11.少しの安心...
老人と碧斗達とは一旦分かれて紅炎は自分の教室に戻った。
当然クラスメイトは紅炎のことが気になるようでどんなことがあったのかと聞きに来る。
「俺の持ってる力の説明を聞いてきた。俺がみんなに説明するとなると色々話さないといけないことが多くなるから今度でいい?」
「なんでだよ。別に今でもいいだろ?時間ならあるし。」
「いやだって...めんどくさいじゃん?」
呆れられた眼差しで見つめられた。
まぁ説明はまた今度の自分に任せようという事で周りの目を気にせず机にうつ伏せになって眠った。
――
「おい紅炎起きろー。下校の時間だぞー。」
国語の授業中に意識が睡魔に持っていかれそうになりながらも何とか目を閉じるのは瞬きの0.1秒のみに抑えるよう頑張ったつもりだったのだが...まぁ結果がこれだ。
いつまでも教室に居てられないので、伸びをして、席を立ち、ランドセルを背負って帰るかと思い前を見ると...碧斗がいた。
「どわぁぁぁ!」
自分でもなんて恥ずかしい驚き声だろうと思った。
「どうしたんだよ。そんなに驚いて。」
「どーしたもこーしたもあるか!なんで普通に入ってきてんだよ!」
「いや俺たち今日...というより明日からこの学校通うし。」
なんだろう。俺のほうが変なことを言っているかの様に感じてきた。
「まぁ、いったん教室出ようか。」
碧斗の腕を引っ張り早足に今日あいつを出た。
「お前ら全員うちのところ来るって元のところどうすんだよ。あと家も。」
「まぁ何とかなるだろ。」
「んな適当な。」
「おっ、紅炎!お疲れー!」
水城と一緒に待っていた神たち計8名と合流。
なんと密度の大きい下校だろうか。
普段から一緒に帰る友達はいるのだがそれもここまで大所帯じゃない。
「お前ら俺と同じ道歩いてるけどこっち側なのか?」
「いや紅炎を送ろうと思って。」
「じゃあお前らはどこに」
「教えない。」
碧斗は紅炎から目をそらしてそう言った。
まあ言いたくないことくらいいくらでもあるだろう。
なんせここにいる全員は今日初めてあったばかりである。
協力を必然としている関係ではあるが、プライベートにおける信頼にまでは至らない。
だが、この中で今のところ一番仲良く慣れているのは恐らく碧斗なので少し寂しさを感じてしまった。
「じゃ、じゃあまた明日から学校で...」
「おう、よく寝ろよ。」
(全く寝れる気がしないけども)ということは心の中にとどめておいて代わりに苦笑いを届ける。
手を振りながらゆっくりドアを締め赤い夕日を完全に断った後、靴を脱ぎ家に上がる。
「おかえり」という声がリビングから聞こえた。
返答を返すために紅炎もリビングのドアを開けると、水澄がすでにこちらを向いていた。
「あら、紅炎。良いことでもあった?」
この質問の意図がはじめはよく分からなかった。
いま紅炎の表情は笑顔だった。
今朝からは想像できないほどに。
(そうか、俺はあいつらの存在に安心しているのか。)
ここ数日この力のことを家族以外に共有せず唯一共有した家族からは心配。
当然といえば当然だがなんとも表現しがたい気持ちになる。
だが、そんなことを気にせずいられる存在が居ることは安心できた。
「まぁ、ちょっとね。」
「なによー。勿体ぶって。」
「別にそんな大事なことじゃないから。」
水澄が少し安心した表情を浮かべてくれていた。
そのおかげというべきか、口元が緩んでしまった。今の表情を水澄に見られるのは少し恥ずかしいので、振り向かぬよう自分の部屋へ向かった。
家にいるときの生活は特に変わらないのでいつもと変わらずただスマホを眺めて時間を浪費していた。ふとスマホの左上を見ると19:30と表示されていた。そろそろ水澄が呼びに来る頃だろう。折角時間に気づいたので今日は自分から降りようと快適なベッドから起き上がりドアを開けた。
「あら紅炎珍しいわね。」
階段を降りていると丁度紅炎を呼びに行こうとする水澄がリビングから出てきた。
「そろそろ母さんが来るだろうと思ったから降りてきた。」
「もしかして今日がカレーだってことも?」
「それは知らん。」
言葉は素っ気ないが、紅炎は少しにこやかに返した。
晩ごはんを食べ、少しした後風呂場へ向かい、一通り洗い終えた後、湯船に浸かっている今だ。この時間は普段から考え事を一人でしていることが多い。例に漏れず今日もまた考え事をしていた。
今回のテーマはみんなの紹介にもあった「能力」について。割とシンプルなものもあれば少し複雑な物もあった。
葉陽と葉月の二人と恵の能力だ。実際に見てみないとどれほど戦闘に活かせるかが分からない三人の能力は次何かしらの機会で目の前で使ってもらい、用途を明確化しておきたい。
...そういえば願いを叶える力とかいう話が先代からあった。そして最も大きいのは一度目の願い事で、代償(寿命)無しで叶えられる。紅炎には1つ叶えたいものがあった。だが、先に他のメンバーたちに許可を貰わなければならないということで今は使っていない。
どれほど長く湯船に使っていたのか分からないほどに思考していた。風呂場から出て体を拭いているときも少し視界がふらふらとしていた。
パジャマに着替えリビングへ行くと光輝が帰っていた。水澄となにやら話している様子だった水澄に横から「おかえり」と紅炎が言うと「ただいま」と返ってきた。学校について聞かれるかとおもいきやそんなことはなく、特にそれ以降会話することはなかった。




