表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

平行世界

「ん、んん」


次第に意識が浮上する。

少しづつ瞼に力が入り、持ち上がっていく。


「あ、起きた?おはよう」

「んん?」


寝ぼけまなこをこすりつつ、声のした方を見る。

そこには何故か、空が座っていた。

あれ?なんで俺の部屋に空が?

むくりと体を起こし、周囲を確認する。

あたりには、数多くのベットが散乱していた。


「ごめんね、お家まで帰せなくて」

「は?いや、待て待て」

「?如何したの?」

「いや、どうしたのじゃねぇ。ここは、あのデパートか?なんで俺は此処に居る?あれは夢じゃなかったのか?」

「ちょ、ちょっと待って、いきなりそんなに言われても」


そこで空は少し考えこむ素振りをしてから、話し出す。


「えっとね、此処はデパートの寝具コーナーだよ。あの後宗二が急に眠っちゃって、此処に運んだの」

「急に眠った?」

「ああ、糸が切れた人形のようにな。まぁ大方、初めて力を使った反動だろうな。そのうち慣れるさ」

「うぉぉ!お前も居たのか!?」

「そりゃな。オイラはこいつのサポート役だしな」


そう言ってジェミは胸を張る。

うーん、こいつが胸を張るとひどく滑稽に見えるな。


「っていうか、そんなことは今はどうだっていいんだよ!どうして俺はまた此処に居るんだ!?夢じゃなかったのか!?」

「夢って、さっきから宗二は何を言ってるの?」

「いや、だから、俺はいつも通りに学校に行って、いつも通りに自分の部屋で寝たはずなんだよ!」

「?学校も何にも、宗二はずっとここで寝てたよ?」

「は?いや、そんなはずは…」

「うーん、力を使った反動かなんかで、記憶が混濁してるのかもしれんな」

「記憶が混濁?」

「ああ、夢と現実の区別がつかなくなったりとかな」

「…そんな風に見えるのか?」

「少なくとも、オイラからは見えるな」


すがるような目で、空を見る。


「う~ん。ごめんね。私からも、宗二の話はちょっとよく分からないかな?」

「…まじかよ」


一体どういうことだ?

確か、昨日の記憶の中でも高橋にそんな感じに言われてたな。

…どっちが本当だ?

昨日の、いつもの記憶と一昨日の、異世界みたいな記憶と。

少なくとも今は、異世界みたいな所にいるわけだが。

思わず、頭を抱える。


「大丈夫?どこか痛むの?」


空が心配して、俺の顔を覗き込んでくる。

彼女の整った顔が視界に映り込み、思わず顔を上げる。

その時、空の頬に傷跡がついているのに気づいた。


「…空、それ…」

「え?ああ、うん、ちょっとね」


空は傷を隠すように、顔を背ける。

女の子としては、顔に傷なんて嫌だよな。

でも、それでも、あの怪物と戦うのをやめないんだな。


「頑張ってんだな」

「…え?」


ふと、言葉が漏れる。

それが聞こえたのか、空が硬直する。

と思ったら顔を逸らしてしまった。

…あれ?俺、今何言った?

特に意識もしてなかったせいか、自分の言葉が思い出せない。


「おい、いつまでそうしてるんだ?」

「んお?」


下からの声に視線を落とすと、ジェミが呆れたように肩をすくめていた。


「そういうのは、全てが終わってからにしてくれよな」

「え、ああ、いや、そういうつもりは…」

「はいはい、言い訳はいいから。…それより、そろそろ来るぞ」

「え?」

「ッ!?来た!」


空がいつの間にかアーマーを纏って、武器を手にしている。


「宗二はここで隠れてて!」

「え?あっちょ、おい!待てって!」


空はこちらの静止を聞かずに、飛び出していく。

その後を追おうとして、ふと思い出す。

昨日-自分的には一昨日だが-襲われた、ミノタウロスの様なあの化物の事を。

もし、また似たような化け物が出たのだとしたら…。

いや、あの雰囲気からして、恐らく出たのだろう。

・・・怖い。

恐怖に身体がすくむ。

足が動かない。

というか、俺が行く必要あるのか?

いや、無いよな。

空も隠れてろって言ってたし、此処はおとなしく・・・。


ドゴン!


ものすごい音と衝撃が伝わってくる。

戦いが始まったんだ。


「何時までこんな所にいるつもりだ?」

「んな!?」


振り返ると、さっき空と一緒に出ていった筈のジェミが立っている。


「なんでお前が此処に居るんだよ!?」

「ああ?お前に思念を飛ばしてるからだよ。とはいえそう長く持つもんじゃねぇがな」

「思念を飛ばすって、そんなことできたのかよ…」

「お前にだけだ。それより、良いのか?アイツにだけ戦わせて。ま、オイラは構わないけどな」

「いや、そりゃ良くは無ぇけど…。俺にはあんなのと戦える力なんて…」


言いながら、ベットに座り込む。


「おいおい!忘れたのか?お前は一度、力を使ってるだろ?」

「え?…あ!あれか!?」


頭の中に蘇るのは、俺の体が光って鎧のようになったあの時の光景だ。


「そういえば、アレってどういうことなんだよ!どうして、俺はあんな事が出来るんだ!?」

「・・・まぁ、時間もないし簡潔に言うが、お前はこの世界にとって特別なんだよ」

「と、特別?どういう…」

「ここは、お前がいた世界とは違う。平行世界って言った方が分かりやすいかもな」

「平行、世界」


そこまで聞かされた時、ジェミの体が少しづつ薄くなっている事に気が付いた。


「お前、体が…」

「だから言ったろ、時間が無いって。アイツとあんまり離れてられねぇんだ」


ジェミがビシッと腕先をこちらに向けてくる。


「で?お前は、如何したい?ここは、お前のいた世界とは違う世界だ。お前が危険な目に合う必要はない。逃げたければ逃げてもいい。この世界が滅びようと、お前は元の世界に戻るだけだからな」

「そ、それは…あっ、おいっ!」


そう言い残すが早いか、ジェミは光に包まれて消えた。

遠くでは、空が戦っているんだろう音が聞こえてくる。


「…如何したいって、俺にも分かんねぇよ。いきなり平行世界だなんだって言われたってよぉ」


近くにあったベットに座り込む。

まだ整理がつかない。


「っていうかあいつ、最後に世界が滅ぶ、とかなんとか言ってたよな。あの怪物みたいなのが、世界を滅ぼすって事なんか?」


思わず頭を抱える。

その時だった。


「くぅああああ」

「ッ!?空!?」


部屋の外から声がした。

空の苦しそうな声が耳朶を打つ。

すぐさま剣戟の音が聞こえ始める。

正直、世界がどうのこうのなんて言われたって、俺にはさっぱり分からない。

だけど今、確かなのは、空が戦っているという事だ。

顔に傷を付けて迄。

それなのに、俺は此処で震えるばかり?

そんなの、そんなもん!カッコ悪すぎるだろ!

世界なんてどうでもいい!

兎に角!空を助けたい!


そう思うが否や身体は自然と走り出していた。

このエリアの向こう、剣戟の音のする空がいるだろう場所へ向かって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ