⑨ ドイツは欧州の危ない国筆頭
筆者:まずは危ない国の筆頭として挙げたいのはヨーロッパの中でもドイツです。
質問者:いきなりヨーロッパの話なんですね……。
筆者:22年7月にスリランカが自ら破産宣告をして潰れても大きく日本経済に影響はありませんでしたからね。
“一定以上の規模の国“ではないと日本に影響は出にくいと思ったんです。
ドイツはちなみに日本の輸出入総額で年間4兆円規模(貿易高は日本では8番目)あるようなので、特に機械関係や車の輸出入に大きく影響が出そうです。
質問者:なるほど。それは影響が出そうですね。
筆者:さて、そんなドイツですがロシアが欧州に天然ガスを売らなくなってからかなり電力事情は苦しい状況になっています。
欧州の天然ガス発電の電力取引価格は1メガワット当たり140ユーロ(約2万600円)前後だ。今年8月末に記録した最高値よりは安いが、昨年の同時期の3倍以上の価格のようです。
その中でロシア産の天然ガスをパイプラインで受け取ってきたドイツには液化天然ガス(LNG)のターミナルがないことから、備蓄した分が枯渇すれば、エネルギー事情が一段と厳しくなることが予想されます。
質問者:備蓄量すらも無くなることがあるんですか?
筆者:ええ、夏の間までに貯めておくもののようですが、仮に100%になったとしても、ロシアが完全にガスの供給を停止すると2カ月半程度で枯渇するという厳しい現実があるようです。
そうなると、計画停電について検討されることや、暖房や温水を使う時間が制限されるなど、人々の生活は相当不便なものになる可能性があります。
しかもこの状況は10月17日(現地時間)ロイター通信によると、ドイツのオラフ・ショルツ首相は「現在稼働中である3基の原発稼働を、首相の職権により来年の4月15日まで延長する」と明らかにしているにも拘らずこの状況なのですから相当厳しい状況です。
ドイツはインフレ率は最新の9月の分は10%丁度で、当初の予測を上回っています。想像以上にガスなどの値上がりにより電力代金の影響が大きく出ている様子です。
質問者:ロシア以外の国から輸入は出来ないのでしょうか……?
筆者:正直なところ周辺のヨーロッパの国は天然ガスでどこも困っていますからね。仮に他の輸入先を見つけることができたとしても劇的に増えて改善することは厳しいとされています。
ちなみに、代替国としてEUから白羽の矢が立っているのはカタールです。
カタールはロシアが原油について圧力をかけたOPECから2019年に脱退したので、ロシアの圧力から解放されている資源国なんです。
これはロシアとはあまり関係なくサウジアラビアとの関係悪化によりOPECから脱退したようですね。
そんな天然ガスの掘削量で世界第3位のカタールでもロシアが欧州市場に供給する天然ガスを単独では肩代わりできない。カタールのタミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー首長が仏誌『ル・ポワン』の取材に応じた中で表明したという記事があります。
また、カタールとの契約や輸送が無事に成功したとしても、ドイツは貯蔵庫を作るにしても今年中には出来る見込みが無いという情報もありますので、この冬が欧州の最大の山場かなと思いますね。
この天然ガスが足りないドイツの苦境は“冬の寒さが厳しくない事を祈るだけ”というぐらい打開することが難しい状況になっています。
質問者:なるほど……それだけエネルギーが足りないとなると、国民の生活だけでなく産業にも影響が出そうなのですがどうなのですか?
筆者:ドイツとしてはそこが一番懸念されるところです。
電力の価格は最高値からは下がっているもののエネルギー価格は良くて高止まりとなることが考えられます。
このまま経済に対する制約も強い状況やエネルギー不足が長期化すれば、ドイツでは産業の空洞化が進む恐れが出てきかねないです。
実際に9月23日のブルームバーグの記事によると、すでにドイツを代表する自動車メーカー・フォルクスワーゲンは、LNGターミナルがありガスの供給が安定しているスペインなどへの生産拠点の移転を検討しているという情報もあるほどです。
質問者:これは確かに問題ですね……。
筆者:このように産業が海外流出し、国民の生活が危うくなっていくと銀行が破綻する恐れが出てきます。ドイツ銀行(中央銀行であるドイツ連邦銀行とは別)が兼ねてから破綻の危機が言われています。
質問者:“いよいよ“という表現からすると前々から危なかったのですか?
筆者:ドイツ銀行が抱える金融取引で派生したデリバティブ債は、75兆ドルあると言われて、もし破綻することになれば、リーマンブラザーズの破綻時の負債70兆円のさらに上を行く計260兆円あまり負債増額と言われています。
質問者:一体どこからそんなに借入れているんですか?
筆者:主にリーマンショックの影響を大きく受けたようです。
更に2010年にソブリン危機というのが発生し、ギリシャの国家財政の粉飾決算をドイツ銀行が貸付けていたメインバンクだったことも影響として大きいようです。
また、回収できないかもしれない債権は大きく分類すると5つあるようです:
一つは、以前破綻したギリシャ絡みのデリバティブを山ほど抱え込んでいたことから、非常に不安定な債権を持っています。
二つ目は米国で廃ガス不正問題を起こしたフォルクスワーゲン社のメインバンクもドイツ銀行で、不正問題に関係して伴う巨額の賠償金などにもドイツ銀行がその為の必要資金の工面をしたことから債務が膨れ上がりました。
三つ目は中国の不動産会社が危なくなってきていると言うことは④でも触れたと思うのですが、ドイツ銀行は中国の不動産業に対しても多額の貸し付けを行っており、中国不動産業界が危なくなるとドイツ銀行が危なくなるという構図になっています。
四つ目はドイツ銀行の代表的な債権であるCDS(債権保障保険)というものがあります。
これは債権が順調に返済されるならばプレミアム手数料が手に入るのですが、
貸し倒れると損失が債権額にとどまらないと言った特殊な債権のようで貸し倒れると相当痛手を負うようです。
五つ目はデリバティブの債権がロイター通信の情報によると5000兆円にも上るとも言われており、
大きなところではこの辺りかなと思います。これらの債権のうち一つでも焦げ付くと一気に危なくなってくるのではないかと言われています。
質問者:なるほど、ドイツ銀行は多方面からのリスクを抱えているわけなんですね……。
筆者:ドイツ銀行は欧州の様々な国や中国に対しても出資していることから、
ここが破綻することによって世界的大恐慌に繋がることが考えられます。
日本としてはドイツの金融危機に対してはあまりできることはありませんね……。
ドイツ銀行からの教訓としては、リスクの高い債権を買うことは得策ではないと言うことです。
勿論リターンは賭けが成功した時は大きいですが、賭けに失敗すれば全てを失うことがあるからです。
次に経済危機としてリスクのある2か国目として韓国について見ていこうと思います。