帰ってきた日常
ッはあ!はぁはぁ
目が覚めると、自分のベットの上に居た。
いつの間に帰ってきた?
ベットから下りると、自分がパジャマであることに気づく。
トントン
「?」
誰かが階段を上がってくる音がする。
誰だ?
「宗二~?まだ寝てるの?」
「空?」
扉を開けて入ってきたのは、制服姿に着替えた空だった。
「まだパジャマなの?早く着替えないと遅刻するよ?」
「何?」
壁に掛かっている時計に目をやると、すでに8時を回っていた。
このままじゃ遅刻する!
遅刻すると色々面倒だ、急ごう!
急いで制服に着替え、パンを銜えて家を飛び出す。
先に家の前で待っていた空と合流し、学校へ向かう。
「今日はいつにも増してお寝坊さんだったね。夜遅くまで何かしてたの?」
「ふぃや、ほんはほとは」
「…せめてしゃべるときくらいは、パンを離しなよ」
「…ンぐ。そうだな」
「で?何してたの?」
その質問に、昨日のことを思い出す。
昨日は確か、デパートのゲーセンに向かったらいつの間にか気を失って…。
気づいた時にはデパートがボロボロで、そこで空が怪物と戦ってたんだよな…。
「そうだ!お前昨日は大丈夫だったか!?」
「ぅえ!?な、なにが?」
「何がって、あの怪物だよ!怪我とかなかったか!?」
「怪物?何?夢の話?」
「は?夢じゃねぇって!お前あのデパートでミノタウロスみたいな怪物と戦ってたろうが!?」
「…ほんとに何言ってるの?」
「…あ?マジで分からんの?」
「ちょっと分かんないかなぁ」
どういうことだ?
この感じだと、からかってるわけではなさそうだ。
じゃぁ、あれはほんとに俺の夢だったのか?
「っと、そんなこと話してたら結構時間経っちゃったね。急ごうか」
「あ、おいちょっと待てよ!」
走り出した空を追いかけていく。
はぁ、はぁ…きっつ。
普段ほとんど運動してないからなぁ。
学校が見えてきたとこで走るのをやめ、一息つく。
「あっはは、大丈夫?」
「っはぁ、大丈夫に、見えるか?」
「普段から運動してないからだよ?いいかげん部活とか入らないの?」
「…それこそ今更だろ。それより早く行こうぜ、ここまで走ってきた意味がなくなっちまう」
「そうだね」
二人並んで校門へ向かう。
周りにはもう生徒はほとんどいなかった。
「ふぅ、あぶなかったな」
席に着くと同時、チャイムが鳴り、担任の佐藤が朝礼を始める。
それをぼーっと聞き流して授業の始まりを待つ。
その間、昨日の出来事を整理することにした。
いや、夢の中の出来事か?
まぁ、いいや…。あれはたしか下校中だったよな?
…。
「藤崎~?おい、藤崎!」
「んぅぇ?」
「いつまで寝てんだ!」
バシッ
「いてっ」
突然頭に衝撃を受け、驚いて顔を上げる。
「全く授業の頭から寝通しやがって」
そこにあったのは、教科書を肩に担いで佇む佐藤の姿だった。
言われたことが分からず、ふと時計を見る。
時計の針は授業の終わりを示していた。
「部活もやってないんだから、授業くらいはちゃんと受けろよ~」
「…うぃっす」
佐藤が教壇に戻ったところでチャイムが鳴る。
…いつの間に寝てたんだ?
「いや~よく寝てやしたねぇ」
「ん?ああ、らしいな」
前の席に座る高橋がぐるっと体を回して話しかけてきた。
「昨日遅くまでナニしてたんだ?」
「そりゃぁナニだろ?ってわけあるかよ」
「うぇい、ナイスノリ突っ込み。で、実際は?なんかいいゲームでも見つけたんか?」
「いや、それがよぉ。昨日の記憶がないんだよなぁ」
「ああ?記憶がない?」
「正確には、夢みたいな体験をした記憶しかないんだよ」
「夢みたいな体験、ねぇ?」
高橋が顎に手をかけ、首をかしげる。
「因みにどんな?」
「言っても信じられんと思うが…」
「まぁ、話してみるだけなら良いんでねぇの?」
そこで、俺は信じる!とか言わないあたりが高橋らしいな。
「そうだな、どこから話すか…」
キーンコーンカーンコーン
「お、授業だな。話はまた後で頼むわ」
「あ、おい!」
結局そのまま授業が始まった。
「で?なんだっけ?」
「お前なぁ」
授業終わりと同時にクルッと体を回してくる。
「しょうがないだろぉ?お前の与太話に付き合って内申書下げられたんじゃかなわないし?」
「おいおい、与太話じゃないって言ってるだろ?まあいいけどよ」
「そうそう、重要なのは面白いかどうかだろ」
「面白いかは分からんが、実はさ…」
かいつまんで、昨日?の話をする。
高橋は腕を組んで真剣に聞いている風だったが…。
「うん、まあまあってとこだな」
「あ?何がだよ」
「その話、よくむなく悪くもなくって感じ」
「だから作り話じゃ…」
「じゃぁ、作り話じゃなかったとしてだ」
ビシッと指を突き付けてくる。
「そのデパートはどうなってる?そんなぼろぼろになってるなら、今頃ニュースとかで大騒ぎになってるだろうが」
「うぐっ。そ、それはー…」
「全く、いい加減夢と現実の区別くらいつけろよなー?」
「…おう」
結局信じてはもらえないか。
まぁ、そうだよな。
俺だっていまだに信じきれてないんだし。
ただの夢だったのかもしれない。
その後は、このことについて考えることもなく放課後になった。
何時もの様に鞄を手に取り、帰路に就く。
帰り際にデパートの方を見てみたが、あの夢の様に廃墟になってるなんてことはもちろん無かった。
普通に帰宅して、普通に夕飯を食べて、寝る。
なんてことない日常だ。
あの事は、思い出そうとすれば鮮明に思い出せる。
でも、現実は何も起こっちゃいない。
だから、あれはただの夢で、今日はまた別の夢を見るんだろうな。
そしていつの日か、忘れていくんだ。
そんなことを考えながら、布団の中で意識を手放した。




