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プロローグ〜追われる少女〜

この辺は以前の「空と大地の虹物語」と大差ありません。

どこまでも続く白い雲海。ただひたすらに広がる青い空。青と白でのみで作られた世界が永遠のように広がっている。

白の雲海に唯一影を落とすのは、空に浮かぶ無数の島々。巨大な島も、小さな島もそれぞれに人の営みがある。

帝国統治下の元、8つの領地に別れたその島々を、人は空島と呼ぶ。


無数の島から隠れるように、太陽の光の中に小さな島が一つある。どの領にも属さず、帝国の統治から独立したその島は、智の塔と呼ばれていた。他者を寄せ付けない、虹術師たちの島にそびえ立つ白亜の塔の中で、異変が起こっていた。


「ティア、走って!ここから誰にも見つからずに逃げなくてはなりません。急いで!」


ティアと呼ばれた少女は、細い手を引かれて、塔の階段を必死に降る。

プラチナブロンドの髪をふり乱し、太陽の光をそのまま映したような黄金の瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。

導師見習いの後ろ姿を見つめながら、ティアは不安と、いきなりの事態に恐怖を感じていた。しかし、立ち止まるわけにはいかなかった。


 空島の伝説に登場する光の神を模したかのような姿の彼女は、それが彼女を縛る呪いでもあることを、彼女はよく理解していた。そして今、必死に逃げている理由だった。

彼女は空島を作ったとされる「光の神」の力**「虹の力」**を持っていたのだ。


 空島は、いつも島の至る所にかかる虹かかっている。その虹から七色の光を抽出し、光石という石を作り、その光石を媒介にした力によって人々の生活が成り立っている。

赤、橙、黄色、黄緑、緑、青、紫の色の光はそれぞれ特有の力があり、普通の術師なら、せいぜい二、三色の力を使えるのが限度だ。

だが、ティアは七色全てを操ることができた。それはまさに光の神の力――、そして、この空島の秩序を覆しかねない**「未知の脅威」**でもあった。


 10歳でその力が明らかになったとき、彼女は「空の智」という虹術師集団に強引に連れていかれた。そして外の世界から隔離され、存在を隠された。

生きるだけなら快適な環境が与えられたが、幼い少女は家族の元に戻りたい一心で泣き叫んだ。しかし能力の危険性から、人との接触を禁じられ、4年という長い月日を経て、心は次第に閉ざされ、今ではその記憶すらも遠く感じるようになっていた。


「アーサー、何が起こっているの?」


ティアは、前を走るアーサーに問いかけた。アーサーは前を見たまま、息を切らして答えた。


「皇帝に、あなたの力が知られました。すぐにでも近衛騎士がここに来るはずです。見つかる前に、別の場所へ身を隠さなければなりません。皇帝は、あなたの力を手に入れ、空島全ての力をその手に収めようとしています!」


 アーサーは、ティアの世話を担当している導師見習いだ。彼は同じ年頃の少年で、必要最小限の言葉しか交わしたことがなかったが、彼の見せる小さな気遣いが、ティアに人間らしい心を保たせてくれていた。唯一の理解者とも言える存在だった。

二人は塔の地下にある秘密の発着場を目指していた。そこから「カイト」という小型飛行機に似た空島の交通手段で、逃げるつもりだった。


 近年即位した皇帝は、力に貪欲で、皇帝の元に全ての力が集中することを望んでいた。もしティアが皇帝に捕えられれば、空島の平和はもちろん、「空の智」に伝わる、空島の秘密――空島が「大地」と深く結びついているという真実――が危険に晒されることになる。


カイトの発着場にたどりつくと、後ろから、騎士たちの足音が、まるで嵐のように迫ってきた。


「急げ!」


アーサーが叫んで、ティアは身をひときわ小さくしてカイトに飛び乗る。アーサーも飛び乗り、死に物狂いでカイトの操縦レバーを引いた。


「しっかり捕まっていてください!」

「うっっーっ」


 カイトが風の力を受けて浮き上がり、発着場を飛び出した。ティアはカイトの中で声を出さずにうずくまるだけで精一杯だった。だが、すぐに追手が現れた。智の塔の上部に接舷していた帝国の戦艦から、赤い光を放つ最新型のカイトが何機も飛び出し、周囲を囲むように迫ってきた。その機体は、帝国の紋章を輝かせ、獲物を追う猛禽のように速かった。


 アーサーは操縦レバーを握りしめ、必死にカイトを操作して逃げようとするが、敵のカイトは手練れの騎士たちに操られており、次第に距離が狭まっていった。彼らの放つ攻撃の光が、カイトの翼をかすめ、火花を散らす。


――怖い、いや、なんで今更!!どうして私なの!!!――


ティアの心臓は、激しく鼓動を速めていた。飲み込めない事態に恐怖ばかりが膨らむ。彼女の瞳が揺れ、手のひらに汗が滲む。

アーサーは険しい表情でティアを見据え、決意を込めて言った。


「このままでは捕まる。僕が彼らを引きつける!だからティアはなんとしてでも逃げるんだ!」

「え!?私どうすればいいの!?」


その瞬間、アーサーはカイトのタンデム部分の解除レバーを引き、切り離した。**同時に、ティアのカイトに、彼の持つ全ての風の力を込めた。


「アーサー!!いやー!」


ティアの叫びは空しく響いた。ティアの乗るカイトだけが猛スピードで進む。アーサーの乗ったカイトは、帝国の騎士たちに向かって急旋回し、囮となっていく。ティアの視界から、アーサーの姿が小さくなっていく。

アーサーは必死の形相で叫んだ。


「ティア!力を込めろ!目を閉じて、ただ力をカイトに込めるんだ!お前ならできる!光を、力を解き放て!」


ティアは分からなかった。ただ、無意識にその言葉に従い、心を無にして力を込めた。アーサーの言葉が、彼女の奥底に眠る潜在的な力に触れたかのようだった。

その瞬間、ティアの乗るカイトは、ひときわ強い七色の光を放ち、目がくらむような輝きが彼女を包み込んだ。それはまるで、虹そのものが空を切り裂いていくかのようだった。強烈な光は追手の視界を奪い、カイトは制御不能な速度でどこかへと吸い込まれていった――。


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