表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/124

20332 貴女は我を守り給う


「王族だけの秘密の通路は知らないんですが」


 郊外にある石切り場、人力では絶対に動かせない巨大な石に、クフ少年は手をかざしながら続けた。


「『クヌム』の祝福を得たものしか使えない通路ならありました」


 【ドラゴン】から授けられた祝福で、クフは『石を歩かせる』力を持っている。

 そうして通れる『秘密の地下道』の存在は、かなり前に判明していたが、残念ながら通路の先は玉座の間への直通などではなく、霊安室だ。


 (ばん)、佐香、そしてクフの三人は笛吹(うすい)が正面から殴り込みをしている間に侵入するつもりだった。

 笛吹侵入の報告があれば、宍戸は霊安室に来てくれるだろう。そうしたら門倉の場所まで案内してもらう。


 蛮が松明を、佐香はランプを手にしていた。油は高価であるが、佐香には必要ない。

 この時代のランプは陶器製で、急須のような形をしている。口からは油のしみた紐が出ていて、そこに火をつける。


 佐香の場合は油ではなく、アルコール度数90%越えのスピリタスだ。いわゆるアルコールランプである。


「この地下道はなんなんだ?」

「『試練の道』……女王イシスに頼らずに『王権』を手に入れる方法だと聞いています。地下空間には迷宮があり、正しい道を進まないと危険な罠があるとか」


「…………その正しい道は分かるの?」

「僕は分かりません。分かる人が生きているかも……」


 門浦の暴虐により使い物にならなくなったということ。そうでなくとも、早晩存在を忘れられたであろう道であった。


「クフくん、出口まで行ったらキミはおしまい。一緒には行けないよ?」

「いえ、僕も行きます。僭王(せんおう)カドゥーラとは会わねばなりません」


 彼の男家族は皆殺しにされ首は晒され、女家族は奴隷に落とされ娼婦にされている。


「危険だ。守れるとは思えんぜ?」

「逆です。僕はどうなろうと、バンさんとサカさんを守らなければならない。僕は弾除けです」


 蛮と佐香が鋭い視線をクフに向けた。少年は平然と受け止める。


「僕は、王家の人間です。しかし、それはすでに打倒された王家であり、神が望んだ結果であるのならば受け入れねばなりません」

「…………」

「しかし、それでもカドゥーラの暴虐は見ていられないのです。僕は彼に王でいて欲しくない」


 クフの生き方を否定することは、佐香にも蛮にもできない。それは信仰だ。クフの、この時代の人間の生き方そのものだ。


「やだー!」


 だが、感情的に拒絶することは可能だった。蛮は『ダメ』ではなく『やだ』と即座に言える佐香を尊敬した。


「最悪、僕の首を差し出して命乞いの道具に……」

「ぜったいやだーーっっ!!」


 狭い場所で叫ばれると頭に響く。大声でわめく佐香に、蛮とクフは頭がクラクラした。


「クフくんはぁ!」

「サカさん。もしもカドゥーラを討ち果たした後、僕が生きていたら妻になってください」


 黙った。その直球の告白、蛮は言葉を失った。なんて男らしいんだ。格好良すぎる。真似できる気がしない。


「この二週間、佐香さんは僕を第一に考え、守り続けてくれました。縁もゆかりも無い、行動を共にしても不利益しかない僕を」

「でも、街の人たちと仲良しで、隠れ家貸してくれたりとか」


「そもそも、僕が居なければ隠れる必要はなかったのでは?」


 その通りである。門浦たちは【狩人】を探していなかった。


「僕からサカさんに与えられるものはほとんどありません。僕はただの子供ですから。命を懸けることが許されないのならば、愛を捧げることが精一杯なんです」

「…………クフくん」


 蛮はここに居てはいけない気がした。仕方ないので静かに口を噤むことにした。


「違うよ、アタシは〜。クフくんに悪いこと考えてる悪いオトナでね?」

「僕が許可を出せばそれは悪くないのでは?」

「…………ちがくて、ちょい待ち」


 佐香がロリコンでショタコンなのは本人の自己申告だ。間違いないと蛮は思う。

 問題があるとすれば、勝ち残ったとして佐香はこの時代から消えていることだろうか。


「…………ホントはアタシは、クフくんを好きでもなんでもないんだよ?」

「えっ!?」


 突然の手の平返し。蛮は思わず声を出してしまった。


「ガキの頃、おんなじように家族がみんな死んじゃったから……同情。かわいそうなクフくんを哀れんで、気持ちよくなってただけ」

「それでは、僕の愛そのものはご迷惑でない?」


 蛮には二人が理解できない。どういう流れ?


「『客人(マレビト)』は神々の世界から来ていると聞きます。戦いが終わったら消えてしまうのではないですか?

 サカさんは優しい。この約束は現世の互いを束縛しません。死後、僕らは神の世界に旅立ちます。そこで待っていてくださればいい」


 この後離れて、他にいい人を見つけてもいい。なんて都合のいい言葉。何が嫌なのか蛮には分からない。


「はいと言ってくだされば、サカさんは未来永劫、僕の第一夫人です」

「あああ……もう、アタシの負け〜。こんなちゃらんぽらんで幼児愛好なアル中の重くてジメッとしたダメ女でもいいとかどうかしてるよぉ」

「ふふっ。僕をおもんぱかって、距離を置くための嘘を言うような女性ですよ」


 全肯定の笑み。完全に佐香の負けだ。


「僕の名前はクヌムクフ。『クヌム神は我を守り給う』という意味です。なんなら『サカクフ』に改名しても……」

「もう負けだから、勘弁してぇ〜……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ