07.一人で
色々ありすぎたのでもちろん今日も早帰りとなった。
正直早く帰れることは紅炎にとっていつも以上に嬉しいことだった。
何故かって?それはこの気まずい空間から一刻も早く脱したいからである。
相変わらず紅炎に近づいてくる生徒もいれば、今回は距離を置き始めた生徒もいた。
割合は五分五分といったところで何より後者の生徒の視線が痛い。
「ほれほれ散った散った。前もそうだが俺にはこれが何なのかよく分からないって言っただろ。...まぁ今回の件でこれが現実だということは俺の中で完全証明されたけどな。」
周りからの視線がさらに熱くなる。
「なんで?」
一人の生徒が問いかける。
「俺、首切られただろ?それもかなり綺麗に。」
周りがざわざわとしだした。
見渡すとあまり顔色の良くない生徒もいた。
「あー、あんな場面思い出させてすまん。だけど、俺あのとき...」
「あ、あのとき?」
「痛かった。それもとてつもなく。多分だけど、人が首を切られたとき本当にあの痛さを経験するんだろうなと思った。」
本人にはあまり自覚がなかったが、この時紅炎はかなり良くない顔をしていたらしい。
そのせいかクラスメイト達はだんまりとしてしまった。
「まぁ生きてるんだし良かったよ。俺にはやりたいことがいくらでもあるし。」
そう言いつつ席を立ってランドセルを背負った紅炎は「じゃ、俺帰る。」とクラスメイに手を振って教室を後にした。
途中教員に呼び止められたりしたが、「俺は何も分からないです」とあしらっておいた。
家に着くと母の水澄といつもどうりの言葉を交わした。
今はそれがとてもうれしく感じた。
自然と微笑みが出てしまったのだろう。
水澄が不思議そうな眼差しで紅炎を見つめていた。
ふと思い出したかのように水澄が時計を見て、もう一度紅炎の方へ視線を寄せた。
「そういえば今日帰って来るの早くない?」
漫画ならギクッっという効果音が入ってもおかしくないくらいに紅炎の頭に焦りが来た。
どう誤魔化そうかと悩んでいると良い感じの言い訳を思いついた。
「前の化け物の死体が急に消えたことについて警察が学校を借りに来たらしい。」
「そうなの?それなら早いのも仕方ないわね。」
恐らく誤魔化せてはいないが、どうせいつかは知られる事なのでそれまでの延命的なものになった。
そこからは学校であった偽りの出来事に話をすり替えてなんとかなったことに紅炎はホッとした。
しばらく雑談をした後水澄が買い出しに行ったので紅炎は自分の部屋へと戻った。
そしてベッドに寝っ転がると重い眠気がやってきた。
このまま眠ってしまおうと思ったのだが頭がなかなか眠りモードにならなかった。
(俺はこれから普通に生きられるのだろうか。俺はもう人ではないのか?ただ普通に生きたいだけだったのに。俺が...どうして俺がやらなくちゃならないんだ。)
どうしようもない不安と恐怖に思わず涙が出てきた。
そして、とても疲れていたのだろう。
気づけば意識は落ちていた。
目覚めは正直良いものというのはなかった。
水澄に体を揺さぶられ紅炎は嫌々目を開けた。
「紅炎、ご飯できたけどたべる?」
「...食うけど少し後で下に降りる。」
水澄はなるべく早く降りてくるよう紅炎に伝え、部屋を出た。
目を覚ました後まず初めにしたことはニュースの確認であった。
どうやらまだ今日のことに関するニュースは出ていないようで少し安堵した。
(さて、問題は家に伝わってるのかどうか)
いつもはするはずのない緊張を感じ、心臓の鼓動が早くなっているような気がした。
だが、水澄に早く来るよう言われた以上長々と籠もってられないので、少し呼吸を整えた後、部屋を後にした。




