⑪ イギリスの“積極財政”がトラス前首相退陣に繋がったのか?
筆者:次にイギリスを見ていきましょう。
日本とイギリスの関係は貿易高は10番以下ではあるので日本にとって経済的な影響はドイツや韓国よりは小さいでしょう。
しかし、夏には航空自衛隊と英空軍の次期戦闘機について、双方の開発計画を統合し、共通機体を共同開発するなど軍事上でも密接な繋がりになってきています。
また、ヨーロッパの国でありながら島国であるなど日本と近い状況にあるような国でとても親近感がある方も多いと思います。
質問者:確かに、エリザベス女王が崩御された際にもかなり注目されていましたからね。天皇皇后両陛下が国葬に参列されたことでも話題になりましたよね。
やはりヨーロッパなのでロシアから原油が届かないのですか?
筆者:いえ、英国立統計局(ONS)によると 、イギリスが2021年に輸入した天然ガス(金額ベース)のうち74%がノルウェー産であり、ロシア産は5%弱に過ぎないようです。
しかしロシアとの関係の悪化に伴い大陸の市場で天然ガスの需給が逼迫し、価格が急騰すると、英国もその影響を受け、ノルウェーが輸出を渋って、本格的なガス不足が意識されるようになったようなんですね。
10月からは何と前年同月比80%電気料金が上昇するほどの深刻な状況になっているようです。
これは電力の自由化によって民間電力会社が価格を維持できなくなったためと言われています。
契約する会社によっては極端で何倍にも電気代が上がっているところもあるようです。
こうした状況を受けてイギリスでは、2017年に閉鎖された国内最大のガス貯蔵施設の再開に向けた動きも加速しているようです。
質問者:それはとても大変じゃないですか……。80%上昇だなんて考えられません……。
筆者:このように深刻な状況から既にイギリスに関してはリセッション(景気後退)にもう入ったのではないか? とも言われています。
22年9月23日のロイターの記事『英総合PMI、9月は48.4で予想下回る リセッション入りの可能性』によりますと
S&Pグローバル/CIPSが23日発表した英国の9月の総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は48.4で、8月の49.6から低下した。コストの大幅増と需要の低迷が背景。
昨年1月の新型コロナウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)以来の低水準で、ロイターがまとめたエコノミスト調査の49.0を下回った。
好不況の分かれ目は50。
S&Pグローバルのチーフ・ビジネスエコノミストのクリス・ウィリアムソン氏は「景気低迷が9月に深刻化した。企業活動も後退しており、景気後退入りの可能性がある」と述べた。
将来の生産に関する指数は2020年5月以来の低水準に落ち込んだ。』
ちなみに10月のイギリスのPMIは45.8とありますからこの記事よりも深刻度を増しています。
質問者:国民の生活についてはどうなのですか?
筆者:国民も貧困状態になりつつあります。
『英消費者団体は10月19日、物価高騰を受け、国内世帯の半数が食事回数を減らさざるを得なくなっていると警鐘を鳴らした。政府が光熱費抑制策の縮小を打ち出したことから、多数の国民が貧困状態に陥る恐れがあるとも予想している。』
ただ、日本においても給料が上がらないまま物価が上がっている状態になっているので、似たような状況とも言えますけどね。
質問者:確かに日本でも貧困について多く語られるようになった印象があります。
金融についてはどうなのですか?
筆者:僕の調べ方が足りないだけなのかもしれないのですが目に見えた金融危機のようなことは無いようです。
ドイツとの違いは僕が調べた限りにおいてですが、大きな企業が倒産危機に無いのと、銀行への問題が薄そうだというところからイギリスを皮切りとした金融危機は起きにくいのではないかなというのはあります。
質問者:なるほど、兼ねてからピンチな銀行が無いというのは大きそうですね。
ところで、イギリスで気になるのはトラス前首相が減税政策を行おうとしたところ猛反発にあって撤回した上に退陣したという話です。
減税政策がいけないのでしょうか?
筆者:これは非常に勘違いされがちなことなのですが、50日経たずにトラス前首相が辞意を表明するところまで追い詰められたのは決して積極財政や減税そのものが原因では無いのです。
トラス前首相が退陣していくまでの大雑把な流れとして説明させていただきますと、減税の中身が企業向けの法人税減税などの政策でした。
それを見た一般庶民は貧富の差の拡大を懸念して大きく反発しました。
それを見たトラス前首相は法人税の減税に関しては撤回したので対象だった保守党支持の企業からの支援もなくなり、結果的に誰からの支持も無くなったので辞任せざるを得なくなる――といった感じだったのです。
つまり、積極財政や減税の“中身次第”だと言うことが一番大事です。ちなみに、トラス前首相の“積極財政“の中では電力を軽減する以外はほとんど法人への対策でしたね。
実際にコロナ対策のために各国で減税をしたのですがそれによって大幅な通貨安になったという話は聞きません。
僕が思うにあまりにも現在の経済状況に合わない政策をしたからポンド安になったので、国民に寄り添った減税だったならこんなことにならなかったのだと思います。
質問者:ということは、積極財政や赤字国債そのものが通貨安になるわけでは無いんですね?
筆者:そうです。
積極財政や赤字国債そのものが通貨安に繋がるというのなら日本が予算を決定し赤字国債を発行するたびに大きく円安になるはずですがこれまでその傾向はゼロです。
結局のところ出費する内容が悪ければ通貨安に繋がる可能性があると言うことを示唆したものに過ぎないですね。
日本も10月28日に30兆円規模の財政支出の閣議決定をしたようですが、
内容次第では日本にも投機筋からの“審判”が下る可能性はゼロでは無いです。
バラマキは中抜きが出来るので僕は少なくとも好きでは無いです。
僕は消費税減税か子育て支援のための永続的な支出を増やすべきだと思いますけどね。出産一時金増やすとか言うのは何の解決策にもならないです。
30兆円の一部を“お友達”に配分するのかな? って日本の経済対策については思ってしまいます。
質問者:なるほど、中身が大事だと言うことなんですね……。
筆者:この一件で一つ分かったことがあるんです。イギリスの変動の長期金利がアメリカの金利に並んだ瞬間があったのですが、それでも通貨安になったのです。
そのために、金利だけが通貨安に繋がるわけでは無いと言うことが明らかになったのです。
ですから、今の状況下で日本が利上げをすれば、それに伴う利率分の補填を政府が行わなければ、かなり経済において中小企業を中心に危険な状況になると言うことです。
質問者:日本はただでさえゼロ成長なのにマイナス成長になってしまうかもしれないんですね……。




