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ぎっくり腰には誰も勝てない

俺が勇者パーティーからの離脱を表明したのは、二度目のぎっくり腰でベッドからしばらく動けなくなってからだ。

思えばこの20年酷使に酷使を重ねた体は限界達していたんだろう。

もう若くはない。20歳で異世界に転移してから今年で20年。もう40歳。

日本でも40はどこに出しても恥ずかしくないおっさんだが、この世界では中年を越えて初老扱いだ。

引退する時が来たのだと俺はそう思った。


「すまん。俺はもうこれ以上旅を続けるのは無理みたいだ。ここで離脱したいと思う」


宿屋兼酒場のテーブルに座るメンバーに向かって俺はそう切り出した。

ちなみに腰が痛いので俺は一人立っている。


「そんな!辞めないでください!前にもぎっくり腰をやったときも一月くらい養生したら良くなったじゃないですか」


勇者パーティーのリーダーであり、人類の希望の星の一人、勇者ホムラが俺を引き留めてくれた。

ルビーのような真っ赤に輝く髪を持つ美少女。まだ若干二十歳。若い。肌が光っているようだよ。

ホムラだけではない、他の仲間も次々と俺を引き留めてくれた。3年近く苦楽を共にしたメンバーたちだ。もれなく全員若い。俺はこれまで指導者や保護者代わりにやって来た。子供のいない俺には娘や息子みたいなものだ。そんな擬似家族のようなパーティーから、俺率先して抜けたい訳じゃない。


「前から考えていたことだ。ぎっくり腰はいいきっかけというだけなんだ。俺はもう若くない。ここからはどんどん体力は落ち、腕も鈍る。それに引き換えお前たちは若い。これからどんどん伸びていく。そんなお前たちを俺の腰の事情で留めさせる訳にはいかねえよ」

1年前にも初となるぎっくり腰をやっていた。宿屋で床に落ちた何かを拾おうとした時だ。

一瞬、腰に雷が落ちたんじゃないかと思った。歴戦の戦士としての威厳もなく、おれはその場で動けなくなった。戦闘中じゃなくて本当に良かった。

その時は満足に動けるようになるまで3日。戦闘が出来るまで回復するのに一月かかった。

そしてつい先日に二度目である。

これがただのパーティーだったら養生期間や修行期間に当てられるかもしれないが、俺たちは勇者パーティーなのだ。魔王軍を退け魔王を討つ使命がある。

勇者パーティーを足止めさせることは、魔王軍からの攻撃で救える命が救えなくなるわけで、間接的に魔王軍協力することになってしまう。

皆もそれはわかっている。それでも引き留めてくれるのが嬉しかった。信頼してもらていたのだろう。加齢臭するからまじ早く抜けてもらいたかったとか、言われなくて良かったです。


「昔は知識や技術を指導してやれたが、もう教えることもないし、みんな俺よりずっと強くなった。俺はスキルもないから体のでかさと基礎体力だけが取り柄だった。でも40だ。もうそれも通じなくなってきている。このままこのパーティーにいても俺が惨めな気持ちになりそうなんだ」


ホムラはそれでも最後まで粘っていたが、最後にパーティーのブレインだった魔法使いに説得され、俺を説得することを諦めてくれた。


こうして俺は勇者パーティー離脱した。

俺はやめるだけだから、責任もなく気楽なものだが、残されたホムラたちは俺が抜けることは大問題である。

ピークは過ぎているがそれでも俺は相当に強い戦士だったと思う。

だからこそ勇者パーティーに入るよう王令が出たのだ。

その代わりを探さなくてはいけないのだ。

俺たちの旅は王都を出て魔王軍の領土近くまで迫ってきている。

現在滞在している街は近くにダンジョンがあり、腕のいい冒険者が多くいる街なので、俺の代わりになる腕のいい冒険者はきっと多くいるだろう。

勿論そいつが加入してくれるかどうかはわからないが。見つからなければ別の街にいくこともあり得る。最悪王都まで戻らないといけないかもしれない。

勿論俺も後釜が見つかるまでは同行させてもらうつもりだった。腰が治れば。


だがそんな心配をよそに、俺の腰が治るよりもずっと早く代わりのメンバーは見つかった。

斧使いと二刀流剣士の前衛二人だ。

俺の代わりには一人では心許ないとのことだった。

この街で頭角を表していた若いが優秀なパーティーのメンバーらしい。


こうして勇者パーティーは街を去っていった。魔王軍の本拠地を目指して。


俺はこれまでの貯金を切り崩しながら街に残り養生を続けた。






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