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3-1.勘違いの初夜①


ピーっという賑やかで可愛いらしいメジロの囀りが聞え、心地よい風が窓から入ってきて寝台の床帳カーテンを揺らす。


その風に乗って遅咲きの枝垂れ桜の花びらが、はらりとはらりと床に舞い落ちるのを、由羅は寝台に横になりながら、見るともなしに見ていた。


そしてため息をつくとごろりと仰向けになって天井を見上げた。

身に着けた衣はビックリするほど上等で、化粧も薄く施されている。

三食出される食事も美味しく、先日紫釉と高級料理店で食べたものと遜色ないくらいだ。


先日まで、粗末な襦裙を着て、3日も食事ができなかった生活を考えると、夢のようだ。

このように贅沢すぎる生活をさせてもらっている由羅であったが、今、壮絶に暇を持て余している状況だ。


後宮入りして1週間。

凌空から聞いた話では、突然皇帝が妃を迎えたことで宮中は大混乱だったらしい。


長らく妃がいなかった皇帝が、突然妃を迎えただけでも驚きなのに、その女性が霊獣の加護を受けた者であるというのだから、混乱はさらに大きくなった。

勿論これは計画通りだ。


由羅がお飾り妃となった目的の一つは紅蘆派をあぶり出すこと。由羅の存在が目立てば目立つほど、紅蘆派は動揺し、何らかの反応を見せるだろうという計略だ。


そしてその計画通り、貴族たちの反応は色々なものがあったようだ。


身元不明の由羅に対する疑念を抱く者、聖獣の力を持つ由羅に対する畏怖を持つ者、国家安泰をもたらす聖獣の力を持つ妃を迎えられることに歓喜する者……


(その反応で紅蘆派が何人か絞れそうだって凌空様は仰ってたわね)


まずは、一定の成果は得られたようだ。

その対応に追われているため由羅に構っている暇がないとのことで、由羅が聞かされた情報はそれだけだった。

その後どうなっていて、今度どうするかの連絡が一切なく、由羅は完全に放置されていた。


(怪死事件の調査はどうなってるのかしら。紅蘆派が分かったなら犯人も特定できたのかしら?)


由羅は後宮で碧華宮へきかきゅうを与えられ、そこに住むことになったが、凌空と紫釉から、碧華宮から勝手に出ないようにと言われている。


凌空からは後宮にいる女官たちに出会った時に、平民丸出しだと侮られ紫釉の名前に傷がつくからだと言う。


そのため由羅の外出を防ぐためか、碧華宮の周囲はかなり厳重な警備が敷かれている。


何か問題が起きても外部にそれが漏れないようにするために、由羅付の侍女も凌空の乳兄弟である蘭香一人である。凌空の身内であれば、信頼できるし対応しやすいからだ。


碧華宮は一般的な妃の宮にしてはかなり小さい宮だが、それでも侍女仕事の一切を蘭香が一人で担っている。

そのため、蘭香は由羅に構っている時間はなく、由羅は一人部屋で過ごすという毎日が続いている。


(はぁ……せめて剣の修行ができればいいんだけど)


身体を動かしていればまだ気が紛れるが、妃である以上そのようなことはできない。

かといって部屋でじっとしているのも、由羅の性格上難しく、なんでもいいから体を動かしたい。


(蘭香を手伝おうかしら)


そう思ったが、初日に手伝おうとして、「だめです。見つかったら凌空様に怒られてしまます。部屋で大人しくしててください!」とくりくりした目の愛らしい顔でぷりぷりと怒りられ、結局部屋に押し込まれてしまったのだった。


(はぁ……せめて紫釉様が来てくれれば、情報が聞けるのに)


そう思って由羅は深いため息をついた。

だが事態が動いたのはその夜の事だった。

夕食を食べ終え、食後のお茶を楽しんでいると、廊下から息を切らした蘭香の声が聞こえた。


「由羅様! 失礼します!」


由羅が返事をするかしないかのうちに、蘭香がバンと勢いよく扉を開けて駆け込んできた。

いつも淑女らしい蘭香が走って来た様子からすると、よほど急用なのだろう。


蘭香らしからぬ行動に、由羅は驚いてお茶を飲む手を止めて凝視してしまった。


「ど、どうしたの?」

「由羅様! 待ちに待ったこの日が来たのです!」


蘭香は興奮気味に言うが、言わんとしていることが分からず、由羅は首を傾げた。

そんな由羅の反応に、蘭香はじれったそうに手をぶんぶんと振って力説する。


「ですから、陛下がお渡りになるんです!」

「本当!?」


漸く話が聞ける。それに由羅が今後どう動くべきかも相談しなければならない。


由羅がお飾り妃となったもう一つの目的は、後宮内や皇帝が私的に過ごす黄虎殿おうこでんでの護衛だ。なのに肝心の紫釉と会えず、どうすればいいのか困っていたのだ。


そんなことを考え、真剣な面持ちの由羅に対し、蘭香は興奮しながら息巻いて言った。


「せっかくの初夜ですもの。わたくし、腕によりをかけて由羅様を磨きますね! 大船に乗ったつもりでいてくださいませ!」

「えっ!? しょ、初夜!? ちょっとそういうのじゃないわよ!」


蘭香は完全に誤解しているようだ。


確かに妃であり、皇帝が夜に後宮に来るならば共寝をすると思うのは当然だろう。

だが由羅と紫釉はそう言う関係ではない。が、それを蘭香に言うわけにはいかない。


非常に困ってしまった。そもそも初夜と思われる時点で恥ずかしすぎる。

どう言えばいいのか考えあぐねていると、由羅の心を知ってか知らずか、蘭香は目を更に輝かせた。


「では、さっそく湯の準備をしますね!」

「あ!」


由羅が止める間もなく、蘭香は部屋を出て行ってしまった。


「いやいや、ちょっと待って!」


そうして蘭香を止めることができないまま、由羅はあれよあれよと初夜に向けての準備をさせられることになってしまった。

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