絶望と、小さな希望
キラとティアは、精霊の意識から弾き飛ばされ、現実へと引き戻された。その瞬間、信じがたい光景が目の前に広がっていた。ローの声に操られたヴェスタが、精霊石に手を伸ばし、自らの意思に反する「してはいけない願い」を口にしたのだ。
その願いは、精霊の最後の希望を打ち砕き、精霊は怒り狂った。悲痛な叫びを上げながら、精霊は精霊石から溢れ出る力を体内に止めようともがき苦しむ。全てを破壊しようとする炎の力が、空間だけでなく、島全体を大きく揺らした。やがて精霊は我を失い、嘆きと怒りの炎を破壊の力に変え、ヴェスタへと放った。
「きゃああああああああ!」
炎に包まれるヴェスタの悲鳴が響く。カイルの絶叫と、ゼノンの怒号が交錯する。ローは不敵に笑い、その光景を冷ややかに見つめていた。
「嘘だ…」
ティアは膝から崩れ落ちた。自分の力が及ばなかった。精霊の意識の奥底で、あと少しで対話が叶うところだったのに。精霊の悲しみに寄り添うことしかできなかった自分への不甲斐なさ、そして、炎に包まれるヴェスタへの恐怖と絶望が、ティアの心を支配した。精霊の放つ力は、もはや誰も止められないように思えた。
絶望が空間を支配したが、キラは諦めなかった。
「精霊を、止める…方法は…ある!」
キラはティアの手を取り、精霊石から延びている回路を読み取る。凄まじい力が流れ、今にも爆発しそうなところがいくつもあった。
「ティア、アルクスコアは制御装置だ。ティアの力を制御するためだけじゃなく、遺跡の力も制御できるはずだ。ティアの力ならこの凄まじい力を抑えることができる!」
ティアは、キラの言葉に顔を上げた。絶望に支配されていた心に、希望の光が差し込む。
「今度は…失敗しない!」
二人は、再び手を繋ぎ、精霊石に触れた。キラが回路を解析し、膨大な力の流れをティアに伝える。ティアは荒れ狂う火の力を、アルクスコアを通じてコントロールすることを試みた。
(火の精霊は、人を守る思いの強い精霊。この強い力を不安定な結界の強化の力に変換する!)ティアと精霊石が目が眩むような光を放った。
ティアは精霊石から放たれる力を制御しながら精霊にうったえかける。
「精霊よ…!落ち着いて!ヴェスタさんは、本当にあなたの力を欲していたわけじゃない!彼女の本当の願いは、島とあなたを守ることだったの!信じて!」
ヴェスタの身を包んでいた精霊の炎が弱まり、ヴェスタは炎の中からうったえた。
「精霊よ。ごめんなさい。私を、私だけを焼き尽くして。だからお願い、島を守って。私は島を、人を守りたいの。」
ヴェスタの目から涙がこぼれた。すぐに炎に焼かれ蒸発してしまったその涙が、精霊の心に届いたようだった。
精霊は、ヴェスタの本当の想いを理解し、荒れ狂う炎は、やがて静かな光となり、ヴェスタを包んでいた炎も、まるで慈しむかのように、静かに消えていった。




