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武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

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20328 ここがお前の墓穴だ



 宍戸敏夫は、宗教法人『獅子堂会』の指導者である。2008年末に警察に突入され、信者同士の殺し合いも発生し、宍戸は死亡、他の信者も多くが命を落とす。

 宍戸は政府高官と関わりがあり、犯罪者を鉄砲玉として利用して殺し屋の真似事をしていた。


 暴力団とも提携している、善人ではなく、悪党だと自認していた。

 しかしそれでも、まあ、自分の周りには優しいくありたいし、生まれ育った村が過疎化するのを避けたい気持ちも本物だ。


 何より、死にたくない。

 だから【ドラゴン】を殺す。


「ぎゃっ!?」

「うげっ」


 宍戸の【武器】は落とし穴である。楔を媒介に足元に落とし穴を開く。『一回目』は最強で無敵の能力だと思っていた。発動の隙は小さい、突然足元に穴が開いて避けられる者はほとんど居ない。

 …………居ないわけではない。


 前回、必殺のタイミングだったはずなのに管金(すがね)という小僧はさっと避けた。信じられないくらい、当たり前のように回避した。

 以降、宍戸は慢心をやめた。


「くそ! この私が! こんなミスを!! 痛……泣くほど痛いな!!」

「う……うぐ!? な、なにが……」


 宍戸は生き残らねばならない。

 それはアル中の女、楠木佐香を見てしまったからである。若い頃の妻に、宍戸自身にもよく似ていた。息子の繊細な顔立ちと、息子嫁の体格の良さを引き継いでいた。


 あれは、孫だ。宍戸佐香。母親の旧姓を名乗っているが、間違いなく宍戸の孫娘だ。

 酒浸りになる理由は分かる。宍戸を憎悪に満ちた目で睨むのも。許しは乞えない。何があったのかを問うことを、宍戸は恐れたからだ。逃げたからだ。


「すまん、佐香……笛吹(うすい)くん、神崎くん……後は頼む」


 宍戸、出羽、美咲の三人は落とし穴に落ちていた。宮殿の地下にある真っ暗な空間に、背中から叩きつけられていた。

 落下を予期していた宍戸以外の二人は、激痛にのたうつしかできない。


「う……はぁはぁ……」

「美咲くんだったな! 神崎くんだ! 神崎くんは味方だ! 可能なら頼む! 長月くんが生きている間に……!!」


 宍戸は出羽に掴みかかった。下半身が動かない。でも両手は動く。抱きつくような形で。


「離せ!」

「【ドラゴン】を殺せ!!!」


 落下。


 背中に包丁が突き立つ。同時に落とし穴が口を開く。出羽が下で、10メートルの自由落下。


「ぎゃっ!?」

「お前みたいなザコを道連れか……門浦が良かったな」


 衝撃の直後、次の穴が開く。


「ぐ……は、離せ……!」

「ふふ、離しても同じだよ……ぐぇっ!!」


 全身を打ち付ける衝撃。受け身も取れぬ、人間二人分の重さ。常人ならば打ち身では済まない、骨折、内臓破裂、昏倒もあり得る。

 次の穴が開く。


「やめ……っ」

「包丁刺しといて、よく言う……」


 次の穴。


「助け……」

「諦めなさい。ここが僕らの墓穴さ」


 次の穴。


「ぎゃあああ!」


 次の穴。


「……」


 穴。


 穴。


 【武器】で作られた落とし穴は、持ち主の死と同時に消滅する。墓穴にはならない。

 暗黒の広間には、何度も車に轢かれた轢死体のように見る影もない、人間だったものが出現した。明かりがあったとしても、どちらが宍戸でどちらが出羽かも判別つかないだろう。


「…………はぁ、はぁ」


 一人残された美咲は、まずはその二つの死体に近寄った。真闇の中なのに、何となく見えることに疑問は抱かない。

 二人の持ち物で、何か使えるものを探さなければ……そして、この地下空間を脱出して……。


 【ドラゴン】を、殺す。宍戸に言われずとも。だが、宍戸の分まで。




 美咲、暴君側から離反。

 宍戸、出羽死亡。



 残り、四対五。






「長月、長月さん……起きて、逃げるわよ」

「起きている。薬を嗅がされたが、どうやら奴らは【狩人】に薬が効きづらいことを知らないらしい」

「なら起きて……起きられる?」


 巌野と宍戸が美咲たちの揉め事を見に行った隙に、神崎は長月を助けるために『屠殺場』に侵入していた。

 ほんの二週間でしみついたとは思えない、血と臓物の悪臭に眉をひそめながら、神崎はベルトで拘束された長月を助けようとする。


「無駄だ、足首を砕かれている。私はいい、情報を伝えてくれ」

「……良くないでしょ」

「いい。宍戸が生き残れば私の勝ちだ」


 神崎は何か言おうとし、少し考えて頷いた。


「長月さん、私ね……『娘と一緒に幸せに暮らしてる』わ」

「…………そうか、そうか! 痛っ、ふふふ、おめでとう!」


 『前回』、神崎と長月は終盤別行動だった。お互いの末路を知らない。いや、神崎だけは知っていた。

 長月の【武器】を貸与されて戦っていた神崎は、終わる間際に長月の命が果てたことを知っていた。


「『前回』もあなたに助けられた。【盾】無しでは生き残れなかった」

「……それだが、私は門浦に奪われている」


 【盾】は強力だ。それを利用されるのはかなり厳しい状況だろう。


「……どうするの?」

「殺してくれ」

「ダメよ、それだけはできない」

「…………そうだな、忘れてくれ」


 神崎は女の子の母親だ。いかに神崎がヤクザや客を三十人以上殺した殺しの天才でも、少女を殺すのはつらかろう。


「私が交戦で得た門浦やあの剣士の情報を教える」

「必ず共有する」


 こうしてまた一人、正しき道に歩みを進める。





 神崎離反。


 五対四。



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