いつも睨む田中さんはオレを助手にした(ロングバージョン)
和田くんと田中さんの“きっかけ”編です。(#^.^#)
正直、スクールカーストって、オレよく分かんね。
ウチのクラスだって、そこまで明確なものはないとも思う。
少なくとも今のところは……
それでも、女子って、何かあるみたいで
まあ関係ないやって!思ってたんだけど、
たまたま同中だったコがややこしそうな言い合いに巻き込まれていたので
話の整理を少し手伝ったんだ。
ホラッ!
こういうのって、傍から見てる方が良く分かったりするじゃん
いつもは、まあ、『みてるだけ~』なんだけどね。
この、たまたまやってしまった事の成り行きで、なんだか、クラスの女子から結構、話し掛けられるようになった。
すると、男子もオレの周りに集まって来るようになった。
オレって“撒き餌”かよ!って感じなんだけど
別に“高校デビュー”とかするつもり、全然ないんだけど、
「和田っち、頼りになるからさぁ」とか言われてる。
でも、いい事も少しあった。
学級委員決めの時、やっぱり誰も立候補しない状況になった。
と、田中さんが手を挙げたんだ。
「私、やります」って
教壇に立った田中さんは、スッと背筋を伸ばして
「皆さん!やっぱり、このクラスをいいクラスにしようって、していかなきゃって、考えるべきです。だから協力して欲しいし、男子にも立候補して欲しい」
教室が居心地の悪い空気になる…
田中さん、それは正論が過ぎる。
なので手を挙げた。
「あの~ オレ、さっき推薦してくれた人が居たから、立候補します」
この言い方は田中さんにはちょっと不意打ちだったようだ。
「和田…くん?」少し名前が不安そうなので、にこやかに頷いてやる。
「……はそんなことでいいんですか?」
「―ん、なんかさ、田中さん自身も今、“いつも的”な感じじゃないじゃん。オレもさ、学級委員って柄じゃないし、考えもしなかったんだけど、期待されるとやってみようかなって気分になる。そしたらさ、みんなも手を貸そうかなって雰囲気になんじゃね?」
皆、頷いてくれた。
そんなわけで田中さんと学級委員をやることになった。
これがいい事。
実は前に、近くの席の女子と「ハロハロ」と挨拶している田中さんを見て、「あ、可愛い」って思ってしまったんだ。
だけど田中さんは自分の『魅力』には疎い。
クラスの男女(男からは熱く、女からは鋭く)の視線を集めているのに無頓着だ。
それが証拠に、立候補の後、オレがクラスのつるんでいるヤツらから散々イジられた。
それだけならまあいいんだけど、トイレから教室に戻る途中、廊下の片隅で三人の女子から「田中さんの事、どう思ってるの??」と壁ドンされてしまった。
マジ怖ええ
「大丈夫かよ……田中さん」って、目立たないように田中さんを見ると、前の席の女子とマンガかアニメか、それ系の話で盛り上がっている。
ん~
メリハリと言うのか、すっごくあるよなぁ~この人
だって、うっかり目が合ってしまったら
怖い目で睨むんだぜ!
それはあんまりだと思う。
そう、いつも「田中さん」って呼びかけると
目が鋭い。
なので、言い方を工夫してみることにした。
「あの」を頭に付けてみたり、とか声のトーンを上げたり下げたりとか
でも、どれもイヤそうなんだよなあ
一度、関西弁っぽいイントネーションで名前呼んだ時は「なにっ!!?」って声で刺されたけれど。
オレってそんなにチャラ男っぽく見えるのかなあ
そうそう、学級委員の学年の打ち合わせの時、同中のヤツも学級委員やってたので聞いてみた。
「桜井のトコはどうよ?亀井さん怖い?」
「……ん、厳しいかな…」
「睨む?」
「いっつも睨まれてはいる」
「うぇ~!! そんなに?」
「あぁ でも学級委員だからという事ではない」
「なんか、分かったような分からないような話だけど…… やっぱり学級委員に立候補する女子って気が強いのかなあ」
「その言い方は刺されるかも……」
「だよねぇ~」
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今日は男子の体育の授業はラグビーだった。
女子は視聴覚室で座学だったようだ。
ガラガラとドアが開いて両手に紙袋を提げた田中さんが出てきた。
どうやら集めたノートを運び出しているらしい。
「手伝うよ!田中さん!」
後ろから声を掛けた。
田中さんは振り返って、初めて微笑んでくれた。
「ありがと! 両手出して!!」
で、紙袋を全部持たされてしまった。
手ぶらになった田中さんはオレの少し前を歩く
「あ~楽ちん♪楽ちん♪」
紙袋を提げたオレの歩みに合わせてくれているので、いつもよりずっと近くで…
涼やかな残り香がする。
オレ、後ろで良かった。絶対、今、汗臭いから
しかし……
「なんで全部、オレが持つの?」
「それはね」
と田中さんは振り向いた。
「私が女の子だからだヨ」
その言葉をオレ、ピッチャー返しのように打ち返した。
「うん、分かるけど。それ男女差別」
その言葉を田中さんは楽々さばいてしまう。
「差別でなく適材適所」
「それにね」と田中さんは両手を後ろで組んで前を向いた。
「和田くんはスケベだから……」
「なにそれ!」
田中さんは前を向いたまま、クスクス笑った。
「女子のノートの中身を見ないよう、両手を塞いだの」
楽しそうに笑う田中さんの後ろ姿には窓から日が差していて、サラサラの髪がキラキラしていた。
東高は『パーマ禁止』という古めかしい校則がある。
けどオレ、今、その校則にマジ感謝しながらも焦っていた。
やべっ!! たぶん、恋に落ちちゃった。
この瞬間が少しでも続くようにとついつい歩みが遅くなる。
田中さんが心配して振り向いてくれるくらいに…
。。。。。。。。。
イラストです。
田中さんのパステル彩色バージョンです。
まだ続きます(*^。^*)