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希死念慮

作者: 滝翔


2011年12月12日 【長囲小学校】


この日の午後にとある事件が起きる

六年生の袴田日紗子はかまだひさこが行方不明となった

教員に呼ばれて学校に向かった父親は事の次第を聞き

先に到着していた警官と共に唖然とする


袴田日紗子が姿を消したことに気付いたのは 午後の授業が終わって終鈴が鳴り

お帰りの会と称するホームルームが始まる頃に 姿が見えないと騒ぎになったそう


当然疑問が出て来る 自分の娘は授業に参加していなかったのかと父親は尋ねるが

「五時間目の授業は参加していた…… かもしれない……」という返答が返って来た

激昂して担任の教師に詰め寄る父親は警察に制止されたが その発言はその場の誰もが無視は出来ず


しかしクラスの決められた席に生徒がいるかいないか

事前に欠席を知らされなければ そうそう見逃す人間などいないだろう

この事から捜査している警察は〝袴田日紗子ちゃんは五時間目の授業には参加していた〟

そう決定付けて事件の解明を急いだ 何よりも本人の所在確認が急がれる


だがそこから丸一日 女子児童の捜査の進捗はその片鱗も見せていない




12月13日 市内の【土筆公園】


敷地が広く大きな祭の開催地となるここは

普段は近隣のイベント会場が開かれる駐車場として利用されている

そこそこの図書館や庭園もあることから並大抵ではない

そんな広い場所を まるで生きた屍の如く徘徊する一人の男性

気力は抜け落ち 今にも身投げしてしまいそうな喪失感を醸し出していた


「日紗子…… 何処に行ったんだ…… 家出だとしても連絡の一つは入れてくれよぉ……」


日紗子の父親は昨日の今日というのもあって 夜遅くまで娘を捜し回っていたのだ

昔は事ある毎にこの公園で遊ばせていたので思い出の地巡りに至っている


「一週間経てばお前は死んでるのかもしれない……

数ヶ月経てば白骨化したお前が見つかるかもしれない……

やめてくれよぉそんなのぉ……」


ベンチに座ってコーヒーを飲む父親は 気弱故に先々の憶測をしてしまう人間だった

垂れる頭を両手で抱え 時間が過ぎれば救われるのか それとも娘にとって事態は切迫しているのか

少しでも足を止めればそればかり考えてしまう中 ゆっくりこちらに向かってくる足音が


「日紗子か?!」


「……いたよお父さん!!」


自分の娘よりも年下の少女は向こうにいる男性に呼び掛ける


「ハァ…… こんな所にいましたか袴田満夫さん?」


「っ……」


「初めまして 私は貴方からご依頼頂いた…… と言っても話途中で電話が切られましたが……

【柴塚探偵事務所】の従業員をやってます 柴塚定殻しばつかさだみです」


「何で……」


「一応探偵ですからね

貴方の必死の荒い息遣い 今すぐにでも何とかして欲しいという気持ちが伝わってきました

地元民ですから長囲小学校で行方不明事件が起きている事も知っています

なのでこの二つを組み合わせれば袴田満夫さんに繋がるんですよ!!」



「雑だねお父さん…… この場所に行こうって言ったの私だし

私の〝日紗子ちゃんがよく遊んでる場所だから〟って目撃証言だけで行動して

運良く見つけただけでしょ?」



横腹を突っつく少女に 何も言い返せない定殻は顔を真っ赤にしていた


「さすがだなぁ久留美は…… 母さん譲りだぜ!!」


「あの…… それで俺に何か用ですか?」


「うちのモットーは〝伸ばされた手を放さない〟でしてね

ワンコールだけならまだしも 貴方の悲痛な声を聞いてしまえば黙ってられない

うちの所長に尻を叩かれまして馳せ参じました」



「所長は私のお母さんです」



即ち家族で探偵をしている一家に出くわした満夫は 口に手を当てて笑っていた


「仲の良いご家族なんですね……」


「満夫さんところは違うんですか?」


「仲が良いと思ってましたがこんな事が起こってますからねぇ……

何処か建前で築いていた親子関係だったとこもチラホラ思い出すんですよ」


「諦めるんですか? 真相を確かめないまま?」


「……憶測に慰めて貰うのは駄目ですね!! 改めて依頼させて下さい

娘を…… 日紗子を見つけてくれませんか?」


「了解しました!!」


柴塚家の捜索は開始する 手始めに目の前の情報から手を付け始めた


「ベンチ…… 隣失礼します」


「あっはい……」


「まず気になる事を一点…… 依頼するには早すぎませんか?」


「えっ…… あぁ……」


「警察が捜査し始めるって段階ですよね? 信用出来ない何かが満夫さん視点であると?」


「昨日…… 担任の先生が〝日紗子は五時間目の授業は出ていたかもしれない〟と言ったんです

そこからが始まりで色んな先生や生徒に話を聞いたんですが…… 何もかも信じられなくなっていて」


「疑心暗鬼ですか…… まぁ無理もないですね

五時間目から終鈴が鳴る間ですもんねぇ 行方が分からなくなったのは」


「自分の性格もあるかも知れませんが…… 本当に誰も見ていないんですよ うちの娘のこと

逆に不安というか怒りが込み上げるというか……」


「存じてる範囲で娘さんの交友関係などは教えて頂いても?」


「友達の話はよくしてました

それこそ六年生のクラスでも友人と言ってくれるクラスメイトが名乗り出たんです」


「……〝事なかれ主義〟でも無さそうですね」


「何ですそれ?」


「簡単に言うなら波風を立てずに穏便に済ませる態度や姿勢を指しますが

学校によってはこれが度々問題視されるんですよ

保身を考えて校内の問題を無視したり 当人でもないのに軽く見てしまったり

保身故に当事者意識が欠如して行動を控える事例が多々見られるんです

同調圧力に屈する先生も生徒も学校という 閉鎖的な場所では保守的になりやすいと言いますか

……我々の学生時代にも思い当たる節はありますよね?」


「えぇそうですね…… 悪い事を悪いとは言えませんでした 標的になりますから」


「何故に事なかれ主義が出たかと言いますとね

日紗子さんは小学六年 つまり来年は卒業です

事なかれ主義が一番働くのは()()()()ってよく言われてるんですよ

……何となく察せますよね?」


「まぁはい…… ちゃんと卒業させたい良心と 反面で最後の最後に面倒事は勘弁って事ですよね?」


「調べたんですけど長囲小学校は不審者を除けば 内部の問題は過去数年間

イジメもなければ体罰の噂も何も出ない優良校って話じゃないですか

継続されて積み上げられる実績はかなりの重圧になりますからね」


「……仮に問題が起きても隠蔽する可能性が出て来ると

しかしそれなら柴塚さん達は内部の人間を疑ってるってことですか?」


定殻は立ち上がり 白い吐息と共に身震いし出すと


「冷えてきたので家に来ませんか? 確か…… シングルファザーでしたよね?」


「何でそれを?」


「被害者の依頼が出ればまず身内から潰して行くのがうちのやり方でしてね

嫌われる職業なのは重々承知です ご理解下さい

確か息子さん…… 年の離れた日紗子ちゃんのお兄さんもいますよね? 今は社宅に住んでらっしゃる?」


「はい…… 妻の連れ子です」




探偵事務所とはいえ普通の民家だった

それでも立派な家を見せられれば ここのご家族達の実績の顔が見えてくる


「帰ったぞ木乃実このみ!!」


「こっちも準備できるわ!!」


茶の間の卓袱台に雑に散らばる紙の数々 そこには学校の地図や知ってる教師や生徒の顔写真が


「これって……」


「昨日の満夫さんの電話の後から既に行動に移ってましてね

私らなりに色々と調べが進んでるんですよ」


「まだ一日しか経ってないのに…… 何でここまで……」


「依頼人の意向に沿うよう最低限の忖度はしますが

行方不明者はいなくなってから 時間の経過と共に生存率が著しく低下するんです

仮に人身売買が目的だとしてもこの枠組みに含まれます」


圧倒される満夫はテーブルの顔写真を眺めると


「三鷹先生に…… 蓮井先生…… 同学年の生徒も容疑者候補ですか?」


「この二人の教師は担当クラスを持たず 謂わば専門科目教師ですよね?

三鷹先生は算数 蓮井先生は理科を その日の五時間目はそのどちらもありません

二人はフリーだったんです」


「成程……」


「まぁこれから犯人を割り出していきますので 依頼者の満夫さんも是非参加して下さい」


「ちょっちょっと待って下さい……!! もう犯人が分かったんですか?!

証拠になる物とか集めたりするんですよね探偵も? 刑事さんも今その段階なのに……」


「それは…… なぁ木乃実?」



「普段の学校の様子なら ここに誰よりも詳しい人材がいるわ!」



両親が見る先にはポーズを決めている愛娘の姿が


「久留美ちゃんが?」


「満夫さんお夜食まだでしょ? サンドウィッチ出すの手伝ってくれます?」


「えっあぁはい……」


木乃実が満夫を台所に連れて行くと


「久留美はね…… 〝自殺しようとしている人間〟が判るの」


「それはその…… 超能力みたいな奴ですか?」


「そう思いたかったけど恐らく生まれ持っての観察眼の鋭さがあるのよ 遺伝ね

私も自分以外の周りの世界に注視しまくってた子供時代だったから

最初はそこらの歩行者を指差して「ママあの人死にそう!!」って大声で叫んだ時はビックリしたわ」


「……その指差した人はどうなったんですか?」


「それが本当に自殺志願者の心理が出ててさ 久留美の態度に何も反応を示さなかったの

その日その人間が自殺するとは確証が無かったから 後日結果の噂が流れて良い思いしなかったわ」


「…………」


「久留美…… 一早く貴方を見つけたでしょ?」


「えっ……?」


「満夫さんは心が弱い人って調査して分かったからもしかしてって思ってね」


「俺は別に……」


「私も貴方が自殺志願者だって思ってはいないわ…… 自殺したい人って理由も様々だからさ

だから第三者が食い止められない悲しい出来事なんだと思うの」


「でも一日そこらで何かがあったとしても すぐに自殺したいなんて思いますかね?

俺がこう言うのもなんですけど……」


「それが久留美には分かるのよ 極限状態もしくは虚無感に陥った人の心理は傍から分からない

その人が自殺したかったのかどうか それを他人が知るのは死んだ後の状況からでしか知りようがない」


「…………」


「実際どうだったの?」


「……追い込まれてはいました 臆病故に自責の念や世間体

学校に関わる人間全てに人間不信 信用出来る人間なんていないんじゃないかって」


「辛かったわね……」


「〝普通失踪〟って宣言されてから七年で死亡確認ってなるじゃないですか?

……そういうの考えたら日紗子はもうこの世にいないじゃないかって」


「それは考え過ぎ 私達の想像の遙か上で思い詰めていたようね」


サンドウィッチとコーヒーを運んで茶の間に戻ってくる二人

定殻は二人が何を話していたのか粗方予想していたが 久留美は退屈で畳に足を広げて待っていた


「では改めまして 柴塚探偵事務所の所長 この家の大黒柱 柴塚木乃実です」


「あっどうもです……」


名刺を受け取る満夫 そしてさっそくこの一家に混ざって事件究明に移行する


「まず状況を整理するけど 行方不明者は袴田日紗子ちゃん12歳

朝普通に家を出て学校に登校 五時間目の国語の授業以前までは生存を確認」


「それは何処情報なんですか木乃実さん?」


「久留美情報よ 因みに久留美は給食後の昼休みまでは日紗子ちゃんの姿を確認していたと言うわ」


「……こう言っては失礼ですけどまだ小学三年生ですよね? 全てを鵜呑みにするのは」



「私は妄想の中では生きていません」



幼き少女の睨みつけは中々堪える中 話は進行する


「問題は昼休みの後だな 昼休みの時間っつっても二十分くらいだ

久留美が見たっていうのは給食が終わってグラウンドに駆け出す日紗子ちゃんの姿だけ」


「うん…… 私は図書室に行ったからその後は分からない」


「つまり実際は昼休み直後から五時間目が始まる十五分の間に

日紗子ちゃんの行方が分からなくなった

誘拐の線で行けば五時間目の授業の間までもが 犯行時刻として加わってる可能性があるからな

昨日の状況から日紗子ちゃんの同行を推察するのは至難だ」



「そこで久留美サーチの出番よ」



卓袱台に散らばる紙を整理する


「前々から久留美は()()()()()()()は三人いるって言ってたの

私達は事前にその三人の事をあらたか調査してたのよね」


「……どうしてですか?」


「何かあって依頼が来た時に秒で解決する為

浮気調査とか動物探しは張り込みが基本だから暇な時間がある訳で

その余った時間を使ってたのよ」


「何か次元が違うと言いますか…… ちょっと怖いですね」



「俺達はネットの特定班並にお節介だからな!」



定殻は笑いながらその三人の情報が書かれた紙を見せて来た


「一人目はさっきも出た理科担当の蓮井先生だ

調査の結果 離婚で悩んでたらしいな 原因は彼自身なんだが

前までは浮気癖があったらしい その後は良かれと思って最近は風俗通いに転向……」


「フウゾクって何?」


「久留美はまだ知らなくていいの

この()()()ってのがポイントで口論が毎日の様に続いたらしいな

浮気はしない分 風俗に行って解消してるんだから理解してくれって具合だ


二人目は六年生の志村和成君

父親はIT関係の仕事に就いていて家に帰ってくるのは決まって夜の八時過ぎ

しかも和成君に買ってきた夕食を与えては またすぐ会社に戻っていく生活だとか

母親は病院生活 ほぼ家で一人っきりなんだろうな


三人目は三年生の糸田舞ちゃん 久留美の同級生だな

実家は金持ちで学校が終われば塾に行き 休日は習い事でスケジュールびっしりだ」


挙げられた三人の説明が終わると 満夫は納得行かず首を傾げる


「その…… 死にたい人間と娘の行方不明がどう関わってくるんですか?」


「ここで大事になってくるのは

〝死にたい人間〟が〝必ずしも死のうとする意思が有るとは限らない点〟よ

自殺したいからって死と向き合って一方通行になるとは限らない

純粋に怖かったり 未練があったり その場の考え以上の目標があったりね」


「なるほど……」


「でもどうしようもないとき人は自棄になる 世間一般的に言われる〝ムテキ〟の人よね

それは誰にでも起こり 時には理性よりも優遇されるのが犯罪心理なの

どんなにヤバい裏社会の組織でも平気で人は殺さないって話もある通り

理性で考えれば普通は人に迷惑を掛ける行為というのは リスクしか伴わない常識とまで言えるわ」


「はい……」


「それを踏まえて一つの結論を言うなれば 常に日紗子ちゃんが家に帰宅し

定時で満夫さんも家に帰って来て 決まった時間にご飯を食べ 近所の人の声を聞いて見れば

毎日温かいテレビの声と笑い声が聞こえて来る一家で家出は有り得ないの」


「もしかして近隣住民に俺達の話を聞いてたんですか?!!!」


「えぇ探偵ですから」


赤面を顔で覆う満夫は 今の木乃実の発言によりある違和感が消えた


「……ずっと気になってたんですよ 家出の線が無くも無いのに

この家にお邪魔してからも 容疑者リストの紙があって腑に落ちなかったんですよね

その…… 私が犯人じゃないって信じてくれてたんですね?」


「「「 いや事実確認しただけ 」」」


感動の展開かなと悦に浸っていた満夫に容赦ない探偵一家


「じゃぁこれから夜の学校に行きましょ」


「今からですか?」


「言ったでしょ? 行方不明者は時間が経過すれば死亡率が上がるの」


「……てことは日紗子は校舎内に?」


「車で話すわ ここで出来る事は貴方に私達の調査進捗を知って欲しかっただけなので」




深夜に闇夜を照らすヘッドライト

小さな軽自動車に四人が乗り 運転は夫 助手席に娘

後部座席に木乃実と満夫が会話する流れに入っていた


「学校まで時間があるから誰が犯人か推理してみます満夫さん?」


「えぇそうですね…… といっても情報が乏しくて……」


「初手は何でも仮説からよ 遠慮しないで名指ししてみて」


「……やっぱり蓮井先生ですかねぇ

もし相手を気絶させて 誰にも見られない場所に運ぶなら

提示された容疑者の中で唯一の大人以外は考えられないです」


「成程ねぇ」


「あくまで安直な考えです でもこれは間違ってるかもしれません」


「というと?」


「担任の先生の言葉が未だに頭を過ぎるんです

〝日紗子は五時間目の授業に出ていたかもしれない〟

これってもしかすると他にもいなかった生徒がいたんじゃないかと思いまして」


「良い着眼点ですね ここで久留美情報です

実は五時間目の授業に出席していなかった生徒がもう一人います」


「えっ?」


「学校は今日休校だったけど久留美は登校してね

職員室にいる先生達に色々聞いて回ってくれてたのよ

勿論六年生の担任の菅原先生にもね

すると記憶を辿る限り 同学年の志村和成君が欠席していたことが分かったの」


「本当ですか?」


「ついでに久留美のクラスの糸田舞ちゃんもね」


「二人は共犯だったってことですか?」


「結論を急ぐにはまだ早い この二人の交流はオンラインゲームだったらしいわ

情報元ソースはアカウントのサーチと前々から久留美が会話に混ざって聞いてたんだけどね

そして驚くことにネトゲ仲間はもう一人いた」


「……まさか 蓮井先生?」


「イロハスってアカウント名で活動してたみたい そこで三人は出逢ったわけね」


「……私の知らないところでそこまで接点を割り出していたんですねぇ」


「推理ゲームはまだ終わっていないわよ? じゃぁ行方不明とどう繋がるのか? その動機は?」

 

「……そのゲームのジャンルは?」


「サバゲーよ 廃校を舞台にしたサバイバルホラー寄りのね」


「まさかゲームのノリを現実で実践してるのか……?」


「そう…… 三人の容疑者は度々休憩時間に話し合ってたらしいわ これも久留美情報ね」


「でも確証は無いんですよね?」


「えぇ証拠不足ね でも誰もいない校舎でこの仮説が本当だとするなら…… 心構えは必要かなと

警察がテープを貼って深夜帯は誰も入らせないようにしている 逆を言えば校内は自由ってことよ?」


「そこまで計算尽くなんて……」



「あぁ恐ろしいよなぁ…… さてそれが本当なら日紗子ちゃんを拉致った目的は何だろうなぁ?」



ライトを弱めにして学校の駐車場で停車する軽自動車


「……誰も立ち寄らせないって為だけ?」


「ここからは本人尋問だ 今までの仮説がひっくり返ったとしても確かめねぇことにはな」


車から外に出てストレッチをする定殻

そんな彼の頬を一発のBB弾が擦る


「確信犯だなコノヤロー……」


ズカズカと堂々と職員玄関に手を付けると 案の定鍵が開いていた


「もしかして俺達も強制参加ですか?」


「娘を探すアンタはその範疇だろうが俺達はイレギュラーじゃねぇかな

まぁ相手からすれば何でも有りなんだろ…… 恐ろしいことに殺意を感じない」


「殺意が無い?」


「さっきのBB弾…… 

明らかに顔を狙ってきていた 目に当たったら最悪失明だぞ?」


「……でも本当にゲームしてるだけじゃ もしかしたら日紗子も楽しんでるだけ?」


中に入ると物音しない静かな空間だが 異様に静けさは感じられない

弾の射出角度的に三階からだったのでそこへ向かおうと歩く二人


「二人は車に残して大丈夫なんですか?」


「ロックされた車内ほど安全な場所はねぇからな それに警察を呼んでくれてる」


階段付近に近付けば人の気配 微かに壁を擦る音が聞こえる


「出て来い!!」


定殻の大声は一帯に反響する

再び静寂に包まれようとしたその時

二階から人間が降って来たではないか


「うおっ……!!」


「えっ…… この子って……」


それは三年生の糸田舞だった モロに頭から落下し

頭皮からは血が滴り よく見れば股の間からも血が流れている


「性的暴行の後だ……」


「ハァハァ…… すみません定殻さん 少し楽観してました……」


満夫は手を合わせると 糸田の身体を起き上がらせ 壁に凭れる様に運ぶ

服を掴むと微かにカチンと音が鳴る


「何だ今の音?」


定殻は糸田舞の胸部を注目する 首に杭が刺さっており その下には筒のような物が


「おい満夫離れろ!!!!」


彼の襟を引っ張り距離を取ろうとした瞬間 眩い光と共に爆発音が辺りに轟く

殺傷力は低め だが零距離の糸田の姿は無惨なものだった 火薬の量はけして少なくない 


「ハァハァ…… 犯人は正気ですか……?!」


「イカれた理科の先生…… 本当に犯人は蓮井なのか?」


煙が晴れれば二人は二階へ 同時刻にて外からサイレン音が聞こえる


「警察が来てます 心強いですね!!」


「にしては観念する様子はねぇな……」


二階は誰も身当たらなかった 続いて三階へと向かう

三階通路の壁の向こう側に行こうとした時 容赦ない銃弾に襲われる

壁を死角にして避難する定殻と満夫 恐る恐る通路の状態を窺うと

机と椅子が重なってバリケードが作られていた その中に奴等はいる


「蓮井先生なのか?!」


「うわバレてる!! さては敵は偵察兵だな?!」


「……他にも誰かいるみてぇだな」


定殻はスマホのライトを点灯し 向こうへ勢いよく滑らせた

その一瞬を確認し 蓮井と一緒にいる人間が誰なのかハッキリさせる


「……小学生と一緒にサバゲーですか蓮井先生!! 志村君もこんな時間に何やってるんですかぁ?!」


「……見事に的中しましたね定殻さん」


「うちの嫁と娘は有能ですからね」


校内に入ってくる警官達の足音


「二人共逃げ場ねぇぞ!? 大人しく日紗子ちゃん返せ!!」


「何言ってんだ!! まだ終わってねぇよ!!」


「……ハァ?!」


銃を乱射しまくる蓮井 二人は隠れるしかなかったが定殻は勝機を待っていた

次第に弾は尽き そのチャンスを見逃さずに突っ走る


「馬鹿が!! もう一丁あんだよ!!」


電動のマシンガンを構える蓮井 時を同じくして定殻は隣の教室へと入り弾を回避する


「そんなとこに逃げても無駄だぁ!!!!」


教室の窓を開けて特性の手榴弾を放り込み 再び閉める

爆発音と共に再び窓を開けて銃を乱射する蓮井の背後には満夫が


「お前何処から?」


「二階に戻って逆の階段から来たんだよ…… 日紗子を返せぇ!!!!」


宙から膝蹴りで相手の体勢を崩す 銃口が満夫に向けられた瞬間

教室から出て来た定殻の登場によって注意が散漫になり 蓮井に隙が生まれた

逃さない彼はそのまま渾身の拳を相手の頬にめり込ませて敢え無くノックダウン


「「 ハァハァ……!!!! 」」


同時に警察も駆け付けて御用


「こんな夜中に爆竹鳴らしやがって……」


「クソォ…… ここまでやったら死なせろぉ!!」


「君達も署に同行して貰う ……おい聞いてるのか?!」



「あぁ……」



定殻と満夫は周囲を見渡していた 日紗子と同学年の志村の姿が無かったのだ


「おいアンタら何人で来たんだ?」


「外のパトカー見れば分かるだろ? 状況が状況だから大勢だよ」


「二階に何人いる?」


「階段は包囲してる筈だ それがどうした?!」


「……じゃぁ屋上か」


警官の呼び止めにも応じず二人は屋上へ

風の吹き抜けと共に外に出ると 往生際が良いのか志村はそこにいた


「志村君…… どうして……」


「日紗子のお父さんこんばんわ…… 日紗子もゲームオーバーになったよ……」


志村は視線を逸らさず 屋上の柵の方を顎で指差す

恐る恐る満夫は屋上の下を確認すると


「あぁ…… あぁ……」


そこには突き落とされたであろう日紗子の遺体が 血を纏って倒れていた

満夫はその場に崩れ 大粒の涙がタイルを湿らせている


「志村和成…… 何故日紗子ちゃんを殺した?」


定殻の問いに志村は真顔で


「ゲームオーバーだから…… おじさんゲームしたことないの?」


「…………」


ここまで犯罪心理のいくつかを話し合って来た

だが子供は特にそれを表面上に現さない ましてやツラツラと大人の様に言語化するとも限らない

警察もやって来て志村少年を確保 一緒に俺と満夫も署に連れて行かれようとしたその時


「おい待て!!」


警官の一人が必死に呼び止める 満夫が柵を跨ごうとしていたからだ 


「ごめんな日紗子…… 今行くから……」


誰も手の届かない距離 定殻ですら階段を降りる最中だった

身を投げ出そうする彼の行動は紛れもなく後追い自殺 それを例の少女は許さない


「久留美ちゃん……!!」


「うぅ……!!」


小学三年生の腕力には限界があったが

すぐに駆け付けてくれたのは父親の定殻

引き上げて難を逃れたが 柴塚探偵事務所にとって苦い事件簿となってしまった




二ヶ月後 土筆公園のベンチ


「大丈夫ですか満夫さん?」


「えぇ…… 葬儀に参列して頂いてありがとうございます」


「息子さん…… しっかりしてましたね」


「……そうですね 幸開らきあは日紗子を捜し回っていたあの日も珍しく帰って来て

気遣って慣れない自炊をしてくれてました 仕事も忙しかっただろうに……

ですが数日前に家を飛び出してそのままです」


「家族を失ったんです 気持ちも分かりますが…… もし帰って来なければ連絡下さい」


「ハハ…… 次は本当に家出です 皮肉なもんですね」


「落ち着いたら一緒にどっかで飲みましょう 勿論プライベートで

……俺に出来るのはそれくらいですみません」


「はい……」


一緒に来ていた久留美は満夫と別れ その道中


「私の力って誰かの役に立てるのかな?」


「……満夫さんどうだった?」


「死にそうだった…… 死にたくて死にたくて溜らない……

でも多分…… 日紗子ちゃんに会いに行きたいんだよね?」


「そうだな……」


「お母さんは…… 〝トラウマと向き合う感じ?〟って言ってたけどよく分からない」


「そりゃぁトラウマってのはもっと大きくなってから纏わり付く厄介なもんだからな

久留美が嫌だったら無視しても良いんだぜ?」


「無視したって分かるんだもん…… でも不思議と皆って死にたいこと隠すよね?

逆に口に出して死にたい死にたいって言ってる人からは 死にそうな感じがしないし」


「難しいんだ…… 皆強がって生きてんだよ どうしようもない世の中で死と闘ってんだ」


「私はこの変な力とどう向き合えばいいんだろう?」


「周りに気を遣ってちゃぁ久留美も前向きにならねぇからな

まずは自分が幸せになることだ それ以外は二の次!! 自分の人生これに尽きるな!!」


「……うん 分かった」


これは柴塚久留美 小学三年生の時の出来事

後に両親を亡くして そしてとある少年と出会い

その少年が立ち上げる新たな探偵事務所の従業員となる



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