……!」

「力に頼るから、知恵に負けんのよ……痛たた…マツさん。あなたを殺すのは長月さんと(こおり)さんって人」


 圧倒的強者の高みに、弱者たちが積み上げた瓦礫の山が追い抜いた。

 よたよたと、しかし警戒を怠らずに笛吹が近づいてくる。マツは笑い出したかったが、笑うだけの力は毒によって残されておらず、ブルブルと震えるに留まった。


 だが、伝えるべきことは伝えなければ。


「…………悪くない闘争だった」


 銀星が尾を引き流れた。


 



 マツ、死亡。

 五対三。


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