② 中国の長期戦略と離れる西側諸国
質問者:中国の現状についてお願いします。
筆者:基本的には中国はロシアを支えるという状況は変えていかないと思います。
自信の台湾をゆくゆくは編入しようという野望を達成するためにはロシアとの両面作戦なしにはアメリカには対抗できないと思われるからです。
中国はまたロシアと違って狡猾に長期的視野を持って自己の権益を拡大しています。
例えば22年7月にはスリランカ政府が自ら破産を宣言しました。
これは中国から多額の債務を借入れ、“債務の罠”という状況を生んだためだといわれています。
簡単に言うと港を借りる権利を質に出してお金を借りたと言うことです。
質問者:その“債務の罠“という現象はどうして起きてしまうのでしょうか?
筆者:この現象は、通貨発行権がないか信頼性の低い自国建通貨しかない国が、
外貨を得るために中国から借りているということです。
2021年9月29日 日本経済新聞の
『中国への債務、42カ国でGDPの1割超え 米研究所 一帯一路「隠れた債務」40兆円規模』という記事によりますと
『中国の広域経済圏構想「一帯一路」を巡り、融資を受けた中低所得国で政府の負債として公になっていない「隠れた債務」が3850億ドル(約43兆円)にのぼることが29日、米民間調査機関の調べで分かった。
対中債務が国内総生産(GDP)の10%を超える国は42カ国にのぼる。中国が不透明な融資を通じて、急速に影響を広げる実態が浮き彫りになった。
米民間調査機関のエイドデータ研究所が同日発表した報告書で明らかにした。調査では2000年以降に中国政府や国有企業がアジアやアフリカなどの165カ国で資金を拠出した1万3000件(総額8430億ドル相当)の事業について、支出額や負債額などを調べた。
対中隠れ債務がGDP比で最も大きかったのはラオスの35%。公表している政府債務とあわせた対中債務は64%に及ぶ。中国による融資は、ラオスで初となる高速道路「中国ラオス高速道路」の整備にも使われている。20年末には首都ビエンチャンと中部バンビエンをつなぐ約110キロメートルが開通した。』
と、2021年時点で42ヶ国の国々に対して多大な影響力を及ぼしています。
質問者:どうしてそんなにも多額の負債を抱え込むほど外貨が必要なのでしょうか……?
筆者:この多額の債務を負ってしまう原因については国ごとによって諸々違いはあると思うのですが、
独裁国家の独裁政権が贅沢をするためにお金を調達したいときに使われることや、
これ以上他の国から借りられない国家が中国から借りるといったことがあるんですね。
言い方は悪いのですが、中国からの借り入れは『国家版闇金』と説明すれば分かりやすいですかね?
それらの国々からすれば港一つぐらい質に出すから兎に角借り入れたいという気持ちなのでしょう。
質問者:そうやって中国は他国から権益を獲得していくことはやはり脅威ではありませんか?
筆者:非常に脅威と言えます。しかし中国から見ても“債務の罠“は諸刃の剣です。
結局のところ中国から見てもドルを介しての貸し借りとなりますから、
事実上の港などを併合することが出来るというメリットはあるのですが、
中国側から見ても外貨が貸し倒れるために、必ずしも“債務の罠”もいい面ばかりではないと思います。
ただ、「デジタル人民元」などに移行し、自らを基軸通貨として据えることに成功したなら事は変わってきますから注意しておくことが必要です。
質問者:なるほど……何事も色々な側面から見ていかなくてはいけないんですね……。
筆者:22年4月にはソロモン諸島と中国が安全保障協定締結で合意したことでも話題になりました。
ソロモン諸島が中国に軍や警察の派遣を求めたり、中国の船舶がソロモン諸島を訪問して補給を行ったりできることが盛り込まれているということのようで日本なら「日米安全保障条約」に近いモノを感じます。
オーストラリアやニュージーランドはこれに対して脅威を示しており、アメリカから見てもオセアニアの補給路を奪われる形になるので注視していると思います。
この様に中国は東南アジアからオセアニアまで幅広い領域に食指を伸ばしているのです。
質問者:一帯一路構想についてはどうなのですか?
筆者:前回の4月の時に僕が注目していたのは、既に一帯一路構想に参加を表明していたヨーロッパ諸国が一帯一路を選びロシアを支援するのか、それとも離脱するのか? というところを見ていたのですが、やはり動きがありましたね。
読売新聞オンライン22年8月12日の『ラトビア・エストニア、中国主導の経済協力枠組みから離脱…「一帯一路」構想に痛手』記事では
『1991年にソ連から独立したバルト3国は、ウクライナを侵略するロシアの脅威を強く認識し、中国も後ろ盾となっているとみなしている模様だ。エストニア外相は11日の地元テレビで、「中国は、ウクライナに対するロシアの戦争を明確な言葉で非難していない」と指摘した。
バルト3国は権威主義国の影響力伸長を警戒し、欧州の中で中国外交を見直す先陣を切ってきた。リトアニアは昨年、外交関係のない台湾の窓口機関となる「代表処」を首都に開設し、今月は政府高官を台湾に派遣した。中国政府は12日、この高官が担う運輸・通信当局との交流を停止する制裁を科すと発表した。』
やはり、バルト3国は旧ソ連との関係でトラウマもありますからね。
ロシアと中国との繋がりがあることは明らかですから、一帯一路構想にも加担できないと思ったのでしょうね。
質問者:世界の眼が中国に対しても厳しくなっているというのは良い傾向ですよね?
筆者:そうですね。2019年G7で唯一「一帯一路」の覚書を結んだイタリアにおいては新しくメロー二政権が誕生するようなのですが、「台湾支持」「一帯一路の覚書を更新しない」と言った発言をしていると22年9月26日の産経新聞の『伊・メローニ党首、台湾支持 「親中」脱却の構え』という記事でも書いてあります。
西側諸国が一致して対ロシアだけでなく対中国を見据えて動き始めていると言うことです。
次に全世界が警戒し、日本でも影響が直撃する“台湾有事“の可能性について見ていこうと思います。