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【エピソード追加しました】命を狙った皇帝のお飾り妃になりました―この謎、私が解決します!―  作者: イトカワジンカイ


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12-1.紅玉薬の正体

由羅は自室で麻花(かりんとう)をつまみながら、もう片手で紅玉薬のガラス瓶を弄んで見つめていた。


掌に収まるほどの赤い硝子の小瓶は、光に透かすと紅宝石(ルビー)のように鮮やかな赤で、輝くばかりに美しい。


容器の形も凝っていて、瓶は八角形をしており尻すぼみの形になっている。

瓶の蓋も硝子でできていて、上部の丸い栓には、唐草模様のような意匠が施されていた。


(紅玉薬……紅宝石みたいな瓶から名前が来ているのかしら?)


由羅が片手で小瓶を揺らすと、中の液もちゃぽんと揺れた。


瓶の大きさは一寸(5センチ)程度なので、この小瓶の中の紅玉薬もまた少量しか入っていない。


だがこの少量の薬が事件に関与していることは間違いない。


(でも紅玉薬と死亡原因の関連性を調査するっていってもねぇ……どこから手をつければいいかしら……)


由羅は悩みながら再び片手で麻花をつまんで口に運んだ。


油の香ばしい香りと絶妙な甘さが癖になる。

蘭香が作るものは何でも美味しいが、麻花も絶品だ。


もう一度麻花に手を伸ばしたところで、由羅はふと思った。


「そもそもこの紅玉薬の味ってどんな味なのかしら?」

瑤琴(ようきん)は「大変苦い」と言っていたようだが、苦いと一口に言っても種類がある。


例えば、濃い緑茶の苦さと苦瓜(ゴーヤ)では苦味の種類が異なる。


蘭陵は漢方薬ではないと言っていた。そして乾泰国では使用しない素材で作られていると言っていたこともあり、味の想像が全くつかない。


だが、この薬自体が何なのかが分かれば、死亡原因との関連性が分かるかもしれない。


(そうよ! まずはこの薬を調べる必要があるわね! ……まずは、香りを確認してみましょう)


被害者の死亡状況からすると毒を吸って死亡したわけではないので、香りを嗅ぐ分には問題ないだろう。


由羅はそう判断し、紅玉薬の小瓶の蓋を開けると、そっと鼻を近づけ、手で仰いで香りを嗅いでみる。


薬草の香りがするのか、刺激臭なのか、花の香りなのか……

だが由羅の予想に反して、まったく臭いがしなかった。


(無臭? なのに薬の効果がある?)


普通、漢方薬だと薬草独特の香りがするのが通常だ。

だから無臭であることに由羅は驚いてしまった。


(やっぱり味を確かめてみないと分からない……か)


由羅は紅玉薬をじっと見つめた。

正体不明の液体を口にするのはやはり躊躇いがある。


こんな怪しいものを、美しくなるのであれば飲もうという女性たちには美に対する執念を感じる。ある意味尊敬してしまう。


それはおいておいて、死亡原因が分からない今、これを飲めば由羅も死んでしまうかもしれない。


(でも、この薬を飲んで死んだのは妃候補の4人だけで、他の摂取者に死亡者はいないし)


虎穴に入らずんば虎子を得ず。

少しでも手がかりが欲しい状況だ。


それに多少の毒ならば、由羅には耐性がある。


黒の狼として様々な毒を扱う機会もあるし、任務中に毒矢で傷を負うこともあるため、毒で体を慣らし、耐性を付けているのだ。


もし紅玉薬に毒性があるとしても、飲まなければ大した問題はないだろう。


たぶん……。


「よし、舐めるだけなら……うん!」


由羅は気合を入れると、小瓶から少しだけ掌に薬を垂らした。


見た目は透明で、匂いもないことから水と言われても信じてしまいそうだ。


そして、掌に取った紅玉薬をひとなめした由羅の口の中に、妙な甘だるさが広がったと思った次の瞬間、強烈な苦味に襲われた。

思わず口をへの字にして、慌てて麻花を5本ばかり立て続けに口に放りこんで口直しをした。


「うわぁ……何この独特な味……」


由羅は胡散臭いものを見るかのように、眉間に皴を寄せて光を反射する赤い小瓶を睨みつけた。


とてもじゃないが、これを飲もうという人間の気が知れない。

だがそう思うと同時に、この味には覚えがあった。


(この味、知ってる気がするわ。その時にも独特な味だって感じたはず。いつだったかしら……)


由羅はそう思うと記憶を辿った。


ただの風邪でこのような薬を飲んだことはない。

何か特別な病になった時に飲んだ?


考え込んでいると、廊下から蘭香の声がして、由羅は思考を中断した。


「由羅様、お茶のお代わりをお持ちしましたが、いかがいたしますか?」

「じゃあ、いただこうかな」

「失礼いたします」


蘭香は湯気の立つ茶器を持って部屋へと入って来ると、由羅の目の前に置かれた冷めきった茶器と持ってきた茶器を優雅な手つきで取り替えてくれた。


「ありがとう」

「いいえ。春になったとはいえ、今日は少し冷えますし。温かいお茶で体を温めてくださいませ。風邪をひいて熱を出したら陛下が死ぬほど心配されるでしょうから」


「ふふ、私はそんなに柔じゃないわ。熱なんて滅多に出たことがないのよ。前回熱を出して倒れたのは10歳くらいの時だったかしら。熱病になって倒れたのが最後よ」


熱病――正確には酷虐(マラリア)という。


南国に位置するテフェビア王国ではよく発症する病気で、蚊を媒介とした感染病の一つだ。


乾泰国では聞き馴染みのない病気だが、テフェビア王国に近い地域にあった黒の狼の村では、度々発症する者がいた。

由羅もまたその一人で、子供の頃に感染し、高熱を出したのだ。


「まぁ、熱病なんて一大事じゃないですか!」

「私が暮らしていた地域ではたまにある病気なの。だけど、よく効く薬があるからすぐに治ったわ。その薬がすっごくマズくて……」


その時の記憶を思い出した瞬間、当時の記憶が鮮やかに蘇った。


熱病に倒れて苦しく浅くなる呼吸。

火照った体。

ぼんやりとしてくる視界。

崔袁(さいえん)宇航(ゆはん)の心配そうな顔。

そして口にした甘くて苦い独特な風味の薬。


その薬の名は……

「キニーネ……」


そう、この紅玉薬は、あの時飲んだキニーネと同じ味がしたのだ。


間違いない。

熱病で倒れた時に口にした薬と同じ味だ。

あの独特な風味を間違えるはずはない。


キニーネはテフェビア王国の風土病である熱病に効く薬で、強力な解熱効果があるのだ。


そこそこ高価なのだが、確実に熱を下げることができるため、国民の多くが飲む薬なのだ。


(あれは透明で無臭だったし、もちろん毒性はない。テフェビア王国にしかないキナの樹皮を原料にしているから、乾泰国では作れない薬だわ)


全ての条件が一致している。

紅玉薬は、十中八九キニーネだと言える。


だが、そう思う一方で、やはり翠蓮(すいれん)たちだけが死亡した原因が分からない。


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