⑧ 世界恐慌は起きるのか? ――世界の企業が利上げに耐えられるか次第
質問者:世界経済を見ていると何だか悪い無限ループを見ているような感じになっていく可能性があるわけですか……これはどうしたら回避できるのですか?
筆者:アメリカが金利を引き上げないことがベストだと思います。
1980年代のボルカー第12代FRB議長はインフレを抑制するために、インフレが収まるまで利上げを続けました。
その結果、米10年債利回りは20%台まで上昇し、失業率も上昇し、米国経済はリセッション(景気後退)に陥りました。
これをボルカ―ショックといいます。このまま金利を引き上げ続ければこの再来になる可能性は十分あると思います。
歴史から学ぶべきだと僕は思います。ただ現実的な問題としては、FRBとしては“仕事をしている“ように見せかけるために金利は上がり続けるでしょうけどね。
質問者:そんなことが過去にあったのですね……。
実際のところこのままアメリカが景気後退してしまうと言うのはあり得るのでしょうか?
筆者:ゴールドマン・サックスは景気後退の確率は来年が30%、その後の2年間には50%近くまで上昇すると予想しているとのことです。
モルガン・スタンレーは来年の景気後退の確率は35%、S&P500種指数は現在の水準からさらに20%下落すると見込んでいるとのことです。
質問者:唯一伸びていると思われているアメリカでさえそんな状況だなんてもう終わりじゃないですか……。
筆者:しかし、これまでのアメリカ発の世界恐慌と違って明るい材料を取り上げるとするなら、アメリカの失業率がかなり低いと言うことです。
過去の世界恐慌前では失業率が20%を超えていたのに対して、2022年9月のアメリカの雇用統計では失業率は前の月より0.2ポイント改善して3.5%と、むしろ改善されています。
他のプラスポイントとしては物価高の割にはコロナ対策で多額のお金をアメリカはばら撒いたのでまだ企業や市民としては耐えられることもあります。
このことからすぐにアメリカが大幅な景気後退になるという可能性を下げていると言えます。
ただ、商務省経済分析局(Bureau of Economic Analysis)によると、貯蓄は2021年8月には2兆1000億ドル(約303兆円)だったが、2022年9月30日その31%にあたる約6300億ドル(約91兆円)がすでに使われているというデータもありますのでそこまで長く耐えられないかもしれません。
しかし直近の問題ですと、アメリカの景気が本格的なリセッション(景気後退)になるかどうかはアメリカの中小企業が倒れないかどうかがカギになると思います。
質問者:なるほど市民の消費が経済を支えていますからそこが崩れることが少ないというのは好材料ですね。
筆者:ただ、過去の世界恐慌とは違う要素と言うのも今存在しており新しい懸念点として浮上しています。
質問者さんは仮想通貨と言うのはご存知ですか?
質問者:ええと、ビットコインなどのことですよね?
筆者:ビットコインはニュースなどでも話題になりましたからね。
仮想通貨は簡単に言ってしまうと政府が発行している通貨では無いのですが、改竄に強く、匿名性の高さから富裕層が事実上の脱税などに使われています。
今その仮想通貨と言うのは1万種類以上もあるそうなのですが、仮想通貨の価値の合計と言うのが急落しているのです。
これがこれまでになかった懸念点です。
約9カ月前に仮想通貨経済は2兆3,400億ドル(約339兆円)の価値があったそうなのですが、13,192銘柄の仮想通貨全ての総額は9,670億ドル(約140兆円)で、1兆4,800億ドル(約214.3兆円)少なくなっているということのようです。
有名なビットコインも2021年秋に記録した最高値から比べると7割以上下がったと言われています。
質問者:株価と違ってたまにしかニュースなどで報道されることもありませんが、とんでもない値下がりを記録しているんですね……。
どうしてこんなに下がっているんですか?
筆者:先ほど申し上げた通り、仮想通貨は事実上の脱税ツールとして注目されているわけなのですが、株価が下がっているために世界中の富裕層が仮想通貨を売却しているのです。
質問者:どうして株価が下がると仮想通貨を売ることになるのでしょうか?
筆者:企業が銀行からお金を借りる際に、建物などではなく担保に株式を使うことがあるのですが、その株価が低下すると“担保が足りない“と銀行側からコールバックされるみたいなんです。
その際に会社経営者などの富裕層は仮想通貨を売却して担保を増やしているか借り入れを返済していると言うことです。
後は世界的な景気後退だと言うことは富裕層も気づいているのでより安全な資産に移していることも考えられますね。
世界的な利上げも進んでいますから預金や安全資産であるゴールドなどにしている可能性もあります。
質問者:なるほど……。
筆者:更に国家の債権に関しても世界的に利上げを行っている影響で価値が低下していることもあります。
日本経済新聞の22年7月19日『世界の債券価値、半年で2300兆円減 債務依存の成長転機』という記事によりますと、
『世界の債券価値が急減している。今年1~6月の減少額は17兆ドル(約2300兆円)と、6カ月の期間では遡れる1990年以降で最大となった。各国の金融引き締めで債券利回りが急上昇し、利回りと反対に動く価格は急落した。債券市場が収縮し、債務に依存してきた世界経済が曲がり角に差し掛かっている。下落が続けば、国債を多く持つ金融機関の経営リスクも高まる。』
と、金融機関としても自分が持つ国債などの債権価値が低下しているので、大企業に対して貸付けている分は銀行としては最低限回収できないとマズいのです。
質問者:株価ではまだ見えにくいですが、その他では大変なことになりつつあるのですね……。
筆者:正直なところ、一般市民からすると国債や仮想通貨と言うのは縁遠い存在ですからね。
日経平均やドルやユーロとの外国為替はニュースで言われますけど、それ以外は中々気づきにくい視点かなと思います。
いずれにせよ、アメリカが当面の間は破綻することは無いでしょうし、日本も破綻することは自国通貨建ての国債なのでまずありえません。
日本が懸念すべき点は対外債権を持っている相手方が破産して貸し倒れないか? と言うことを注目するべきでしょう。債権を持っている相手国が複数貸し倒れるようなことになると日本の円安が更に進行する恐れがあります。
次に世界恐慌が起きるとするなら、どこか中規模以上のクラスの国が破綻すると思うのですが、僕が考える「今一番危ない国リスト」と言うのを次に見ていこうと思います。