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初めての戦い?

「さて、どうするかな」


なんてことない、いつも通りの帰り道

違うとしたら、一人きりということだけだ。

いつもならどこかに寄って帰るんだけど…。

ひとりだしなぁ。


ふと、上を見上げる。

目に映るのは、とある複合商業施設。

住宅街にたたずむ、人気のある場所だ。

そこでは比較的なんでもそろうからな。


そうだ、たまには一人でゲーセンでも行くか。

あそこの7階には、時たま遊びに行くことがある。

最近は行ってなかったけど…。


さて、ついたら何をやろうかなぁ…。

そんなことを考えながらエスカレータに乗る。

二階、三階と上がっていく。

気づくと、前にも後ろにも人がいなかった。

周りにはこんなにも人でごった返しているのに。


「珍しいこともあるもんだなぁ」


そうつぶやいたとき、視界が揺れた気がした。

それもつかの間、今度は体が揺れているような錯覚を覚える。

俺は今、どこを向いている?

エスカレーターの手すりをつかもうと手を伸ばす。

しかし、その手は何もつかまない。

気づいた時には、目の前にエスカレーターそのものが迫ってきているところだった。

そのまま、視界が暗転し、意識を手放した。


ドガッシャーン!

遠くで何かが壊れるような音が聞こえる。


「んん?なんだぁ?」


眠い目をこすりつつ、頭を上げる。

ん?なん…だ…?

俺の目がおかしくなったのか?

そこはまるで、廃墟だった。

窓は割れ、あちこちの壁に罅が入っている。


「どこだ?ここは?…?あれは?」


起き上がることも忘れ、あたりを見回し続ける。

すると視界に、見慣れたものが入ってくる。

視界の少し上、天井近くにぶら下がっている看板。

そこにはトイレの位置や、エレベータの位置が書いてある。


「もしかしてここ、あのデパートか?」


いやありえない。

今さっきまで、いつも通り営業していたはずだ。

しかも、他にも客はいたはず。

立ち上がり、周囲を探索してみることにする。

一先ず、さっきからずっと音がしている方に行ってみるか。


大体、今俺がいる方と反対側か?

商品が散乱している店を横目に、音のする方へ向かう。

何かが壊れる音が続く。

いったい何が・・・?

曲がり角を曲がろうとしたその時、何かがものすごいスピードで目の前を通り過ぎて行った。


ドガーーン!

「え?」


何が起きたかわからず、暫し呆然とする。

やがてゆっくりと通り過ぎて行った方を向く。


「いったた~」


そこには、瓦礫に埋もれるように一人の少女が座り込んでいた。


「お、おい。大丈夫か?」

「え?」


つい、声をかけてしまう。

少女は、きょとんとした顔でこちらを見つめる。

その顔は、非常によく見知ったものだった。


「な、なん…」

「どうしてここにいるの!?」

「うお!?」


此方が声をかける前に、そいつが詰め寄ってくる。

その勢いに、思わずのけ反る。


「お、お前こそなんでこんなとこに居るんだよ?それにその恰好は?」

「そ、それは…」


彼女が言い淀む。

刹那、何かに気づいたように目を見開き、気づいた時には突き飛ばされていた。

突然のことに理解する暇もなく、信じられない光景が目の前に広がる。

彼女とミノタウロスのような化け物が鍔迫り合いを演じていた。

いや、ありえんだろ。

いろいろとよぉ…。

ほんとに何が起こってるのかわからない。


「はあ!」

ギャイーーン!


彼女が掛け声とともに槍をふるう。

3メートルはありそうなミノタウロスっぽい怪物が後ろへ跳躍する。

身長差は普通に倍はあるのに、力負けしないってどういうことだよ。


「ブムォォォォ」

「ひっ」


あの怪物が俺を見てる。

恐怖に顔が引きつり、膝が笑う。

結果、立つこともできずズリズリと後ずさる。

そんな有様を見て餌と認識でもしたのか、怪物が俺めがけて走り出す。

その巨体故、すぐ間近に奴が迫る。

斧が振り下ろされるのがスローモーションに見える。

あ、これ死んだな。

なんとなくそう思った。

目を閉じることもできず、刃が迫る。


「三連槍撃ッ!!」

ガガガーーーンッ!!!


そのまま真っ二つにされると思ったとき、横から何かが怪物に襲い掛かった。

怪物はあまりの衝撃に、斧を振り切ることなく吹き飛ばされる。


「今のうちにっ」


手を取られ走り出す。

まだ足元がおぼつかない。

そんな俺を置いていかないようにか、こちらを気にしながら手を引き走る彼女。

え、ヤダかっこいい。惚れそう。


そのまま止まったエスカレータまで来ると、彼女は徐に俺を抱きかかえる。

声を発する間もなく、俺を抱えたまま跳躍する。

着地したのは、一つ上の階。

人一人抱えたまま、エスカレータを飛び越えたっていうのか。

なんか色々出鱈目だな。

ここまで来ると笑いがこみあげてくる。

彼女は勢いのまま、もう一つ上の階まで一気に上った。


近くの店に入った所で俺を下す。

そこでやっと彼女の姿をまじまじと見ることになった。

いや、間違いないよな。

その顔を見て確信する。

彼女の名は、藤宮(うつほ)

俺の幼馴染だ。

だが、確かに勉強も運動もできたがあんなのと力比べができる程ではなかったはずだ。

それに…。


空が振るっていた槍を見る。

銀色の柄は余計な装飾はなく、それでいて無骨には見えない。

その先にある刃は金色に輝き、二股に分かれている。


黒を基調としたドレスは、白い長髪とよく合っている。

ん?白い長髪?

待てよ、空は日本人らしい黒髪だったはずだ。

どうなってる?


「で?如何して此処にいるわけ?」

「いや、どうしてって言われてもなぁ」


俺だって、なんで自分が此処に居るのかわかってないしなぁ。


「気づいた時には、此処に居たんだよ」

「…そう。とにかくここから早く離れて…」

「まぁ、待てよ」

「「ッ!?」」


何だ今の声?どこからだ?

きょろきょろとあたりを見回す。

しかし、その声の主は見当たらない。


「どこ見てんだよ。ここだココ」

「ちょっ、ちょっと」

「んあ?」


空が声を上げるのに釣られてそちらを向く。

すると、何やら胸のあたりに手を当てている。


「空、何してるんだ?」

「え?いやこれは…」

「オイラのことを隠したいんだろうがそうも言ってられんぜ」

「は?それってどういう…あっ」


空が胸から手を離した瞬間、何かが飛び出してくる。

そいつは俺の前に降りたつとビシッとよく分からないポーズを決める。


「オイラ!登!場!」

「お、おう」

「…はぁ」


何だ?こいつは?

飛び出してきたのは、一言でいえば鳥のぬいぐるみだった。

正直、可愛いかどうかといったら微妙なところだ。


「あ~?なんだその微妙な反応は?ここはドッカンと盛り上げるとこだろうが!」

「いや、そういわれてもなぁ」

「はぁ、ノリの悪いやっちゃなぁ」


くぅ、なんかわからんがこいつに言われると腹が立つな。


「まぁいいや。そんなことよりよぉ」

「?」


ぬいぐるみが下から睨め付けてくる。


「お前、何で此処に来れた?」

「は?」

「…ほんとにわからんのか」


そういうとぬいぐるみは何やら思案しだす。

ついっと空に視線を向けると目が合った。

そしてどちらともなく、首をかしげる。


「なぁ、こいつ何なんだ?」

「あ、えっとね?」


空にこのぬいぐるみについて尋ねると、たどたどしく話し出す。


「どこから話したらいいかな?うーんと、ね。まずこの子の名前はジェミ。」


ジェミ。名前あったんだ。


「でね、その…。私が先の怪物みたいなのと戦えてるのは、この子の力なの」

「こいつの?」


視線を下にやると、ジェミがどや顔でこちらを見ていた。

うわぁ、すっげぇムカつく。

っていうかそうだ!思い出した!

その時だった。


「ブモォォォォォォォ!!」

「!!」

「おっと、あまり悠長にもしてられんな」

「そうだね、まずはあいつを何とかしないと!」

「あ、おい!ちょっと待て!…全く」


空は慌てたように降りていく。


「おい、空は大丈夫なのか?」

「ん?ああ、まぁ、負けることはないと思うが…。今のままじゃ勝つのは時間がかかりすぎる」

「勝つのは難しいって、どうにかならないのかよ?」

「その話をしようと思ってたんだけどなぁ」

「なに?」

「一先ずオイラをあいつのとこまで連れて行ってくれ」

「それはいいけど、なんでだ?」

「あんまり離れすぎると変身が解けちまうからさ」

「お、おいっ!それってまずいんじゃないのか!?」

「まぁな。つうわけで急いでくれ」

「ッくっそ」


言うが早いかジェミを抱えてエスカレータを下りていく。

急いで音がする方へ駆けていくと、元の場所で戦っていた。

何とか戦えているようだが、かなり押されているようだ。

髪も先のほうから黒に戻りかけてる。


「…はぁ、はぁ。で、どうすればいい?」

「おう、簡単な話だ。あいつの力になりたいと心から願うんだ」

「あいつの…?」

「そう」


心から願う、ね。


「とりあえず、オイラはもう行くぜ。あとはお前の気持ち次第だ。あいつを救うも殺すもな」

「あ、ちょ、おい!」


ジェミは俺の腕からすり抜けると、剣戟の合間を縫って空のもとへ飛んで行く。


「っておい!飛べんのかよ!」


ジェミはそのまま空の胸にペンダントとして収まった。

あれも一体どういうことなんだろうな。


…あいつの力に…か…。

ジェミが戻ったことで髪が全体的に白に戻り、あのミノタウロスと互角の勝負を繰り広げる。

あそこまで戦えているのに、俺の力が必要なのか?

というか、俺に何ができるんだ?

そのまま空とミノタウロスの戦いを見つめる。


槍と斧が何度も打ち合わされ、その速度が増していく。

しかし、少しづつ空の動きに切れがなくなってきた。

だんだんミノタウロスに押されていく。


「空!!」

ドガァーーン!!


一瞬で空が吹っ飛ばされる。

その先にミノタウロスがゆっくりと迫っていく。

土埃が晴れてきたとき、そこには横たわる空の姿があった。

まずい!

ゆっくりとではあったが、その一歩は大きく、すでにミノタウロスは空の目の前に迫っていた。

このままじゃ空が!

ミノタウロスが斧を振り上げる。

俺はとっさに走り出していた。

何か考えがあったわけじゃない。

兎に角彼女を、空を助けなきゃいけない。

そう思ったときには体が動いていた。


しかし、空とミノタウロスの間に割り込むよりも先にその斧が振り下ろされる。

とっさに手を伸ばした。


「空ぉーーーー!!」


ギャリィ―――ンッ!!


…どうなった?

手を伸ばしたその時、視界に光が満ち何も見えなくなった。

身体に何かが当たった感触がした後、光が消え視界が開ける。

そこには俺の目の前でのけ反るミノタウロスの姿があった。

な、何が?


「おう、間に合ったようだな」

「いったい何が?」

「…う、うーん?」

「っ空!」

「そう、じ?」

「ああ、そうだよ!全く勝手に飛び出しやがって!」

「…ッ宗二その姿は!?」

「ああ?どうなってる?俺にも分からんのだが!?」

「俯瞰しようとしてみろ。今のお前なら自分の体も見えるはずだ」

「俯瞰?」


なんとなく試してみる。

するとそこには、倒れた空の前に宙に浮いた盾のようなものが存在していた。


「うお!?何だこれ?」

「それが今のお前の姿だよ」

「これが俺?」

「ああ、そしてまだ終わりじゃないぜ?」

「?」


ジェミがそう言った時だった。

浮いていた盾こと俺から光が生じる。

と思ったらその盾がいくつかのパーツに分かれた。


「う、うおぉおおぉぉ!?」


そのパーツが空へと飛び、周りを舞う。

ひとしきり舞った後、それぞれが空の各所へと装着され始めた。

腕、胸、足、と装着されていく。

結果としてそこには、黒いドレスに白銀のアームガードとブレストプレート、黄金のブーツを身に着けた空がいた。


「え?なにこれ?どうなってるの!?」

「な、なんだ?どうなってんだ!?」

「おし、上手くいったようだな」


困惑する俺たちをよそに、ジェミは満足げな声を上げる。

おい、何一人で納得してんだ。


「おい、ジェミさんよぉ。これは一体どういうことなんですかねぇ」

「あぁ?言ったろ、こいつの力になれってよ」

「これが、その力だと?」

「おうよ」


どういうことだ?

空の力になりたいと願ったら、体が鎧になったぞ?

なんか俺も変身したりするのではなく?

装備品に?


「あまりぼーっとしてんな、来るぞ」

「うぇ?」


自分の体を見回していた空が素っ頓狂な声を上げる。

と同時に、あの怪物の咆哮が轟いた。


「おい、ジェミ!ここから俺にできることは!?」

「お前はこれで十分だよ」

「何?」


ジェミと問答をしているうちに、ミノタウロスが歩いてきた。

空を見つけるや否や突進してくる。


「っ来るぞ空!」

「うん!」


空が立ち向かうべく槍を構える。

よく見ると、槍の逆側に金色の刃のようなものがついている。

これも、俺の力か?

何て地味な…。


ミノタウロスが、吶喊してくる勢いそのままに斧をふるう。

あの怪力にこんなスピードが合わされば、かなりの破壊力になるだろう。

こんなのを真正面から受けたらひとたまりもないぞ。

空はその破壊力の塊を角度をつけた槍で受け流す。

そのまま流れるように、頭部に槍の後ろ側、新しくついた刃を叩き込む。

ズバァッと一気に切り裂かれる。

ミノタウロスはたまらずといった様子で声を上げながら仰け反る。


「…すごい」

「これで分かったか?」

「?空がすごいんじゃないのか?」

「ううん。私が一人で戦ってた時はここまでの力は出せなかったよ」

「そうなのか?」

「うん」

「おしゃべりする余裕があるんはいいが、とりあえず倒し切っとけ」


グゥゥゥゥ


頭を押さえたミノタウロスがこちらを睨む。

傷をつけられたことで、頭に血が上っているようだ。


「今ならさくっと倒せそうだし、終わらせちゃおうか」


そう言うと空は槍を構えて走り出した。

ミノタウロスに肉薄した空は、凄まじい速度で連撃を繰り出す。

相手は最初は何とか対応していたものの、すぐに追いつかなくなり押され始める。

ついには斧を弾き飛ばし、無防備になる。


「これで終わり!三重連撃!」

「ブムオォォォォアァァァッ!!」


空のラッシュがミノタウロスを穿つ。

風穴があいたミノタウロスは断末魔を上げ、光の粒子となって消えた。

その場には、緑色に輝く十字のバッジみたいなものが浮かんでいた。


空がそのバッジをペンダント型のジェミに近づける。

すると、それが吸収され空の体が光を放つ。

光が収まった時、空はいつもの姿に戻り、俺も元の状態に戻っていた。


「終わった…のか?」

「うん、今回はね」

「今回は?」

「ああ、似たようなやつがまたやってくるのさ」


いつの間にかジェミもあの縫い包み姿に戻っていた。


「あんなのがまたやってくるのか…。いつまで続くんだ?」

「それは、私にもわからない」

「…そうか」

「…取り敢えず、戻ろっか」

「戻るって…」

「私の家。ゆっくり話すのにも落ち着ける所のがいいでしょ?」

「ん、まぁ、そうだな」


二人並んで歩き出す。

デパートの入り口にまで来たその時だった。

あの時、こんな惨状に出くわす前と同じような眩暈が起こる。


「ッ宗二!?」


同時に起きた頭痛に頭を抱える。

ぐぅぅ、頭が、割れそうだ。


「宗二!?宗二!?」


空が呼んでいる気がするが、返事をする余裕がない。

次第に視界が明滅し、暗転する。

空の声を遠くに聞きながら、俺は意識を手放した。


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