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マミルとマモル  作者: 舟津湊


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実験観察①温厚マミちゃん

 実証すること。マミちゃんの正体は、タヌキか、アライグマか?

 実験方法。タヌキは臆病でアライグマは攻撃的らしい、よってマミちゃんが怒るようなことをいくつか試してみる。

 ここ数日、マミちゃんの隣に座っていて感じたこと。

 とにかく控えめでおとなしい。レイをリーダーとするクラスの女の子グループと話しているときも、いつも微笑んでいる。  

 時々、照れたように「エヘヘ」と笑う。「アハハ」でも「イヒヒ」でも「ウフフ」でも「オホホ」でもなく。そこが可愛い……オホン、それはさておき、たまに遠くを見る目で悲しそうな顔をする時がある。何を想っているのだろうか。 

 授業中は時々、居眠りをする。でもなぜなのか。タヌキが夜行性って話だけど、マミちゃんもそうなのか。もしそうなら、夜中に起きて何をしているのか?

 これらのことから、何か結果が見えているような気がするが、やってみないとわからない。いや、マミちゃんのことをもっと知りたい。というわけで実験と観察を敢行することにした。


 ネットで「怒り・怒る」と検索すると「アンガーマネジメント」とかいう、怒りをコントロールする技術に関する情報が結構目につく。それによると、怒りは、身を守るために備わっているもので、危険を感じたり、大切な思いを踏みにじられたり、思いどおりにならないことがあると、怒りを感じるらしい。この実験はそれを応用してみた。

 お手洗いから帰ってきたマミちゃんが、廊下を歩いてきた。ぼくは、スマホに夢中になっているフリをして、マミちゃんの進路を塞ぎ、ぶつかりそうになる。いや、本当にぶつかってしまった。マミちゃんがアライグマなら、「何するのよ、気をつけてよ!」と怒り出すだろう。


「キャッ」

 マミちゃんは小さく叫び、ハグするようにぼくに抱きついた。

「ヒューヒュー!」

 廊下を歩いていたり、立ち話をしていた生徒たちが冷やかす。実験失敗だ。


 昼食の時間。マミちゃんが珍しく一人で自分の席で弁当を食べている。ぼくは購買で惣菜パンを買ってきて、自分の席で食べ始める。

 頃合いを見て。

「林田さんのお弁当、おいしそうだね」

 と、断りもせず、おかずをつまんで口に入れる。炭火で焼いた、香ばしい鶏肉だ。うまい。それはさておき、マミちゃんの様子をうかがうと、ちょっと悲しそうな顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻して、

「叔母さんのお店の残りものだけど、もう一つ食べる?」

 と、お弁当箱を差し出してくる。いい子だ。ことの成り行きに身を任せて、もう一個いただく。

「その代わり、焼きそばパン、少しもらっていいかな?」

 ことの成り行きに身を任せて、焼きそばパンを分ける。マミちゃんは美味しそうに食べる。

「ヒューヒュー! 弁当の交換か。うらやましいぜ」

 近くにグループ席を作って弁当を食べていた男女生徒がはやし立てる。またもや実験失敗だ。

 

 一応、結論。マミちゃんはおとなしく、優しく、怒ったりしないので、アライグマではない。

 その日の夜、ぼくは宿題を終えると、無地のノートに実験結果を書き記し、反省文を付け加えた。

 マミちゃん、ぶつかって怖い思いさせちゃって、ごめん。

 勝手におかずを横取りして悲しませちゃって、ごめん。

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― 新着の感想 ―
どうしても水星たぬきの声が連想される……! こりゃたぬきだ。 突然変異なしっぽのタヌキだ。
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