⑬ 食糧価格はむしろ下落/食糧不足の国はどうして存在し続けるのか?
質問者:日本では食料価格が高騰していっていますが、世界的に見たらどうなのですか?
筆者:10月7日のロイター通信の記事を引用させていただきますと
『[ローマ 7日 ロイター] - 国連食糧農業機関(FAO)が7日発表した9月の食料価格指数は6カ月連続の低下となった。
9月の同指数は平均136.3ポイント。8月の137.9ポイントから低下した。ただ前年比では5.5%上昇した。
同指数はロシアのウクライナ侵攻を受けて、今年3月に過去最高の159.7まで上昇していた。
内訳では食用油の価格が前月比6.6%低下。供給拡大と原油価格の下落が寄与した。
砂糖、乳製品、肉類も値下がりした。下落率は1%未満。
穀物価格指数は前月比1.5%上昇。小麦が2.2%上昇した。アルゼンチンや米国の少雨に対する懸念などが背景。
コメの価格は2.2%上昇。パキスタンの洪水の影響などが懸念された。』
と、去年よりは値上がりはしているものの直近半年で見て見ると小麦と米以外は軒並み下落しつつある傾向が続いているようです。
質問者:えっ……直近の食料価格が世界的には下がっているだなんて信じられません……中身を減らされている上に何%は上がっているでしょうし……。
筆者:「9月 生活意識に関する調査」によると、生活者が感じる物価上昇率は1年前と比べて10%上昇というデータもありますからね。
注意しなくてはいけないのは上記の記事の引用は単純に小売価格だけを見ていますからね。
日本へ輸送する際は勿論為替の問題もありますし、燃料高の問題もあります。
それらのことを考慮すると日本に届くまでの間の値段というのは上がっていると言うことを意味します。
質問者:なるほど、そうでないと世界的に食料物価高になっているのにおかしいですものね。
筆者:世界的な物価高も日本ほどの通貨安でないにしても燃料高の影響が直撃していますからね。消費者のところに届く又は買うことができるところに至るまでの値段は1割、内容減も含めればモノによっては2割以上実質的には違っていてもおかしくないです。
しかし、開戦直後のひと頃よりは供給力不足による世界的食糧危機への影響は薄まったという見方が強いようです。
また、懸念されたアフリカへの輸出についてひと頃はロシアがウクライナの貨物船に『武器を仕込み攻撃している』と主張をして一時、穀物輸出合意が履行されませんでした。
ですが、11月に入ると一転合意を履行しだしたという謎の行動を取ってくれたおかげで再びアフリカに対しての輸出は再開されたようです。
質問者:ロシアの行動はよく分かりませんが、今回のロシアとウクライナの問題により、アフリカの方々が一番危ないという話は以前からありました。
取りあえずは一件落着ですが、状況が刻一刻と変化していく中、今後もとても心配ですね……。
筆者:この穀物合意の期限は今年の11月19日までということのようなので、これが延長されないとこの問題については振出しに戻る恐れがあります。
この点は今後も注目していくべきところでしょうね。
ロイター通信によると、『ロシアの輸出を認めることが新しい穀物合意の条件だと言うことで、国連貿易開発会議(UNCTAD)のグリンスパン事務局長は3日、ロシアの食料・肥料輸出に向けて米欧と調整を続けていると明らかにした。』
とあります。
ロシアと欧米との綱引きと言うのも注目されます。
アフリカには影響が直撃しますが、ウクライナからの穀物輸出が途絶えると巡り巡れば日本にも価格上昇と言った形で影響が出てきますからね。
質問者:人道的な観点以外でも早く戦争が終わって欲しいですけど、これまでの分析からですとそうもいきませんものね……。
今後の世界の食糧事情の見通しについてはどうなのでしょうか?
筆者:毎日新聞の22年10月25日の記事によりますと、
『「来年も記録的な飢餓リスク」 食糧危機長期化にWFPが警告』
『国連世界食糧計画(WFP)によると、世界で深刻な飢餓に直面している人は昨年末時点では2億8200万人だったが、2022年はすでに過去最多の3億4500万人に増えた。アリフ氏は日本が来年5月に広島で開かれる主要7カ国(G7)首脳会議で議長国を務めることに触れ、「WFPと日本はあらゆる面で協力を深めてきた。G7でも食糧問題にフォーカスしてくれると信じている」と訴えた。』
とあります。
また、インドネシアのレトノ・マルスディ外相は、6月に開催された世界の食糧安全保障に関する閣僚会議で、肥料不足がアジアの 20億人に災いをもたらす可能性があると述べたとあります。
質問者:やっぱり危ないんですね……。20億人が飢餓になるかもしれないだなんてとんでもないじゃないですか……。
筆者:ただ、これは一側面的であり、発展途上国が先進国にお金を出させるための“作戦“である可能性はあります。
なぜなら、コロナ前から“19億人が食糧が不足しており、飢餓状態にある”と言った話があり、それらの方々が仮に“飢餓状態”であるならもう3年も経っているわけで、人口が目に見えて減っていない状況を見るに、“飢餓じゃないじゃないか”と思ってしまうわけです。
質問者:そもそもどの程度が食べ物が足りないのか“飢餓”なのか定義が分かりませんからね……。
筆者:僕もあれから色々と学んだのですが、
22年5月16日のキャノングローバル研究所の
『食料安全保障の危機 減反廃止しコメ増産を―平時は輸出』の記事によりますと、
『食料危機が騒がれた08年でも、70年代の価格水準を下回っている。理由は簡単である。生産の増加が人口増を大きく上回ったからだ。1961年から2020年まで、人口は2.5倍なのに小麦と米は3.4 〜3.5倍に増加している。農業生産は、農地面積に面積当たりの収量(単収)を乗じたものである。世界の農地面積もブラジル等で10%増加する余地があるし、ゲノム編集などで単収も増加する。』
と、小麦に絞った話ではあるのですが、生産能力は向上し価格も下落傾向にあるのです。
現在は2008年の水準より少し下というところですが、世界的に見れば生産能力は上がっています。
※ただし、ゲノム編集された食品が人体に悪影響を及ぼす可能性はあります。
質問者:そうなると、どうして発展途上国の方々は食べ物が足りないのでしょうか……?
筆者:一つは我々先進国が食べ物を棄てるほど持っているという面があります。
データによって少し違うのですが日本も1人あたり50キロ~100キロ分の食料を廃棄していると言った統計もあります。
自分はそんなに食べ物を無駄に棄てていない! と思われる方もいらっしゃると思うのですが、コンビニ弁当など消費期限が過ぎるとすぐに廃棄になってしまうのでそう言った量を国民全体にならすとそういう数字になると言うことです。
それに対して発展途上国は独裁国家であることも多いので、多少食料を寄付したとしても“上の方の人達で食料が停留”してしまって適切に困っている人たちに分配されていない可能性もあります。
身近な国で言えば北朝鮮などが、人道支援をしてもいつまで経っても国民の飢えが収まらないのを見てもらえれば分かると思います。
質問者:なるほど……世界的に見て人口に応じた生産能力があっても必ずしも隅々まで行渡るとは限らないわけなんですね……。
筆者:本当に悲しい事実ではありますが、現実的にはそうなります。
食品ロスは、焼却すれば二酸化炭素を発生させ、埋め立てれば二酸化炭素の25倍以上の温室効果を持つメタンを発生させるようです。
IPCCによると、食品ロス由来の温室効果ガスは全体の8〜10%を占め、自動車からの排出量とほぼ同じと言うことのようです。
これに対応して食品ロスを堆肥などに使う考え方もあるようですが、まだまだ実証や効果実験が足りない状態です。
ちなみに日本の「Kuradasi」という企業がとても安く買い取って定価よりも安く消費者に提供すると言ったやり方でフードロスを減らそうとしていますので、様々な方法を使って減らしていきたいですね。
次の項目ではこれに関連して脱酸素の流れが、今後の世界的生産能力に影響する点について見ていこうと思います。
ちょっと長くなってしまうので次の項目で語らせていただきます。




