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第4話 タック回想

 タックは少し昔を思い出していた。


「エローナお姉ちゃんもミルクお姉ちゃんも、正義の味方で悪い奴らをやっつけるのが仕事なの!? カッコいい! ヒーローだよ!」

「えへ、えへへへ、そうかなぁ?」

「タック、正義と悪の定義は……あ、もういい、めんどくさい。かわいい。それが一番大事」


 エローナとミルクの二人に養子として引き取られたころ、二人が何の仕事をしているのか知ったタックは目を輝かせた。

 戦災孤児で死ぬしかなかった自分を救い、力も与え、それどころか引き取り、温もりをくれた二人を女神のように思い、そんな二人が正義の味方であると知ったタックの驚きと尊敬と憧れは加速した。


「ねえ、お姉ちゃん! 俺も、俺も正義の味方になる! 銀河警備隊に入る!」

「え? ダメぇ! 危ない仕事だから、タッくんにはさせません!」

「危ないからダメ。タックはこれからはただ幸せになればいい」

「やりたい! お姉ちゃんたちの仕事も手伝いたい! それに……俺もその仕事をやれば、いつもお姉ちゃんたちのそばにいれるかなって……えへへ」

「ンほぉ!? た、タッくん、あ、だめ、もうむり、今の反則……」

「タックは危険……私たちを誘惑しすぎる……いつもそばに居たいとかナニソレ悪魔の誘惑? 弟・即・性……もう、これが私の正義になりつつある」


 今では「やっぱり危ない」ということで辞めさせられそうになっているが、タックの元々の始まりはそういう思いからだった。


 最初のころは姉たち二人もタックの「警備隊になればいつでもそばにいれる」という誘惑に即落ちして、協力的であった・


 姉に言われたことを何でもする。

 それが銀河警備隊初期のタックの仕事だった。



「くっ、殺せ! だが、覚えておくことだ、銀河連邦の犬ども! たとえ私の命が潰えたとしても、私の魂は生き続ける! そして私の無念の想いと誇りを受け継いだ仲間たちが、いつか必ず革命を成し遂げる! 仲間の情報は死んでも吐かぬ!」


「うるさい。タック、めんどくさいからこの女をズブリ。GO!」



 捕らえられたのは反銀河連邦を掲げるテロ組織の女幹部。

 尋問や拷問には屈しないという断固たる意志を秘めている。

 だが、全ては無意味。


「う、うん、エローナお姉ちゃん。え、えっと、あの、革命家お姉さん、失礼します」

「ぬ? なんだ、そんな小さき少年兵を使うほど銀河連邦は人材不そ……か、かわいい……って、そうではなく、坊やここは大人の……え、ちょ、何で脱い……ふぁっ!? しゅ、しゅごい……ごくり!」


 タックは普通の人間ではなかった。

 見た目はただの小柄な童顔の少年だが、その正体は銀河連邦最高の頭脳を持つ女によってあらゆる技術を盛り込まれた改造人間。

 

「あ、ちょ、少年、ま、待って、あ、そんなかわいく……!!!! ッ♥♥♥♥♥♥♥」


 百万馬力のパワー。。

 無尽蔵のエネルギー。

 無尽蔵の精。

 さらに……


「タックのテクもアレも超銀河級。私と妹との実戦で長時間仕込んだので……抗える女皆無。ブイ(ーー)v」


 その技術は徹底的に叩き込まれたものである。



「タックに関わった女は一生離れられなくなる。だけど、一生独占できるのは私と妹だけ。たまになら貸してあげる。その代わり、貸してほしければ情報吐け」

 

「ぐっ、銀河警備隊め、こ、こんなかわいい少年に女を凌辱させようとするとは何という鬼畜! 非道! やはり革命が―――くっ、やめろ、少年! そんな可愛い顔してこのようなエッチな――かわいい、あ、ちが、かわいい!」



 革命のためなら命すらも捨てる覚悟を持った女幹部が弱い女の声を上げた。

 だが、その程度で終わらない。

 それを何十分も繰り返す。

 そして最後は……



「ば、ばかな、これが男というものなのかァ!? 絶妙なる反則ぅぅぅ~~! いやいや、わ、私は、革命家! 銀河連邦を打倒して、真に平等なるショタとイチャラブ、じゃなくてぇ、いちゃいちゃァ~♥♥♥」

 

「革命家お姉さん、……だいじょうぶ?」


「しかも可愛いとか、負けるしかないいい♥♥♥♥♥♥」



 気づけば女幹部自らタックにせがみ、くっつき、タックをもっと求める。

 さらに……


「うおおお、隊長~助けに来たぞォ!」

「俺たち反銀河連邦軍! 同じ志の仲間は決して見捨てない!」

「くっ、酷い……おのれぇ、よくも私たちの仲間を!」


 女幹部の仲間たちが危機に駆けつけても……


「や、やめりょおおおおお、くるにゃああああ! いま、タッくんとラブラブしてるところぉおおお~!」


 仲間より、自分の救出より、今はただタックが優先。

 タックと交わる女はすべからくタックに屈する。

 そして……


「いま、俺はこのお姉ちゃんとイチャイチャしてるから……邪魔しないでぇ!」


 タックは女幹部を抱きしめながら、その手に鉄球を持ち……


「くらえええ、デッドボールぅぅ!」


 その百万馬力の肩で鉄球を投げる。

 それだけで―――――


「へ、なんだぁ? 飛礫? そんな原始的なもん……な、シールドが!?」













 ソレは愛でられながら生まれて、ただただ可愛がられて生きてきた。



「タック、今日もお疲れさま。お前は本当に最高過ぎる。強くて可愛くて女を悦ばせるとかワンダホー。あと可愛い。大事なことだから可愛いは二回言った。もうだめ、ご褒美あげる。テロ組織の艦隊を潰し、さらには幹部にアジトや仲間の情報を全部喋らせた。お姉ちゃんとのイチャイチャがご褒美。ううん、私のご褒美でもある」



 全裸の上に白衣一枚だけ羽織った美女が、自分の胸元よりも背の低いタックを押し倒す。



「やった。俺、エローナお姉ちゃんの力になれてる? ミルクお姉ちゃんの力になれてる?」


「当たり前。私もミルクもお前なしの人生はもうありえない。そんな人生があったら壊す」


「そっか……良かった……命を助けてもらって、血の繋がらない俺を引き取ってくれて……大切にしてくれて……俺、そんなお姉ちゃんの力になれてうれしい」


「鼻血出た。お前は私を尊死させる気? 我慢できない。今日は受精待ったなし。ミルクの帰宅を待つの不要」



 もう、無理だと無表情ながら鼻息荒くするエローナは、そのまま巨大な大蛇のようにタックを飲み込もうと……


「エローナ姉さま、ダメぇぇぇぇええ!」

「……ちっ」

「夜は三人仲良くって約束、何で破るかなぁ?」


 と、そこで家の扉がドカンと開き、頬を膨らませたミルクが帰ってきた。


「あっ、ミルクお姉ちゃん……おかえりなさい」

「タッくん……んきゅ~~~♥ 半日ぶりのタック~~~ん♥ ぶちゅう~~~♥」

「ひゃ」


 しかし、頬を膨らませたのは一瞬だけで、タックの姿を見た瞬間、ミルクはでれでれの締りのない顔になって、タックを抱きしめてキス。


「ミルク……なぜ私より先にキスしてる? 私が先。今日は先」

「んもぉ、エロ―ナ姉さまったら何を言ってるの? 昨日はエローナ姉さまが先だったでしょ? だから今日は私から!」

「ケンカしないでよ、お姉ちゃんたち……俺、頑張るから……仲良くしようよ……ケンカはやだよ……」

「「♥♥♥♥♥♥」」


 最初のころは、それが幸せであり、何の疑問も持たず、ただ姉たちの言われた通り、望まれるとおりに生きてきた。


 だが、そんな幸せな日々の中で、タックも少しずつ成長していき、「このままでいいのか?」という疑問と同時に、少しずつ変化が生まれてきた。


 過保護な姉に甘やかされている男という周囲の反応や視線に気づき始めてから、それが顕著になり始めた。


 その果てで、今こうしてタックは自分の意志で勝手な行動をし、そしてこのような事故に巻き込まれることになったのだった。

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