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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20330 旧交を温め合おう


「闘争だ。もう一度、いや何度でも、血が沸騰するような、魂を削り合うような闘争が欲しいのだッッ!!」


 ベッドから飛び降りたマツの全身が粒子に包まれる。


 振るった右手に二秒で現れる、刃渡り2フィート半の片手用刺突剣、闘牛剣(エスパーダ)

 左手には長い棒に赤い布の垂れ下がった挑発布(ムレータ)


 頭には牛革製のハット。編み込みブーツ、金糸が散りばめられたライトブルーのジャケットと濃紺のパンツ。光の衣(ヴェスティード・デ・ルセス)と呼ばれる闘牛士(マタドール)の正装だ。


 マツの顔色は悪い。血が足りず、体力が回復しきっていないのだろう。


「顔色が悪いぞ? 化粧でもしたらどうだ?」


 笛吹は部屋の隅の香炉を蹴り上げた。煙と灰が舞い上がる。マツはムレータで薙ぎ払い、その間に笛吹は部屋を出た。

 追いかけてくるマツ、曲がり角で待ち伏せ。その顔面を狙って二撃。避けられる。


「なんだなんだ? 直接やるのは怖いか?」

「当たり前だ。可能な限りお前を無傷で倒さないと、門浦が控えているからな」


 ジリジリと後退、悠然とマツが顔を出す。


「つまらんなぁ……大事なのは今だろう! 今! この闘争以上のものなど! この世にあるか!!」

「ふふふっ。マツはシンプルでいいな。だが、【防具】も【盾】もある相手だ。賢く立ち回らないと勝ち目はない」


 突き出されたエスパーダをレイピアで捌く、三合の打ち合い。速度では圧倒的に笛吹が勝るが、力では劣る。そして何より忸怩(じくじ)たるものがあるが、技に関しては大きな差を感じない。


「【防具】がない……? それはあり得るのか?」


 ジャケットの袖を確認しながらマツが呟く。袖を切られただけ。お互いまだ無傷。

 このやりとりは笛吹にとって確認だった。神崎が敵味方どちらなのか。『前回』原始の戦いで笛吹は【防具】はないと発言した。実際利用していない。


 神崎が門浦に完全に協力しているならば、笛吹がいると知ったパレードの時点で情報を共有するだろう。つまり神崎は味方である。

 笛吹はジリジリと距離を取り、通路を走った。追いかけるマツ、笛吹は走りながら壁の松明の一つを掴む。


 振り返りながら松明を投擲(とうてき)、マツは左手のムレータで絡めて打ち落とす。


「あるんだよ、これでも二十人以上【狩人】を見てきたんでな」

「ほう……お前より強い奴はいたか?」


 踏み込み、切り込む。小柄な身体をムレータの陰に隠し、超低空水平切り。


 非現実的な挙動、人間では対処不能な速度。剣士(フェンサー)笛吹火嵐(フラン)の奥義である。来ると分かっていても防げない。

 だがマツは人間ではない。【狩人】だ。


 笛吹が視界から消えると同時にマツは跳ねていた。斬撃はブーツの先端を裂くに留まった。


「ムカつく話だが、片手で数えられん数がいたぞ」

「信じられんな!!」


 管金(すがね)後虎(アトラ)、八角、堀、モア、梅宮……そして【幹部級】の【敵】。

 超人的な下半身のねばり、カエル跳びアッパーのように、ロケットの如き追撃打ち上げ。


「やはりこちらについて正解だったな」

「どうだか? 一番強いのは【ドラゴン】だったぞ」


 ムレータで絡み取られ、代わりにエスパーダで打ち返される。頬に傷、髪が数本舞う。

 着地するマツ、踏み込む笛吹。剣を手放し左手で目潰し(サミング)。攻防。距離をとって剣で打ち合い。


 切先同士が火花を散らす。


「なんでもいい。このリベンジマッチができるならそれでいい。勝っても負けても」

「なら勝たせてくれよ」

「冗談!」


 距離を取り、走る笛吹。追うマツ。動きに僅かな遅滞。ブーツの下の指か足の甲に切り込めていた。

 時間だ。持久戦こそが勝利の鍵だと笛吹は考える。


 『前回』……原始の戦いで笛吹とマツは初日の山の中で相対した。

 戦いは速やかに終わった。お互いに名乗り、武器を合わせ、真正面からの決闘だった。


 今回も終わらせようとすれば早いだろう。

 だが、それでは勝てないと笛吹は考える。【ドラゴン】の眷族(けんぞく)になったマツの戦闘能力は前回の比ではない。


 ここで正々堂々とした決闘をした場合、負けて死ぬのは笛吹の側だ。


「ちなみに誰に負けた?」

「暗殺されたよ。バカ女に銃で撃たれた」


 それが、結果だ。個人の強さだけで解決するほど、物事はシンプルではない。


「何をしている!」

「ちょうどいい」


 二人組の巡回と遭遇。笛吹は脇の間を潜り抜けながら帯剣していたコペシュを窃盗。振り返る兵士たち、少し進んで笛吹は背後を確認。

 通路に立つ二人の兵士がマツの進行を邪魔……しない。


「げふっ」「ひっ!? ま、マツ様!?」


 心臓を一突きにされて、兵士の一人が血泡を吹いて死んだ。蹴り倒しながら進むマツ。


「仲間じゃないのか!」

「赤の他人だ。お前と戦うための舞台装置にすぎん」


 青銅製のコペシュは恐ろしく重い。笛吹はマツに投擲し、舌打ちして再び逃走。

 人間を障害物にするのは危険だ!


 走れ、時間をかけろ、持久戦だ。笛吹は考える。


 マツは【防具】の弱点を知らない。

 実力で勝てないのならば、知識や【情報】の差でなんとかするしかない……!


 長月や、張井(ハリー)のように。


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