表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武器を取れ、ドラゴンを殺す 第二部 『補欠の僕らも星を見る』  作者: 運果 尽ク乃
第三章 合い食む餓狼

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/119

20326 ニセモノ



「ぎゃあああ!!! あああ!! ああああああ!!!」


 飛び掛かろうとした出羽、機先を制したのは美咲だった。肺活量には自信がある。伊達に水責めされていない。

 ゾッとするような絶叫にひるむ出羽、美咲は即座に尻尾を巻いて逃亡。挑発したものの、勝てるとは思っていない。


「ストーくんてホントにバカ。なーんにも知らないし見えてないのね。

 巌野さん? 違うわ。巌野さんだけじゃない。マツさんも、門浦さまも、宍戸ってオジサンも……ストーくん以外の全員と!」

「やめろやめろやめろ!!」


 【狩人】として半人前以下の美咲では、出羽の速度に敵わない。逃げても無駄、勝ち目は皆無。

 美咲だけなら。


「ノロマ! 単純! 能無し! ガキにバカにされんのも当たり前だろ?」


 少し逃げた所で余裕を持って振り返る。血走った目で肉薄する出羽、振り回される包丁。

 右からの袈裟斬り、想定通りの一撃を両手で持った鎌で防ぐ。


「ぐぐっ!」

「口だけかよ!!」


 片手の大振りにパワー負け、【狩人】ならざる美咲には荷が重い。鎌の強みとして、引っ掛けてテコの原理で奪えるはずなのだが、膂力(りょりょく)が違い過ぎてそうも行かない。


 ブンブンと振り回される包丁を、脇目も振らず逃げることで回避。腕や肩に傷を追う。


「ぷふっ! ダッサー! ストーくんカッコ悪! 例の剣士は【防具】も切れたのに、こんな弱い【武器】で防がれちゃうの〜?」

「クソクソクソ! クソ女!!」


 美咲は普通の女だ。殺す才能も奪う才能もない。今だって、自分のなかにある誰かが言いそうな言葉を借りてるだけだ。

 切られた傷が痛い。ジンジンする。涙声になってないか心配だ。


「他に罵倒ねーの? 脳みそ入ってないからかな? それとも鳴き声か? ホーホケキョみたいに、クソクソ言っちゃう?」

「ふざけるなぁー!!」


 避けるのも防ぐのも難しい一撃、美咲は横に飛び込むも背中を横一文字に裂かれる。泣きそう! 痛い! ジクジク痛い!!


「ギャッ!?」


 苦痛にのたうつ暇はない。これだけ騒いているんだ。誰か、誰か来て……! できれば巌野、次点で巴静。必要なのは美咲を助けてくれるひと!

 だが、都合よく助けは来ない。美咲は最後の手段に出ることにした。


 この話はしたくなかった。出羽に聞く耳が残ってなければ無意味だからだ。


「ごっごめんなさい! 許して! 何でもするから! もう二度と逆らわないし、全部の言葉を撤回します! 謝罪します!!」


 痛みで声が震えている。いい感じに涙声だ。


「これからは『あの子』になりきります! 誰よりも出羽崇道(すとう)を愛します! だからもう痛いことしないでぇ!」

「…………分かったようだな、僕の強さと偉大さが」


 なんにもわかんねーよ。美咲は罵倒を呑み込んだ。

 出羽は見てきた【狩人】で二番目に弱い。一番弱いのはもちろん美咲だ。


「私は全身、骨の髄までストーくんのものです。ストーくんのため生きたいです……つまり」

「ん?」

「お前のもんじゃないんでは?」


 大事なのはここからだ。美咲は唇を濡らした。案外、出羽は話を聞いている。


「『あの子』が愛してくれるのが『ストーくん』なら、そのニセモノであるお前には……愛してもらう資格はあるでやすか?」

「な、何だお前……言うに事欠いて、僕が、この僕が空っぽで無意味な、ニセモノ!? ニセモノだってのか!!」


 お、逆鱗! 美咲はよろよろと、這いつくばってお願いの姿勢。

 さあ、アイデンティティにダメージを負ってくれ。思い悩んでくれ。美咲はその隙を狙うつもりだ。


「え? あっしらは、『本体』の見た目を再現しただけのニセモノでござんしょ?」


 肉体能力が違いすぎる。殺せないにしても、逃げる。誰かの所まで誘導して……。


「面白い話をしているな、『空っぽの女』」


 ぬぅっと、背が低く筋肉質の、だるまみたいな男が現れた。血と砂利で汚れたエプロン。ギラギラと光る双眸(そうぼう)

 その横には、白スーツの壮年男性が穏やかな笑みを浮かべて立っている。


 巌野と宍戸。

 どうにかして一人……可能なら全員。


 出羽を誘導して殺し合わせれば美咲の勝ち。

 失敗したら?


 現代の美咲と死地妊(しちにん)が死ぬだけだ。

 失敗なんて、考えられるか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ