98話 シュターレン
時間が空いてしまい失礼しました。
そして、本日もよろしくお願いします。
あらすじ
フレイメス帝国に囚われていた大官寺亮典と小田切翼は皇帝を討ち取ろうと街で暴れながら帝城へ向かった。そんな彼らを迎え撃つのは騎士団と魔法士団、そして帝国の最高戦力の一つである『シュターレン』の三人。一方、ポーラは街の惨劇を知り偶然知り合った冒険者ジョエルと共に現場へ向かうのであった。
『シュターレン』の女性騎士ルートが抜剣して小田切翼の元へ迫った。
そんな彼女を見て小田切翼は溜息を吐いた。
「出来れば女性とは戦いなくないんだけど……。」
「これだけ暴れて良く言うわね。あなたが命を奪った中には女性従士や騎士もいたかもしれないわよ?」
「嘘でしょ……。」
「あなたが素直に捕まったら教えてあげないこともないわよ?」
「ここまで来たらあいつについて行くしか生き残れる選択肢ないんだけど。」
「私達が信用できないと?」
「ここまでやらかしたらねぇ。」
「残念ね。」
「……。」
ルートが半透明のオーラを全身とブロードソードに纏って斬りかかった。
小田切翼も両手に緑と鉄色のオーラを纏って応戦した。
「斬れない!?」
「あなた、その能力に自負があるみたいだけど私達も分析して考察しているの。細かいところは分からないけど私達でも対応できる部分があるってこと!」
「だったら!」
小田切翼が左手の手刀で相手の右手首を狙ったがルートもそれに気づいて体ごとずらしながら刃で受け止めた。
その直後に右の手刀が相手の左腕を狙うもルートの左足の蹴りが腹に直撃。
かなり強く蹴ったのか小田切翼は踏ん張りながらも距離を取らされた。
「あんた、騎士じゃないのかよ?」
「騎士だとしても今の状況に手段を選ばないわ。」
「最低だ……。」
小田切翼は受け身になっており、再び距離を詰めて攻めるルートには防戦一方になった。
一方の大官寺亮典もまたグロスヴェートとアウグスティンを相手にしていた。
二人もまた同じように半透明のオーラを全身と武器に纏っていた。
その状態は大官寺亮典や周辺の騎士団にも認識出来ているようで騎士団側ではかなり興奮していた。
「早速二人は本気みたいだな!」
「これならあの不届き者も直ぐに捕まえられるだろう!」
「そう言えばあの男も鋼色のオーラを纏っているけど?」
等と様々な声が上がっていた。
「あの冒険者がやっていた時点で思い出すべきだったぜ、クソが!」
「あの冒険者?」
大官寺亮典の言葉にグロスヴェートは疑問符を浮かべた。
「それが誰かは分からないが、細かな傷を見るに実力者は限られるだろう。」
「それよりもさっさと斬るか!」
アウグスティンの分析を他所にグロスヴェートは切り替えてバスタードソードを後ろに構えて走り出した。
それを見て大官寺亮典は鼻で笑った。
「変わらず遅いなデカ物が!」
両者の距離が縮まる前にアウグスティンが既に動いていた。
寧ろ後から動き出したアウグスティンが速く大官寺亮典に迫った。
「先に私から行こうか!」
二振りのショートソードが背後から大官寺亮典の首を狙っていた。
大官寺亮典は微動だにせず両手で首の傍まで迫っていた刃を受け止めた。
「お前の攻撃なんて受けるかよバーカ!」
「鉄壁の防御を張っているなら受け止める必要もなさそうなのにな。」
「うるせー!そんなのは」
「一刀両断!」
気合の入ったグロスヴェートのバスターソードが大官寺亮典の頭の天辺を捉えようとした。
「ざけんなよ!」
大官寺亮典は上体を屈めながら受け止めていたショートソードを手放して前傾姿勢になって踏み込んだ。
バスターソードが先に大官寺亮典を斬るかと思えた。
「ガンシュート!」
直後、大官寺亮典とグロスヴェートの姿がその場から消えた。
いや、大門側に二人は動いていた。
寧ろ大官寺亮典がグロスヴェートを殴りながら動かした、と言うのが正しいだろう。
「ただの人間の癖に丈夫すぎだろ!?」
「恵まれた身体能力のお陰だな!」
途中で殴り飛ばしたことで両者の距離が広がったもののグロスヴェートは思ったほどダメージを受けていないようだ。
甲冑も凹みどころか傷一つ入っていない。
「後ろががら空きだぞ!」
アウグスティンが襲い掛かった。
大官寺亮典は反射で回し蹴りを放つもギリギリでアウグスティンが避けた。
そのタイミングでグロスヴェートのバスターソードが横に薙ぎ払われた。
正面左から襲い掛かってきた強大な刃に大官寺亮典は咄嗟に左腕で防御姿勢を取った。
今までで一番大きく鈍重な音が響き渡った。
「ぐおっ!?」
受け止めきれずに大官寺亮典が吹き飛んだ。
本日初めての光景に騎士団の面々が盛り上がった。
「すげー!」
「流石グロスヴェート様だ!」
一方でグロスヴェートは納得していなかった。
「今ので両断しようとしたがまだ足りなかったか。」
「隙を与えるべきじゃないな!」
頭を掻きながらグロスヴェートはバスターソードを構えて歩き始め、アウグスティンは颯爽と大官寺亮典に迫った。
吹き飛ばされた大官寺亮典はぶつかる直前に敢えて飛ばされる方向へステップを踏んで力を逃がしたが息が荒くなっていた。
「あの時と同じじゃねーか!クソが!」
当たり散らすも状況は動いていた。
体勢を整える前にアウグスティンが既に接近していた。
それに気づいた大官寺亮典は体に纏う鋼色のオーラを更に濃くした。
その状態でアウグスティンの顔面を右拳で狙った。
「甘い!」
アウグスティンは左のショートソードで拳を逸らし、右のショートソードで大官寺亮典の脇腹を刺そうとした。
「!?」
「何が甘いんだ?」
脇腹に向かったショートソードは肉を裂くことなく鋼色のオーラで受け止められていた。
「くっ!?」
大官寺亮典の左拳がアウグスティンの右頬に迫っていた。
アウグスティンは首を反らしながら後ろへステップを踏んで回避。
「逃げんなよ!」
大きく踏み込みながら大官寺亮典の右拳がアウグスティンを殴ろうとした。
今回は避けきれなかったのかアウグスティンは二振りのショートソードで正面から受け止めた。
「重い!」
「さっさと殴られてくれよ!」
もう一回殴ろうとしたのか大官寺亮典の拳がショートソードから離れると直ぐにアウグスティンはその場を動いた。
アウグスティンの動きは肉眼で捉えられる速さだがフェイントや大官寺亮典の間合いから離脱を繰り返し始めたことで大官寺亮典の怒りが再び溜まり始めた。
ショートソードの攻撃を受け続ける大官寺亮典だが鋼色のオーラが濃くなったことで傷一つ入らなくなったためにアウグスティン相手に防御姿勢を取ることが無くなった。
それでも捕まえようと躍起になったことでストレスを感じ始めていたのもまた事実。
「あー!鬱陶しいな!」
「それなら終わらせてやろうか?」
大官寺亮典が手近な場所しか目を向けていなかったためにグロスヴェートの接近を許してしまった。
彼が鋼色のオーラを濃くしたようにグロスヴェートもまた半透明のオーラが多くなっていた。
「一刀両断!」
グロスヴェートのバスターソードが大官寺亮典を真っ二つに。
帝城へ続く大通りを駆け抜けたポーラと冒険者ジョエル。
彼等は騒ぎの大きい大門前に行こうとしたが大門前の広場の手前は従士達がバリケードを敷いており負傷者の手当ても行っていた。
只事でないと感じた二人だがポーラは怒りと焦りから周辺から行ける場所を探そうと走り始めようとした。
「待てポーラ!多分騎士団が周辺を封鎖しているはずだ!」
「だからどうした!騎士団だけに任せていられるか!」
「落ち着け!」
二人の言い合いに近くの従士達は不思議な顔で見ていたが特に咎める人はおらず放置していた。
「二人とも落ち着くニャ。」
二人に声を掛けてきたのは猫人の冒険者だった。
「シュゼット……。」
「ジョエルが走りに出てから街中が物騒になったから探しに来てみたってわけニャ。事情があるなら聞くニャ。」
「実はな―――。」
実はジョエルの相棒である猫人の女性冒険者シュゼットは彼から説明を聞いて頷いていた。
「なるほどニャ。騎士団がいるなら恨みを晴らしてくれるんじゃないかニャ。」
「そんな正論は要らない!わたしはカイを殺した奴を許さない!今生きているならぶっ殺す!」
感情が昂っているポーラに二人は戸惑いを隠せないでいた。
「こういう時のジョエルは昔の事を思い出したから手助けしようとしたのかニャ?」
「そうだな、彼女が心から少年の為に泣いていたからな……。」
それを聞いて唸ったシュゼットがポーラに提案した。
「まぁあり得ないと思うけどもし騎士団がピンチの場合なら戦うって言う条件で良いなら抜け道を教えるけど、どうかニャ?」
それを聞いたポーラが目を見開いた。
「それで良い!直ぐに案内して!」
即答して食いつくポーラに二人は呆気に取られたがシュゼットは我を戻して革の胸当てを叩いた。
「任せて欲しいニャ!私達初めて話すけど同じ冒険者として向こう見ずな行動で死なせたくないからニャ、それだけは分かって欲しいニャ。」
「分かりました……。」
努めて感情を抑えて了承したポーラを引き連れシュゼットはジョエルと共に一度大通りを引き返した。
そこから狭い脇道や一般家屋にお邪魔して最上階へ上がってから隣家へ飛び移って目的地へ移動した。
尚、一般家屋へ入った時はドアをノックして家主に了承を得たり飛び移った隣家にはお邪魔した後に大声で事後報告をしていた。
「お前は身軽で良いが俺にはきついな……。」
「ジョエルはその大きな体をスリムにするか柔らかくすれば良いニャ。」
「簡単にするわけにはいかないだろうよ。」
そして三人が大門前広場に近い建屋の屋上へ辿り着いた時、ある光景を目撃した。
一つは女性騎士ルートが小田切翼と戦っている場面。
もう一つはグロスヴェートのバスタードソードが大官寺亮典を叩き斬ろうとしている場面。
ポーラは二人の異邦人を見て思い出した。
名前は分からないが嘗て平本慎吾だった時にサンデル王国内で自身を虐めていた主犯とそれを止めずに眺めるだけだった傍観者。
一度だけ助けを求めたこともあったが小田切翼は冷たい目で無視していたことをまた記憶にあったようだ。
それらの思い出がポーラの中にあった感情を爆発させていた。
息が荒くなり狂気を宿した眼をしていたがその場に踏みとどまっていた。
何故なら大官寺亮典が殺されようとしていたからだ。
そして、その時が訪れようとして
人より大きなバスタードソードが大官寺亮典を斬り裂いた。
横から見ていた大門前を防衛している騎士団の面々の表情が喜びに満ち溢れようとしていた。
そんな雰囲気を感じ取った反対側に退避していた負傷者だらけの従士達だったが彼らはただその光景に目を吸い寄せられていた。
攻撃しても傷が入らず一方的に騎士達を殴っていたあの男に致命的な一撃が入った。
バスターソードの軌道が阻害されずに地面にまで斬り降ろされた事実にその場にいた殆どが驚愕を感じていた。
遠目で見ていた小田切翼も例外ではない。
「嘘だろ……。」
「うーん。」
唖然とした小田切翼に対してルートは腑に落ちないと言った顔だった。
それは大官寺亮典を攪乱していたアウグスティンも同じだった。
加えて苦い顔をしていたのはグロスヴェートだった。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
大官寺亮典は数秒後で気づいて、そして絶叫した。
自身の左腕が斬られた事実に。
「咄嗟に体を動かしやがって、そのままなら楽に逝けたものを。」
地面に振ったバスターソードを持ち上げて構え直したグロスヴェート。
斬られるタイミングで大官寺亮典は体ごと右へ避けようとしたが間に合わなかったようだ。
大官寺亮典が戦意喪失して動かないと思ったのかアウグスティンは警戒しつつもグロスヴェートの邪魔をしないようにその場から距離を取った。
「陛下の命を狙ったこと、帝国民の命を奪った罪は重いぞ?」
狙いを定めたグロスヴェートがバスターソードを再び振り下ろそうとした。
大官寺亮典と言う大罪人の命を摘み取るために。
(なんだこれ?俺の左腕がないだと!?俺の能力【メタルガン】は鋼の硬さを持っているはずだ!あんなバターナイフで斬れるわけないだろ!?ふざけんなよ!俺がこの世界へ来たのは征服する運命じゃなかったのか?攻防一体の力があれば堂々と敵をぶっ殺せるだろうよ!だから魔王だって邪神だって敵じゃなかったて言うのによ!こんな人間の国で普通な奴らが俺を捕まえたり腕を斬ったりするなんておかしいだろ!?こんなクソッたれな結末何ていらねーぞ!帝国の偉い奴の椅子を奪ってからサンデル王国の王族も殺して英達を跪かせるはずだろ!?こんなもの予定調和じゃない!俺の人生がこんなバカな展開で終わるわけがない!ああああイラつくなぁ!俺の現実じゃねえぞ!俺は全てを殴って踏み潰す側だ!俺が死ぬことを俺が許さない!全ての世界が俺の思い通りになるのが道理だろ!クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!全員死ねよバーカ!俺にもっと力を寄越せ!こんなところで死ねるかよ!)
大官寺亮典の頭上にバスターソードが振り落とされる瞬間。
それを目撃していた誰もが同じ結末を想像しただろう。
ポーラですらそうだった。
しかし。
「クククククククククククククカカカカカカカカカカカカカカハアアアアアアアアアハッハアアアアアアアアアア!」
想像に反して男の笑い声が響いた。
誰も動けずにいた。
その声の主。
力強く振り下ろされたバスターソードを頭で受け止めた男が笑っていたから。
微動だにしなかった。
寧ろ腕が斬れたのに頭が何ともなっていないことに誰もが疑っていた。
「俺は……俺が……俺こそが!世界を支配する唯一無二の存在だああああああああああ!」
バスターソードを浮かして大きく後ろへ飛んだグロスヴェートが見たのは一人の男。
攻撃の直前に鋼色のオーラを纏っていたがそれに加えて大きな変化があった。
元々黒い髪は光沢のあるダークグリーンに染まっていた。
そして男は斬り落とされた左腕を右手で掴んでそれぞれの斬り口に合わせた。
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
その行動に誰もが息を呑んだ。
しかし驚くべきことに傷口からダークグリーンの結晶が一瞬生まれたと思えば直ぐに退き跡形もなくなった。
そう、無理やり合わせた切断面が跡形もなくなっていた。
左手や腕を軽く動かした男はそれに満足してゆっくりと体勢を直した。
誰もがその異常性に固唾を呑んでしまったその間に。
「あー痛かったぜ!さっきのが斬られる痛みか。」
ギロリとシュターレンの二人を睨んだ。
「これで心置きなくお前達をぶっ殺せるな!」
髪の色も元の黒に戻り、少し前と同じように鋼色のオーラを纏った状態になった。
大官寺亮典が不敵な笑みで拳に力を込めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。
まだ暑い日が続くと思いますので皆様も色々気を付けてお過ごしください。