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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20335 キャー、マツさんのエッチー(棒)


 狙い違わず心臓を串刺しにする一突き。

 マツの魔剣を笛吹(うすい)は回避しきれない。終わった。マツは確信した。


 切先は金属の胸甲を削り、なだらかな傾斜を滑った。

 笛吹の身体が光の粒子に包まれている。【防具】!!


「やはりかっ」


 マツは咄嗟(とっさ)闘牛剣(エスパーダ)を手放し首をすくめた。銀星が尾を引き流れる! 

 剣を手放すのが、あるいは回避があと一瞬遅れていたら、頸動脈を掻き切られていた。


「む……完全に釣れたと思ったんだがな」

「諦めが良すぎた。笛吹ならばあと三十分は粘るだろう?」


 鼻筋を横一文字に、上下に分割された。マツは鼻が通らないのを確認して舌を打った。鼻呼吸できなくなるのは痛手だ。


「【防具】を隠していたのはこのためか?」


 笛吹とマツの決闘は、他者の横槍を許さぬままに続いていた。

 笛吹の遅延戦術をマツが看破し、そして小賢しいと一蹴した。暴れ牛を挑発しながら体力をジワジワと削り、必殺の一刺しまで耐え忍ぶやり方は、闘牛士(マタドール)のやり方だ。


「最初に言った通り、可能ならば無傷で倒したかったからな」


 不遜(ふそん)な物言いにマツは笑う。【防具】を隠し通して、なおかつ無傷でとは舐められたものだ。

 いや、本当にそれが出来そうなのだから始末に置けない。


「ならばしくじったな」

「まったくだ……骨を断ち損ねた」


 鼻を奪われたのは、マツにとって痛手だった。しかし笛吹の傷はもっと深い。

 胸甲で滑った切先は、笛吹の左肩を抉っていた。筋まで切り込めたかは分からないが、ブレザーはしとどに濡れそぼり、ダラリと垂れた左の指からは血の雫が滴る。


「この後は仕方ない。【防具】も使って正面からやるしかないな」

「その傷で?」

「当たり前だ。そして作戦は変わらない」


 額を裂かれ、鼻を断たれた。なるほど、持久戦で体力を削るには。


「ふっ」


 銀星が尾を引き流れる!


「チッ」


 笛吹の下段突きは恐るべき速度でマツの(すね)を狙った。【防具】を切裂き、スッパリと皮膚を裂く。油断も隙もない。

 笛吹の全身が再び粒子に包まれる。先ほどはキチンと確認できなかった【防具】だ。


 真っ白な上下、本来フェンシングの装備は上から下まで白である。現在は電気信号でヒット確認をしているが、以前は剣にチョークや墨で色を付け、攻撃痕を確認していた。その名残である。


 しかし、笛吹のグローブとブーツ、胸甲、そしてマスクはファイアパターンに彩られていた。赤から青にグラデーションする図案は、彼女の名前『冷火(れいか)』を余すところなく表していた。


「…………待て」


 笛吹の突きを、マツは距離を取って逃れた。胸甲の形に混乱を隠せない。

 乳房の形、極めて女性的な流線的フォルム。


「恥ずかしいから着けたくなかったんだ。だが…………うん。小野じゃないが、悪くないな」


 軽く飛び跳ねる笛吹。左肩の傷は【防具】が包帯代わりになり圧迫され止血されていた。

 そして、胸である。笛吹はなんだかんだでバストがある。Dカップ、一昔前なら巨乳と呼ばれた部類だ。それをいつもさらしで固めていた。男装の一環として。


 【防具】の中ではおっぱいが解放される。これまで過酷な環境にて酷使されてきたおっぱいに、今安息の時が訪れたのだ。

 ジャストフィットの胸甲の内側にあり、圧迫感と不快感は皆無。そして揺れない。動きを阻害(そがい)しない。


「え? そういうデザインなのか? それとも……え?」

「…………エヘンエヘン! もしかしてマツは私のこと男だと思ってたの? ひどーい!」


「黄色い声を出すな! 混乱する!!」

「いや本当にすまん……変な声を出したせいで吐き気がする」


 いつもの低く抑えたアルトボイスに戻す笛吹。その声も、少年的というか少年ぶった女の声にしか聞こえなくなった。

 マツはムレータを振った。反応がコンマ秒遅れ、薬指爪の根元が切り込まれる。防戦一方のマツ、笛吹は彼の脇を通り廊下へ。そのまま走る。


「待て!」

「キャー! …………自分でやっててどうかと思ってきた。どうせマツは女相手でも手加減しないだろ?」


 急ブレーキからの鋭い突き、首の皮を一枚裂かれる。


「手加減せんな! 安心しろ!」


 エスパーダの突き、レイピアが絡め取る。三合の打ち合い。呼吸ができない、マツか下がるのと、笛吹のバランスか崩れるのが同時。

 左肩の傷が効いている。


「ふむ……我慢比べになるな」

「チキンレースだ。あと一秒持ちこたえたら隙が出来たのにな、気分はどうだ臆病者」


 挑発する笛吹、顔はマスクのせいでほぼ見えない。


「ククク、本当に厄介な奴だ。お前は本当に体勢を崩した」

「厄介はお互い様だよ」


 笛吹は挑発することで、崩れた姿勢が『誘い』だったと思わせたかったのだろう。もちろん、このやりとりの後でもその可能性はあるが。

 とにかく、絶対に油断できない。油断した瞬間に喉笛を食い千切られる。 


 二人はジリジリと移動し、広間に出た。煌々(こうこう)と明かりが灯り、兵士たちがざわつく中、笛吹とマツは血を滴らせながら、互いだけを注目して歩く。

 他に視線を向ける暇はない。目をそらしてしまえば、それは致命的瑕疵(かし)になり得る。


 故にこそ。


 銀星が尾を引き流れる!

 喝采を! 名誉ある死に喝采を!


 二つの魔剣が交錯し、血霧が飛沫(しぶ)いた。

 …………膝をついたのは、笛吹だった。


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