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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20334 お前は哀れな素人だ


「…………嘘でしょ? バカみたい、っていうかバカじゃん? なんで死んでんの? なんかさ、ホントさ……なんか、言う事なかったの……?」


 人間の死体だと認識するにはあまりにもボロボロな『それ』に対して、佐香は恨み言を投げた。ギュッと抱き寄せたクフ。震える身体。

 佐香の本心は言葉ではなく体の方だと、(ばん)は信じた。


「あーあ……この人がいないならやっぱりクフくんの力が必要になりそうじゃん」

「どういう意味だ?」

「『女王』の部屋と門浦の寝室の場所」


 内部の状況は不明だが、現状をよく知る宍戸の手引きを期待していた。

 それがこんな所で、こんなにあっさりと死体になっているとは。目元をガシガシ拭う佐香。蛮は掛ける言葉を持たなかった。


 【狩人】である以上、死後は現代に戻るだけだ。『本当の死』ではない。だけれど。


「……そんなに大事な人だったでやすか?」

「宍戸さんは2008年に死ぬんだよ」

「そりゃ……」


 言葉をなくす美咲、この人を頼ることになると蛮は考えた。現在の宮殿内部に詳しいはずだ。


「佐香さん、大丈夫か?」

「怒ってるけど、そんだけ〜」

「…………」


 精神的に不安定だ。いや、蛮は安定している佐香を見たことなどないが。

 いくら飲んでも酔わないと聞いた日から、佐香のメンタリティは信じられなくなった。


「クフ、佐香さんを頼むぜ」

「はい。僕が守ります」


 蛮は少し考え込んだ。そうじゃない。やってほしいことは。


「クフが死んだらそれこそ佐香さんは再起不能だ。『必ず二人で生き残れ』」

「…………はい」


 そんな三人を、美咲が冷めた目で見つめている。

 美咲もまた、『2008年に死ぬ』存在だ。そしてその死は、現代に戻るのと同時。確定している。


「内部ならある程度わかってやすが、案内しやしょうか?」

「そうだな。頼む。『女王』の寝室は変わらないだろう。佐香さん頼めるな?」

「やれる……と思う」


 『女王』は少女の姿をしていると聞いていた。それを佐香が殺せるのかという懸念はある。

 しかし、蛮が門浦を討たねばならない以上は佐香に頼むしかない。




 出発前の作戦会議で笛吹(うすい)は言っていた。


「オレがマツと戦って、勝率は高く見積もって二割だ。だからオレの基本戦術は足止めになる。オレが生きているうちに門浦と『女王』を殺れ」


 この言葉は冷酷な事実だった。

 長月もマツの危険性については口にしていた。


「蛮、門浦は『他人の【武器】を奪う』。つまり『相手に最適な【武器】を用意できる』……対処法は分かるな?」

「…………相手の想像以上の動きをする?」


 蛮の答えは笛吹のお気に召さなかった。

 不機嫌極まりない顔で蛮を睨む。どんなに苛立っていても美人だ。


「それができるのはオレだ。お前向きのやり方じゃない」

「……はい」

「相手に合わせるんだよ」


 蛮の【武器】バスタードソードも、使い方は類似している。

 『相手の出方に合わせて使い方を変えられる』。


「手数で勝て。門浦が持つ武器の数を上回れ、常に有利を保て。言うは易く行うは難しだが、蛮ならできる。お前は脳筋だが、スポーツに関しては誰よりクレバーだ」


 ここまで言われて、できないとは言えなかろう?

 やるしかない。蛮はそう考えていた。








「人間の内側には輝きがある。光がある。私はそれを見たいのだ。形にして残したいのだ。だから死ぬな、生きよ、輝きを見せておくれ」


 巌野のアトリエ、またの名を『屠殺場』。血と臓物のにおいの染み付いた暗黒のはらわたで、巌野は荒い息で作業をしていた。

 手には(パピルス)と木筆、尖らせた木材にインクを付けるシンプルなペンだ。大型猛禽(もうきん)が存在する地域であるため、羽ペンはもう存在した。しかし、巌野は鉛筆に似た形の木筆を自ら削って使っていた。


 現代から持ってきた鉛筆は、とっくの昔に使い物にならなくなっていた。貴重な紙とインク、そして人間の命を無遠慮に使い、巌野は死に(ひん)した人間のスケッチを書き殴っていた。

 その描画技術は現代においても目を見張るほど。芸術家としてのブランドもあるため、商品として販売できるほどであった。


「お前……巌野だったか? さっきから聞いていたが、人間の輝き……だったか?」

「……目が醒めていたか小娘」

「……薬物投与量が少ない。私は耐性がある」


 手術台に横たえられた長月。その身体は無惨な状態であった。

 手足は縛り付けられ、恐るべきことに腹は裂かれて内臓を並べられていた。


「悲鳴は上げないのか?」

「馬鹿馬鹿しい……悲鳴が聞きたいのか?」

「聞きたいとも。悲鳴はその人物の魂からの声だ。恐怖、生存本能、悲喜こもごも……根底には生命の輝きそのものがある」


 長月はクツクツ(わら)った。あからさまな嘲笑。巌野は顔をしかめる。


「何がおかしい」

「お前にそれを言う必要があるか?」


 巌野が作業台の上のナイフを取った。青銅製だがよく研がれている。


「この状態の人間を、脅迫できると思うのか?」

「痛みに勝てる者などいない」

「痛みを用いて引き出した言葉は信憑性(しんぴょうせい)に欠ける。人間は痛みから逃れるために何でもする」


 本当の拷問を知るものの言葉だ。巌野は長月が何者かは知らないが、それでも気圧されるには十分な説得力があった。


「哀れな狂人。芸術家のなりそこないめ。下手に技術だけは高い分、より一層に哀れだな」

「…………素人の小娘が、一丁前に批評家気取りか? 他人の言葉を借りるしかできん知ったかぶりの三流が……貴様ごときに! 芸術の! 何が分かる!!」


 ナイフが細い太ももに突き刺さる。しかし、巌野が期待した反応は一つもなかった。

 悲鳴も、うめき声の一つも、それどころか表情一つ変えない。汗すら浮かべず、長月は憐憫(れんびん)の目を向けた。


「芸術など知ったことか、素人め。自らの楽しみのために殺すド三流が。お前ごときに命の何たるかが分かるものか」


 こと、命の話になるのであれば。

 物心付く前から殺人の教育を受けてきた長月である。


 積み重ねてきた年月は巌野が上でも、その純度に関しては長月が負けるはずもなく。


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