不安
「はぁ……」
湯船に浸かりながら紅炎はゆっくり息を吐きだした。
(母さんが知っているということは少なくとも同じ学校のせいろの家族は知っていそうだな。)
昼の事件について考えていると、それに自分が大きくかかわっていることを思い出して体が震えた。
あの時の紅炎はほぼ無意識に行動していた。
ただ自分が何かしなければいけないということだけが頭にあった。
そして、あの怪物を殴った時、ただその時だけ何も感じなかった。
怪物を自分が一殴りで倒した快感、生き物を殺した罪悪感、目の前で飛び散った赤色とは程遠い色の血の不気味さ。
全ての感情を紅炎に感じさせないように何かが守っていたような気がした。
紅炎はいまだに自分のしたことなのだと微塵も感じていない。
だからいまだに夢なのではないのかと思っている。
だがそれも何かが否定している気がするのだ。
いろいろ事件について考えていると、すでに十分以上湯舟に浸かっていた。
普段はあまり湯舟に浸からないので、のぼせそうだと思い風呂場を出た。
部屋に戻りベッドに横たわってスマホを見るとメッセージアプリに数件メッセージが届いていることに気が付いた。
だが、今返信するのも面倒だと思いメッセージアプリを開かなかった。
紅炎はかなりのめんどくさがり屋で、何か興味があること以外はまず面倒だと思ってしまう。
そんな性格なのに周りに友達ができているのはある意味奇跡じゃないかと自分でも思う。
他にすることもないので今日はもう寝ようと思い部屋の電気を消し、ベッドに横たわった。
変な時間に寝てしまっていて、目を瞑ってもなかなか寝付けないので少し昼のことを思い返してみた。
すでに何度も見返しているので特に新しい気づきなどは無かったので、明日学校に行った時の他生徒の質問ラッシュをどう切り抜けるか考えていた。
そして、少し頭を使っていたら疲れたのか気づけば寝てしまっていた。
「はぁ...」
一日のスタートがため息から始まることに嫌悪感を感じながら、階段を降り、リビングへ向かった。
リビングに入るといつもと同じ朝のニュース番組を見ている家族の姿が目に映った。
紅炎はそこまでニュースを見ないのでテレビにあまり目を向けることなく朝食が置かれた食卓の前の椅子に座ると水橙、そして父親である光輝がこちらに目を向けてきた。
「紅炎……」
水橙がいつもとは違う元気のない声で紅炎の名前を出した。
その時点で嫌な予感はした。
案の定、先ほどまで両親が見ていたテレビの画面を見ると見慣れた校舎が映っていた。
「紅炎、どうして昨日はこのことについて何も言わなかったのよ……。」
水橙の言っていることはもちろん正しい。
だが、言ったところで誰が信じるのかということが昨日は起きた。
「それは……ごめんなさい。」
「紅炎、父さんは一つ聞きたいんだが、この怪物を倒したのは紅炎という話を聞いたんだけど本当かい?」
「うん、俺もよく分からないけど多分そういうことでいいと思う。」
「そ、そうか……」
光輝はあまり深く聞くつもりはなかったのかそれ以上は質問することなく顔を抑えた。
質問に答えた後、紅炎は朝食に食べているパンを眺めていた。
(そういえば支度してるけど今日って……)
「母さん、今日って学校あるの?」
今突然思い出したので聞いてみたのだが、母の顔はあまり良いものではなかった。
「連絡は無いから多分あるけど……行くの?」
正直、学校が休みではないことに一番驚いた紅炎だが、それを聞いた瞬間行動は決まっていた。
「行くよ。俺は」
朝食を食べ終え、両親に心配そうに視線を向けられていたが、それを無視し、いつものように玄関を出た。