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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
96/131

96話 激闘の騎士団

本日もよろしくお願いします。

 大官寺亮典達が帝城へ続く道を進むと一般区画の家屋が途切れ、先程よりも何倍も大きい広場が現れた。

 その奥は木材と石材で作られた大門が聳え立ち、左右に壁が延びている。

 その大門の前にはフレイメス帝国騎士団の騎士と従士、更には壁の上には魔法士団の魔法士達が構えていた。


 「俺達の為に盛大に迎えてくれたみたいだなぁ!」


 「あれだけ派手に暴れてれば。」


 興奮する大官寺亮典に対して小田切翼は呆れていた。

 そんな彼らが広場に足を踏み入れた時、集団を掻き分けてフォルクマーが前に出た。


 「皇帝のお膝元で暴れる不逞の輩!お前達はここまで幾つもの罪を重ねている、素直に投降すれば皇帝の慈悲があるやもしれん!これ以上の愚行をやめ、大人しくすることを勧める!」


 沈黙が訪れた。

 帝国側は息を呑んで相手の反応を見た。

 少なくとも騎士だけで百人は下らない。

 従士や魔法士を加えればもっといるのは明白。

 このような光景を目の当たりにすれば大官寺亮典のような暴漢も怖気付いて投降する、そう思われていた。

 しかし、誰かが笑った。


 「くっくっく!くぁーはっはっはっはー!」


 笑ったのは他でもない大官寺亮典。

 何が可笑しいのか戸惑う従士達。

 一頻(ひとしき)り笑った大官寺亮典は目の前に広がる騎士団と魔法士団に向けて言い放った。


 「バカか!?そんなんで投降すると思っているなんてよぉ!どう考えたって俺の方がお前らより強いし勝てるってーの!」


 その言葉に怒りを覚えるものが大半だった。

 それでも感情を抑えて我先にと動かないのは騎士団の統率力が為せるワザだろう。


 「それならば一つ聞かせてもらおうか!お前達の目的はなんだ!?どうしてこんなことをした!?」


 フォルクマーの怒声に大官寺亮典は堂々と答えた。


 「目的は皇帝の首を取って俺がこの国を手始めに支配することだ!俺には力がある!この国を支配できるだけのなぁ!ここまで兵士達を倒したのは襲い掛かって来たから返り討ちにしただけだ!そっちが仕掛けなければ痛い目に遭うこともなかったってーの!」


 平然と言い退けた大官寺亮典にフォルクマーは自身の剣を抜いて上に掲げた。


 「帝国に忠誠を誓う者達よ!皇帝に仇名す賊を排除せよ!掛かれー!」


 フォルクマーの号令に従士を中心に騎士団が襲い掛かってきた。

 壁の上には魔法士団以外にも弓兵がいるようで号令と同時に矢を降らせた。

 戦争でもないのに矢の雨が大官寺亮典達を襲った。


 「生温いな!」


 大官寺亮典は全身を鋼色のオーラで覆い、降り注ぐ矢を防いだ。

 小田切翼は範囲外まで下がり傍観していた。

 矢が終わった直後に剣や槍を持った従士達が雪崩れ込んだ。

 しかも大官寺亮典達の後方にあった建物の影からも大量に従士が押し寄せてきた。


 「たった二人に随分な歓迎だな!」


 「流石に取り囲まれたらきついんだけど……。」


 高揚している大官寺亮典に比べてある意味現実を見ている小田切翼。

 もしこの場に居たのが小田切翼だけであれば効果は絶大だったかもしれない。

 しかし、ここには大官寺亮典と言う暴君がいた。


 「押さえろー!」


 「フレイメス帝国の為に!」


 四方八方から取り押さえるために向かってきた従士達を尻目に大官寺亮典は傍にいる小田切翼に声を掛けた。


 「俺は正面をやるからお前は後ろをやっとけよ?」


 「はいはい。」


 二人が動こうとしたその時、二人の周辺の地面が突如盛り上がった。

 それだけではなく盛り上がった土は彼等よりも高く聳え立つ壁になった。

 壁の厚さは子供一人分くらいあり、並の人間なら壁を掘るのも苦労するだろう。

 大門の左右へ伸びている壁で待機していた魔法士達の何人かが既に魔法を使ったようで別の魔法士達が杖を構えた。


 「「「「「「「「「「ファイアピラー!」」」」」」」」」」


 土の壁の内側が赤く染まったと思えば一気に上空へ特大の火柱が噴き出た。

 三階建ての家の高さを越えた火柱が轟々と燃える中、魔法士達は喜びの表情を見せていた。

 しかし、騎士団達は違った。

 何故なら大門前から取り囲もうとした従士達が吹き飛ばされていたからだ。

 手前の光景に気づいた魔法士達がぎょっとして見ると従士達を吹き飛ばしたのは大官寺亮典だった。

 彼はいつの間にか従士達を吹き飛ばし、彼らと待機していた騎士達の間に居た。

 土の壁を見れば一人分の穴が開けられたのが分かった。

 火柱が上がる直前、大官寺亮典は『ガンシュート』で土の壁を破って脱出しながら従士達を蹴散らしたのだろう。

 大半の従士や魔法士達は何が起きたのか直ぐには分からなかったが事態は常に進んでいた。

 土の壁の向こう側からも悲鳴が聞こえた。


 「ぎゃあああああ!?」


 「う、うわあああああ!?」


 「奴を押さえろー!」


 土の壁の近くでは何人もの従士達が革鎧ごと斬られて出血しながら地面に倒れていた。

 他の従士達が悲鳴を上げたり鼓舞して叫びながら突撃する先には小田切翼がいた。

 彼もまた土の壁を破って外に出ていた。

 彼が出たであろう壁は縦に斬られた状態、壁だった部分は地面に倒れていた。

 刃物で斬ってから壁を蹴り倒したのだろう。

 しかし、手持ちには剣どころかナイフもない。

 それでも斬った理由は小田切翼の能力【スラッシャー】にあった。

 両手に緑と鉄色のオーラを纏った彼は一振りするだけでオーラを纏った衝撃波を飛ばし、触れた物を斬り裂いてしまう。

 従士達にとって幸いなのは先にいる誰かが受けてくれれば後ろまでは斬り裂かれないと言う点だろうか。

 それでもその特性を見破れる存在がいるかどうかは別である。

 恐慌状態に陥り始めた従士達は目の前の光景に恐怖を感じつつも任務を全うするため次々に押し寄せた。

 それでも小田切翼は平然とした顔で従士達を次々と斬り裂いた。

 そんな彼の状況を想像しつつ大官寺亮典は従士達を屠りつつフォルクマーに伝えた。


 「これ以上兵士を減らしたくなかったら俺に皇帝の座を寄越せ!そうしたらお前達を助けてやるよ!」


 蹂躙しながら上から目線でモノを言う大官寺亮典にこの場に居る騎士団全員が怒りを露わにした。


 「我らが帝国を侮辱するとは良い度胸だ!生きて帰られると思うな小僧!」


 フォルクマーの号令により騎士達が動き始めた。

 全身を鋼の鎧で覆い、剣と盾を構えた。


 「前進!我らフレイメス帝国を守る騎士団と魔法士団の力を思い知れ!」


 騎士達が左右へ大きく展開しながらゆっくりと前進を始めた。

 大官寺は直ぐに近づかずに拳を構えていたが大門の左右に延びる壁から魔法士団達が杖を構えた。


 「「「「「「「「「「ファイアボール!」」」」」」」」」」


 「「「「「「「「「「ファイアボール!」」」」」」」」」」


 「「「「「「「「「「ファイアボール!」」」」」」」」」」


 壁の上から大量の火の玉が降り注いだ。

 その全ては大官寺亮典に向かっており次々に襲い掛かった。


 「俺を歓迎する盛大な花火ってか!」


 怯むことなく喜ぶ大官寺亮典は鋼色のオーラを纏ったまま仁王立ちして叫んだ。


 「レジスター!」


 体を纏った鋼色のオーラが先程よりも分厚くなった。

 そして火の玉が次々に大官寺亮典へ襲い掛かった。

 火の玉の数だけ弾けては熱風と衝撃波を撒き散らした。

 先程の火柱もそうだが常人が火の中へ居続ければ死んでしまうのが必定。

 騎士達はゆっくり歩みつつもその光景を見ていた。


 「あいつ、流石に死んだだろう。」


 「あれで生き残るなんてあり得ないな!」


 小さく笑う騎士達も居たが中にはそうでないものも居た。


 「あいつって戦争の時も似たような状況に陥っていたよな?」


 「確かサンデル王国の勇者だったよな。」


 「あっ!?」


 大量に打ち込まれた火の玉も全て着弾して魔法士達が手を止めたことで一か所に集まっていた火が消え去った。

 本来であればそこには焼け焦げた死体があるかどうかも怪しいが騎士達が目撃したのはそんな状態ではなかった。


 「大したことないな!あぁ!?」


 無傷の大官寺亮典がいた。

 そして彼は体を解しながら睨んだ。


 「お前達の鎧と俺の能力、どっちが硬いだろうなぁ!?」


 直後、魔法士達は再び攻撃魔法を放った。


 「「「「「「「「「「ウォーターボール!」」」」」」」」」」


 「「「「「「「「「「ウォーターボール!」」」」」」」」」」


 「「「「「「「「「「ウォーターボール!」」」」」」」」」」


 次は水の球だった。

 大官寺亮典の周辺は熱された空間、そこへ冷えた水が一気に降り注いだ。

 目標に当たりながら弾けて衝撃を与えたはず。

 それでもその衝撃にビクともしない男だったが、何か異変を感じていた。


 「俺の能力は鉄じゃないんだ、熱した直後に冷や水浴びせても変化何てねーんだよ!ってクソ!蒸し暑いじゃねーか!小細工のつもりか!?」


 水の玉が弾けた後は水蒸気になっていた。

 熱された空間では湿度が高くなるのは道理。

 大官寺亮典だけが即席のサウナ室で過ごしている状態だった。

 本人は怒っているが見た目は少し汗を掻いている程度。


 「「「「「「「「「「クエイクヒンドレンス!」」」」」」」」」」


 大官寺亮典の足元やその周辺の土が持ち上がり、次々に足へ絡み始めた。

 中には数歩の距離から延びていく土もあったがどれもが大官寺亮典をその場に留めようとしていた。


 「こんな小細工は大したことねーぞ!」


 足元を見た大官寺亮典の姿に騎士達は進み続けていた。


 「賊を捕らえるぞ!」


 「おおおおおおお!」


 「手柄は俺の物だぁー!」


 前面に押し出される騎士と言う壁。

 それを目の当たりにしても大官寺亮典は恐れを知らず雄叫びを上げた。


 「おおおおおおおおおおおおおおお!ガンシュート!」


 膝を曲げて低姿勢になった直後、姿が消えた。

 大半の騎士は驚きを隠せなかったがある騎士だけは大官寺亮典の姿を捕らえていた。

 厳密に言えば目の前に当人が現れた、と言うのが正しいだろう。

 その騎士が何か行動を起こす前に大官寺亮典の拳が構えていた盾ごと騎士をぶっ飛ばした。


 「!?」


 事前に身体強化の魔法を掛けていた騎士達だったがそれにも関わらず大官寺亮典の力は上回っており、直線状に並んでいた騎士達は全て巻き込まれて後方の壁に激突していた。

 フォルクマーも目を見開いておりギョッとしていた。

 呆気にとられた騎士達を他所に大官寺亮典は間髪入れずに暴れ出した。


 「大した事ないなー!あぁん!?」


 近くにいた騎士達を殴る蹴る投げ飛ばす。

 巻き込まれた中にはボビィもおり、彼は果敢にも大官寺亮典に剣で斬ろうとしたが右腕を掴まれてそのまま大門の右側の壁の上まで投げ飛ばされてしまった。


 「クソがー!」


 しかもそこには魔法士として援護していたサムは逃げようとしても間に合わず巻き込まれていた。

 ボビィ以外にも魔法士に向かって騎士が投げ飛ばされたことで土の壁を維持していた魔法士達の集中力が切れて土の壁が瓦解した。

 大官寺亮典の暴力の結果、騎士達が取り押さえるために組んでいた陣もまた呆気なく崩れ去ってしまった。

 気づけば半分以上の騎士が薙ぎ倒されており、その中には当たり所が悪く二度と動かない騎士も多くいた。


 「こんな奴を捕まえられるのか?」


 誰かが口にした。

 その弱気な発言や表情が周囲へ伝播し始めた。

 騎士も従士も関係ない。

 人の形をした暴君が全てを殴り飛ばす様は恐怖以外の何物でもない。

 及び腰になった騎士達に対しても大官寺亮典は態度を変えず立っている者達を殴ろうと歩んだ。


 「負傷者達を引き揚げろ!全員門の前で防御陣形!直ぐに建て直せ!」


 後方で控えていたフォルクマーの号令に動ける騎士や従士達はすぐさま倒れた仲間を担いで退いた。


 「弱いなお前達は。」


 退く騎士達を見て呆れた大官寺亮典だったが目の前に一人の騎士が飛び出した。


 「!!」


 大官寺亮典は左腕で正面を庇った。

 そこにはロングソードが振られていた。

 金属同士の重い音が響き合った。

 そのロングソードで攻撃を仕掛けたのはフォルクマーだ。


 「いい歳したおっさんが一人で立ち向かってくるなんてボケたのか?」


 「お前よりは真面だがな!」


 騎士達よりも重く重厚な鎧を身に着けながらも機敏に動くフォルクマーに大官寺亮典は不敵に笑った。


 「お前を倒せば皇帝の首が取れそうだな!」


 「残念だがそう簡単に事は運ばないぞ、小僧!」


 フレイメス帝国騎士団団長とサンデル王国に召喚された異界の勇者がぶつかりあった瞬間だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




補足・蛇足


大官寺亮典の能力【メタルガン】Aランク

身体能力の向上及び頑丈になる。スキル発動中、関節などは変わらず動かせる。


スキル:メタルボディ/自身を鋼のような強度にする(肉体の柔軟性は失われない)。


スキル:レジスター/魔法攻撃の威力や影響(例えば火魔法で森を燃やした時の状態で発生する熱など)の軽減やデバフの影響を一時的に無効化する。


スキル:ガンシュート/一定時間、他のスキル(主にメタルボディ)を発動している間だけ身体能力を大幅に向上させる。また、直線的な移動は時速200キロメートル相当を出すが短距離である(摩擦によって体が燃えることはない)。

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