⑦ 利上げから起きる経済失速
筆者:前の項目では世界は多極化していくのではないか? と言うことについて見ていきました。
この項目では世界恐慌ほどではなくとも“世界同時景気後退”ぐらいは起きつつあるのではないかと言うことについて見ていこうと思います。
まずは、日本経済新聞22年10月2日
『世界の債券・株、価値44兆ドル減 4~9月で減少幅最大、GDPの半分 危機の芽が各国に拡大
『世界の債券や株式の価値が急減している。2022年4~9月には合計44兆ドル(約6300兆円)消失し、半期ベースで過去最大となった。歴史的な金利の急上昇を震源とした証券価値の減少が、英国の年金基金など思わぬところに危機の芽を生み出している。』
次に、日本経済新聞22年10月11日
『世界経済「失速」2.7%成長 IMF23年予測、利上げが圧力』
『IMFは23年の世界の実質成長率予測を2.7%と、前回7月から0.2ポイント下げた。この時期に公表する翌年の見通しで3%割れを見込むのは00年以降では初めて。この半年での下方修正の幅はリーマン危機時を上回る。新型コロナウイルス禍からの回復局面が暗転し、世界経済の3分の1が景気後退に陥ると見る。』
というように、世界的に景気後退し始めているという兆候が見て取れます。
株価においても、これまで盤石と言われたアメリカのS&P500も22年の年始から比べると20%下落しています。
※ただし円安ドル高の影響で日本から見るとそうは見えない
質問者:どうしてこのように世界の景気が減速しているんですか?
筆者:これは一つ前の項目でお伝えしましたが、ブロック経済化や多極化が進んでいることが原因だと思います。
今の日本の状況から見ていくと、円安ドル高が経済に大きな影響を与えています。
その、円安ドル高の要因としては、インフレを起因としてアメリカでは利上げが行われていることが根本要因としてあると思います。
そして、アメリカのインフレの原因は原油高や輸入価格の高騰が原因となっています。
原油高の原因はロシアがOPEC諸国に減産を要請したことが更に継続させることに繋がります。
輸入価格の高騰につきましては、食料生産国が食料安全保障のために輸出をすることを制限しつつあるのが原因の一つとしてあります。
つまり需要の分を供給が補えていないわけでの物価上昇です。
質問者:アメリカでは家賃が急騰していることもインフレの一因とされているようですがそれについてはどうしてなのですか?
筆者:これは不法移民の数が増えて住宅事情が逼迫していることが要因だと思われます。
アメリカの不法移民の数は、統計を開始した1960年以来で最高となった21年度(20年10月~21年9月)の165.9万人を22年度はさらに上回ると言うことのようです。
アメリカの物件事情についても調べたのですが、日本のように新築はあまり建てるようでは無さそうなので、中古物件が不足して価格が高騰しているという事情があるようです。
そのためにこちらも供給不足による家賃高となっているようです。
付け加えて言うのならアメリカへの不法越境者が大幅に増加した要因は、新型コロナウイルスの感染拡大によって中南米諸国の雇用が大きな打撃を受けたことに加え、21年1月に発足したバイデン大統領がトランプ前大統領と異なり、人道的な観点から不法移民に対して寛容と捉えられたことが大きいようです。
中南米とカリブ海諸国では新型コロナの感染拡大に伴い、2,600万人の雇用が喪失したと推計されており、これらが不法移民となっているようです。
これらは金利を上げれば抑えられるインフレという問題では無いように思います。
むしろ金利を上げ、ドル高になることによって中南米諸国の企業は更に潰れてアメリカに流れてくることが予想されます。
質問者:インフレと言うと、物が欲しいという人が増えていると言うことでは無いのですか?
筆者:一般的にはそう思いますよね。
ただ、アメリカの個人消費に関しては今年に入ってからですと1月のみ3%でしたが後は軒並み1%前後(9月は0.4%)の増加とさしたる数値ではありませんから需要が爆発しているインフレと言うことでは無いのです。
つまり、利上げがインフレ対策に効果を及ぼすことは少ないと思います。
現に、アメリカが利上げしても物価上昇のペースは抑えられていませんからね。
FRBとしては“仕事をしていない“と思われたくないので必死に利上げをしていますがあまり意味があるとは思えません。
そもそもの価格が高騰している部門の供給能力を上げないとインフレの根本解決はしないでしょう。
このようにインフレ原因を一つ一つ遡っていくと既にブロック経済化と多極化が自由貿易を阻害して供給不足になっているという話に直結していくわけです。
質問者:既に経済的には第三次世界大戦のような感じになっていますね……。
筆者:それはご指摘通りだと思います。
あまり恐怖を煽るようで言いたくはないのですが、
ここから更に悪くなるシナリオを述べさせていただきますと、
このように利上げが進んでいくと中小企業を中心に利払いが出来なくなることから倒産していきます。
するとさらに供給不足になり、インフレになっていくのでまたFRBが利上げを行います。そして金利差が付くとドル高になるので他の国々も金利を引き上げていきます。
このようなことをループのように続けていくと金利がとんでもないことになるので海外から借り入れている債務国が破綻していき、国家単位での経済危機に繋がることになっていきます。
この流れは、日本は外貨建てでほとんど借入れていないので関係無いのではないか? と思われるかもしれませんが、対外債権国でもあるわけです。
これは日本が持っている対外債権が次々と貸し倒れていくことが想定され、それが更なる円安に繋がることも想定されるので日本も対岸の火事とは思わないほうが良いです。
質問者:日本にも悪い飛び火をしてしまう可能性があるんですね……。
筆者:ポイントは一つ前の項目で紹介した通り、バイデン大統領はドル高を歓迎していると言うことです。
その理由はあります。金利を上げるとアメリカ国債の価格は下がっていくわけなのですが、ドル高によって相対的な価値の低下は避けられているわけです。
質問者:なるほど……そういう構造になっているんですね。
日本は利率を上げることができないのでしょうか?
筆者:まぁ、上げることは出来ると思いますが、現実的には銀行に対しては利率を上げても変動利率分の補助金を出すなどしないと中小企業が倒産していきます。
この両側面的な視点を持っているかどうかです。
まぁ財政破綻論者が政権の中枢を担っている以上は正直なところあまり期待できないのかなと思います。
また、この円安ドル高の状況は正直言って多少金利を上げたところで打破できるとは思えないんですよね。5%とかにするなら解決するかもしれませんがいきなりそこまで行くはずないです。
僕の予想ではFRBの主導するアメリカの利率は青天井のように上げていくので日本が利率を上げていったとしてもこの差は埋まっていくようには思えないんです。
そうなると円安になるのは日本としてはある程度やむを得ないということと考えるしかないように思えますね。
質問者:どうしたらいいのでしょうか?
筆者:昔は戦争など有事が起きた時は円高になる「有事の円高」と言われていましたから、ここ10年ほどでいかに日本の国際競争力が落ちてしまったことが伺えます。
以前のエッセイでも述べましたが、いかに短期的な戦略を強いることになる株主資本主義的な会社法や銀行法の制度をいち早く撤廃していき長期的な戦略で企業が考えられるような基盤を整備する(以前に戻す)ことを考える必要が日本政府はあると思います。
後は、技術流出を防ぐための取り組みとして留学生の受け入れの制限やスパイ防止法などの整備を行わないと折角研究しても流出していくだけです。
日本の理化学研究所などは10年勤めると雇い止めになるので来年から研究者の流出が懸念されています。ここを防止していくべきでしょう。
恐らくは中国などが理化学研究所でクビになる人たちに対して接触を始めていることでしょう。
質問者:大学院生など若い人が就職できなくなるのも問題ですが、今いる人たちの流出は安全保障上の問題にもなりますからね……。