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二つの世界

いつの間に眠っていたんだろう。

目が覚めると、いつもの俺の部屋だった。


「……また、ここか。こっちが現実、なのか?」


あたりを見回すと、確かに俺の部屋である。

スマホを取り出して日付を確認すると、いつもの日常を過ごしたあの日の翌日で、間違いなかった。


「こっちで眠ると向こうの世界に行くのか?で、あっちで眠ると戻ってくる?」


あの世界が並行世界だと聞いたことで、様々な疑問が浮かんでは消える。

そのまま、悶々としていると、


「宗二!いつまで寝てるの!?」

「……母さんの声だ」


聞きなれた母親の声を耳にし、いつもの世界であることを確信する。

とりあえず、学校行くか。

朝食を済ませて、学校へ向かう。


「そういえば、向こうで(うつほ)以外の人に会ったことないな。何してるんだろ」

「私がどうかした?」

「ぅえ!?」

「……そんなに驚く?」

「し、仕様がないだろ?声を掛けられるなんて思わなかったんだから」

「あはは、ごめんごめん。それで?」

「何が?」

「?私のことつぶやいてたでしょ?」

「あ、いや……それ、は……」


この世界の人たちは、あの世界のことは知らないみたいだった。

なら、向こうのことを聞いたって答えられるわけないよなぁ。

何も言わずにいる俺の瞳を、空が覗き込んでくる。

その奇麗な瞳に射貫かれて、逃げられないと感じた。

おそらく、何かしら答えるまでは聞いてくるのだろう。

何かないか、そう記憶を巡らせていると、ふと思いついた。


「空って、鳥のぬいぐるみとかって持ってたっけ?」

「え?鳥のぬいぐるみ?」

「ああ」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「……なんとなく気になったから、かな」

「ふ~ん?ま、いっか。鳥のぬいぐるみは持ってないかな」

「そっか。ありがとう」

「どういたしまして。でいいのかな?」


誤魔化せて、はいないんだろう。

それでも、それ以上追及することはやめてくれたようだ。


「あんまりここで立ち止まってると遅刻しちまうぞ。行こうぜ」

「……そうだね」


ここに二人でいることが居たたまれなくなり、足早に学校へ向かう。

その後は、他愛もない会話をしただけだった。


昼休みになり、ざわざわと喧騒が教室を支配する中、俺は一人窓の外を見ていた。

正確には、その先に有る複合商業施設を。


「あのジェミってやつは、何なんだろうな?」

「おう、何を黄昏てんだ?」

「んお?高橋、お前か」

「おう。で?何を見てたんだ?」

「何でもねぇよ。つーか、購買行ってないからちょっと待ってろ」

「早くしないと売り切れちまうぞ?」

「わかってるよ」


購買でいくつかパンを見繕って帰ってきたら、何故か空と高橋が話していた。

アイツらって二人だけで話すほど仲良かったっけ?

疑問を胸に、近づいていく。


「よう、何話してんだ?」

「あ、宗二。またパンなの?」

「おー、残ってたか」

「まあな。お前らは、もう食べたのか?」

「ううんこれから。宗二を待とうって話してたの」

「あ?なんかあるのか?」

「一緒に食べたいんだと。そうなると、逆に俺が邪魔じゃないかって思うんだけどな」

「別にそんなことないよ。ね、宗二?」

「ああ、別にいいと思うぞ?」


俺の机を中心に、三人で囲む。

最初は他愛ない話だったはずが、気付けば昨日――俺的には一昨日だが――に俺が話していたことについてになった。


「そういえば、宗二が昨日見た夢ってどんなのだっけ?」

「え?何で?」

「んー、ちょっと気になって」

「えー?でもただの夢だろ?」

「それはそうだが、なんか高橋に言われるとむかつくな」

「何でだよ!ひでぇな!?」

「それで、どんなのだっけ?」


再び問われて、俺は窓の先に見えるデパートに視線を移した。


「あのデパートが廃墟みたいになってて、そこで空が槍を持って化け物と戦ってたんだよ」


端的に、向こうの世界であったことを話す。

信じてくれようが、信じてくれなかろうが、俺にとってはどうでもいい。

だって、向こうは向こうで本当の事なんだろうなって気がするから。

でも、高橋は妄想乙って感じだったが、空はやっぱりなんて呟いた。


「その夢ね、私も見たんだ」

「えっ?」


高橋も聞こえたのか、驚いた様子で空のことを見ている。

俺は、訳が分からなかった。

昨日は完全に俺の話を妄想だと取って、信じなかった。

それにジェミ――鳥の人形――のことを聞いた時も、知らないと言っていた。

なのに、なんで今?


「私もあんまり覚えてないんだけどね? 廃墟みたいなビルの中で、黒いドレスに胸とか腕とかに鎧みたいなのをつけた、銀髪の女の子が居て。大きな蠍みたいなのと向き合ってたんだよね」

「なんだそれ?」


それはまさしく、昨日俺達が戦っていた時のことだ。

俺が鎧として空に着られて、戦い始める直前の光景に間違いない。

……鎧として空に着られるって、変態みたいだな。

それはそれとして、どうしてその光景を知ってるんだ?


「他に覚えてることは無いのか?」

「う~ん。いや、それくらいかな」

「……そうか」


そこで会話が途切れる。

一体どうなっているんだ?

向こうに戻ったら、ジェミに聞いてみるしかないか?

口を開けたままだった高橋が、再起動してにやついた様な笑みを浮かべる。


「同じような夢見るとか、やっぱり俺はお暇しようか?」

「馬鹿。俺達はそんなんじゃねぇって言ってるだろ」

「へいへい。でも、良いのかよ」

「何が?」

「藤宮さん。結構人気高いから、そのうち別の男子にとられちまうぞ」

「うぇ?」


その言葉に反応したのは空だった。

いや、まぁ、自分が裏ではモテてると知ったら、そんな反応にもなるか。


「そんな、私なんて全然……」

「いや、かなり人気だぜ?」

「そうなのか?」

「ありゃ? 知らなかった? この高校の三大美女の一人だぜ?」

「びっ!?」


……何つー声を出してんだよ。動物か。

しかし、そんなものに数えられてるとはなぁ。

全く知らなかったぜ。


「で? 残りの二人は?」

「そりゃ、生徒会長と、風紀委員長よ」

「ああ、成程なぁ」

「え? 私、その二人と一緒に数えられてるの?」

「らしいな」

「ふえぇ? 畏れ多すぎるよぉ」


キーンコーンカーンコーン


「やべ、昼休み終わっちまう」


急いで残りを平らげると、午後の授業の準備に取り掛かった。


放課後、俺は空と二人で例のデパートに来ていた。

なんでも、買い物に付き合ってほしいだとかなんとか。


「宗二?」

「いや、何でもない」


エスカレーターに乗るとき、意識を失ったことを思い出して、一瞬躊躇(ちゅうちょ)してしまった。

空の方は特にそういう素振りも見せなかった。

やっぱり、夢は夢って感じなのかな?


その後、特に何もなく買い物を済ませた俺達は、喫茶店に来ていた。

買い物に付き合ってくれたお礼だとか。


「そういえば宗二」

「ん? どうした?」

「朝言ってた、鳥のぬいぐるみって何だったの? もしかして、夢と関係ある?」

「……どうしてそう思うんだ?」

「なんとなく、かな。私もね、あの夢って、只の夢じゃないような気がするんだ」

「どういうことだ?」

「なんとなくだけどね? 実際に体験した様な、そうじゃない様な不思議な感じだったんだよね」


もしかして、気付いていないだけで空も二つの世界を行き来しているのか?

だとしたら、どうして俺だけが気づけるんだ?

疑問が止めどなく溢れてくる。

だが、あの世界の出来事を、断片的だとしても空は知ることが出来るのか。


「なぁ、ちょっと寄っていいか?」

「え? まあ、いいけど」


空が奢るよ、と言ったのを拒否し、自分の分は自分で払った後、とあるぬいぐるみショップへと足を運んでいた。

探しに来たのは、ジェミに似た鳥のぬいぐるみだ。

空に見覚えがないか聞いてみようと思ったのだが……。


「……なかなか無いな」

「何を探しているの?」

「今朝言ってた、鳥のぬいぐるみだよ。似たようなのが無いかなって」

「ふ~ん? 鳥ってあっちの方じゃないかな?」

「お、まじか? 行ってみよう」


空に先導されて、その場所まで行ってみると、確かにあった。


「おー、これこれ。……どうだ? 見憶えないか?」

「これ? ここでたまにちらっと見たことは有るけど……」

「あ、そっか。そうだよなぁ」

「これに何かあるの?」

「……例の夢の中で、コイツに似た変な生き物が動いて喋ってたんだよ」

「え? 動いてたの!?」

「ああ」

「……それはちょっと見たいかも」

「面白いもんでもないけどな」

「ええ~? でも、それを聞くとなんだかほしくなってきたな~」

「動くかもしれないってか?」

「うん!」


なんとまあ、いい笑顔で頷くもんだ。

折角だから、ということでジェミに似た鳥のぬいぐるみを買って、空に渡した。


「自分で買うのに……」

「俺の疑問に付き合ってくれたお礼だよ」


もうすっかり陽が落ちかけ、あたりは暗くなり始めていた。

思ったより、時間かかってたんだな。


「私の買い物に付き合ってくれたお礼はできてないのに……。また明日、誘える口実が出来たと思えばいいか」

「ん? 何か言ったか?」

「別にー?」


そんなことを考えていたからか、空がこぼした言葉を聞きのがしてしまった。


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