95話 ただ守るために
本日もよろしくお願いします。
冒険者マイルズは帝都の一般区画に住居を構えている。
彼には家族がおり妻、息子、娘の四人で暮らしている。
そんな彼は三階建ての家の二階で寝ていたが騒音が聞こえて目を覚ました。
過去には様々な事件があり、マイルズも関わったことがあっただけに不穏な空気を感じ取った。
「悪い予感がするな……。」
彼は急いで支度をして、途中で起きた妻に出かけることを伝えた。
「何か音がしたけど、それと関係があるの?」
「そうだな、大事になる前に止めたいところだ。三人は家の鍵を閉めて大人しく待っていてくれ!」
「気を付けてね。」
「お前達もな。」
互いに唇を合わせてからマイルズは家を飛び出した。
マイルズの住宅は勿論周辺の住宅も三階建てらしく、幅はあまり大きくない。
また家同士が密接していることも特徴である。
近隣の住民の何人かは木製の窓を開けて外を眺めており、訝しんでいた。
「危ないかも知れないから安全が確保されるまで家の中にいてくれ!」
「気を付けろよー!」
「いってらっしゃーい!」
長年住んでいるのか彼らは旧知の仲のようでマイルズの忠告もしっかり聞き入れてから見送っていた。
だからこそマイルズは急いで音源のある場所まで駆け抜けた。
その間にも通る場所で一般人を見かけたら注意を呼び掛けることを怠らなかった。
冒険者としての実力だけでなく街の人々からも信頼されている証左だろう、他の人達も素直に応えていた。
そしてマイルズが南北と東西の大通りが交わる広場に辿り着くと何人もの従士達が倒れていた。
中心に居たのはマイルズと似たような背丈である大官寺亮典と少し背の低い小田切翼の二人だ。
初めて見る彼らが手を下したことを察したマイルズは驚愕の表情になった。
「これはお前達がやったのか!?」
「だったらなんだよ?」
特にこれと言った感情を見せない大官寺亮典の言葉にマイルズは憤りを露わにした。
「お前達は何者だ!?どうしてこんなことをしたんだ!?」
「俺達は異界の勇者様だ、こいつらが襲ってきたから返り討ちにしたんだが?寧ろ俺達の方が被害者だろ?」
マイルズの質問に答えた大官寺亮典だが挑発する顔で言い切ったことでマイルズは真面な相手じゃないと悟った。
「異界の勇者……サンデル王国に召喚された存在か。どうしてお前達がここにいるんだ?何をしようとしているんだ?」
「あぁ?俺達が好きでここに居るわけじゃねーよ!拉致されて拷問までされたのによぉ!目的は……おっさんが勝てたら教えてやるよ!」
大官寺亮典の言葉を聞いて小田切翼は肩を竦めて後ろに下がった。
戦う気満々の男に気を遣ったためだろう。
「出来れば穏便に済ませたかったが……ここまで仕出かしているならどうしようもないだろうな。」
「理解して貰えて助かるぜ!こいつらと服装が違うって事はもしかして冒険者か?」
「だったらどうした?」
「この国の冒険者の実力を知りたくてな!丁度良かったぜ!」
鋼色のオーラを纏った大官寺亮典は走って距離を詰めた。
速くはないその動きにマイルズは剣を構えた。
「行くぜ!」
大官寺亮典の右拳がマイルズの顔面を狙うが冷静に頭を動かしてそれを躱した。
直後に左膝蹴りも迫ってきたが後ろへ飛んで避けた。
マイルスは手直にあった従士の剣を拾って大官寺亮典に投げ飛ばした。
「そんな小手先が通じるかって―の!」
彼は無造作に飛んで来た剣を明後日の方向へ払い退けた。
何かが分かったマイルズはそのまま目の前の敵に斬りかかった。
「単調だな!」
マイルズの斬り込みに合わせて大官寺亮典は右拳を突き出した。
「くっ!」
従来であればそのまま斬れないとしても指を深く斬られた状態になるはず。
しかし、突き出された拳は傷一つなく剣を受け止めていた。
「そんな剣で斬れるかよ!」
一歩前に出て腹を狙った左拳。
マイルズは力を込めた剣を引っ込めながら柄頭で左拳に当てて勢いと軌道をずらした。
そのまま正面左へ抜けながら大官寺亮典の腹に一撃を入れた!
金属同士のぶつかり合った音が響き合う。
距離を取ったマイルズは直ぐに後ろを向いて構え直した。
「今のも斬ったはずなのに全然斬れていない。それが異界の勇者の能力か……。」
表面上では冷静なマイルズ。
「そうさ!俺は体全部を硬く出来るのさ!つまり、お前らが幾ら武器で攻撃しようとも俺の体には傷一つ入れられないってわけだ!」
胸を張って自慢をする大官寺亮典にマイルズは冷や汗を流した。
「確かにお前を倒すのは難しそうだな。」
「もう降参するのか?この国の冒険者は大したことがないんだなぁ!?」
「確かに俺は大した冒険者じゃないだろうな。だけどな、この国の冒険者はお前が思っているほど弱くはない!」
マイルズは呼吸を整えて再び大官寺亮典に斬りかかった。
「馬鹿の一つ覚えだな!」
大官寺亮典も迎え撃つために拳を構え直した。
ベテラン冒険者と異界の勇者の戦いが再び動き出した……。
一方、マイルズが大官寺亮典達と遭遇する少し前。
夜明けの貧困街で過ごしている中年男性が廃材で作ったボロ屋から起き出した時の事。
彼に限らず貧困街に住む人々の半数は国営の農業の手伝いをして生計を立てている。
とは言え、一日の稼ぎは村や町の農作業で貰える賃金よりは多いと言うだけでその日の食費で全て消えてしまう程度。
それでも食べて寝るだけの生活であれば貧困街の住民にとっては十分な暮らしでもあった。
若い男衆の場合は貧困街や近い場所で恫喝して人から奪う手段を取ったり、女性であれば住み込みで働かせてもらえる店や夜だけ営業する店で雇って貰う人もいる。
この国も一応はある神の信仰を持っているが彼らの国内における地位や規模は小さい方で恵まれない人々に対して何かをするにしてもあまり活発ではない。
そのため、貧困街の人々は皇帝を敬うことはあっても教えを説かれることはない。
そう言った区域で男性はその日暮らしの為に農業地帯へ足を運んでいた。
他にも同じような人々がいて、進むにつれて人が増えていた。
ここまではいつもと変わらない風景だった。
朝日が当たらない路地の影。
そこから唸り声が聞こえた。
中年男性は気になって足を止めて路地を覗いた。
陰で分かりづらいが人がいた。
衣服を着ているから間違いないだろう。
但し、ボロボロの衣服だけならまだしも腕や足は緑の葉っぱで覆われている。
異様な格好をする相手に中年男性はおかしいと思いながらも声を掛けた。
「お前も働きに行くんだろう?そんな暑そうな格好をしないで身軽になって行こうぜ。」
その言葉を聞いた相手は直後、路地の陰から飛び出した。
「うわあああ!?」
飛び出した存在は日の当たる中年男性に飛び掛かった!
それを見ていた周囲の人々は恐れ戦く。
「なんだあれ!?」
「モンスターか!?」
「帝都にモンスターがいるものか!?」
襲っている存在は……ニクテプロキデ。
葉っぱのような体毛が特徴のタヌキに近いモンスター。
以前、ある村の近くの森でマティアスパーティーが遭遇していた。
しかし、体の大きさは人間と同じ。
従来のニクテプロキデよりも大きい。
そして貧困街の住民はニクテプロキデを知らない。
知らないが自分達に戦う力がない以上は選択肢は一つ。
「うわああああああ!?」
周囲にいた住民は一目散に逃げた。
我先にと走り出すことで誰かが転んだ。
そんな光景に構うことなく現れたニクテプロキデは声を掛けた中年男性にのしかかり、体を貪りつくした……。
逃げ出した住民はそんな無残な光景を見ることなく難を逃れた。
ように思われたが、別の男性の左側から突如押し倒された。
「ぶはっ!?」
誰がぶつかって来たのか、ニクテプロキデだった。
「や、やめ!?」
喉笛を咬み千切られた。
貧困街を中心に住民が次々に襲われていた。
しかもニクテプロキデは十匹二十匹に留まらない。
貧困街を出て一般区画の家屋が並んだ住宅街や様々なお店が並ぶ通りにも現れた。
騒音で起きた住民達は寝ぼけ眼で外を見れば動物が散策していると勘違い。
帝都内にも野生の犬や猫はいるため普通ならそう思うだろう。
しかし、全身葉っぱで覆われた動物などいるだろうか?
そんな小さな疑問を持ったとき、外に出ていた別の誰かが襲われる光景を目撃してしまった。
その人も騒音で目を覚まして外の様子を見に家を出たのだろう。
結果、ニクテプロキデに襲われた。
その場で食い荒らすモンスターを目撃する人は増え始めた。
襲われた人、目撃した人の叫びによって騎士団区画へ戻ろうとしていた従士達が駆けつけて驚愕した。
「何でモンスターが!?」
「この特徴って……。」
そう思いながらも剣や槍を手に取り応戦。
距離を詰めて槍で叩けば怯み、その隙に剣で斬る。
しかし、従士の力量だと表面の葉っぱによって上手く肉を斬ることが出来ない。
「クソッたれ!」
「兎に角手を緩めるな!」
お互いに鼓舞しながら従士達は戦い続けた……。
彼ら以外にも一般区画を中心にニクテプロキデの出現が確認されていた。
気づけば巡回していた従士達の報告を聞いた騎士団本部は早急に従士達を中心に一般区画に出没したニクテプロキデの討伐に当たらせた。
帝都に広がる混乱と悲痛の叫び。
それらはニクテプロキデの影響…だけではなく捕虜にしていた異界の勇者の脱走と暴走も含まれていた。
騎士団本部の執務室。
そこには団長のフォルクマーと副団長のザシャがいた。
「もう少し寝ていたかったのによぉ。」
「国を守る仕事です。」
寝起きのフォルクマーにザシャが諫めた。
執務室に駆け込む伝令役の従士が飛び込んだ。
相当急いだのか息も切れ切れだ。
「改めて報告します!本日夜明け頃、貧困街と一般区画にてモンスターの出没が確認されました。モンスターはニクテプロキデです、数は不明。目撃数は五十を超えています。また、どの個体も人間の服を着ているようです。現地では巡回任務中の従士と待機していた従士達で当たっています。」
これを聞いた二人は唸った。
「以前冒険者ギルド経由で報告にあったモンスターだよな?」
「そうですね。まさか大群で押し寄せるとは思いませんでしたが。」
「それと人の服を着ている?モンスターがわざわざ着るのか?」
「二足歩行のモンスターなら着ると思いますよ、実際に着ているモンスターはいますし。」
「そう言えばそうだな。そいつらは二足歩行なのか?」
フォルクマーに問い質された伝令役の従士は姿勢を直して答えた。
「いえ、どれも四足歩行だと!」
「ある意味で異常じゃないか……。」
「そのようですね。従士達は順次編成していますが、ニクテプロキデの討伐に向かわせますか?」
「そうだな、直ぐにでも被害を食い止めないとな。」
フォルクマーが決定を伝えようとした時、別の伝令役の従士が割り込んできた。
「失礼します!」
「今度はなんだ?」
「本日未明に脱走した捕虜と思われる二名が南北と東西の大通りが交わる大広場で目撃されました!目撃時には冒険者マイルズが交戦していました!」
それを聞いたフォルクマーが頭を抱えた。
異界の勇者の脱獄自体は少し前に二人の耳へ入っていたが所在は分かっていなかったらしい。
「騎士団の監獄で勤めていた従士達は全員死亡、地下三階の牢屋からは三人の異界の勇者が脱獄、逃亡。牢屋の中で亡くなっていた従士二人が関係していると思いますが現在は調査もまだ進めておりません。依然、脱獄した勇者二名は街で暴れていると……。」
ザシャの言葉にフォルクマーが机を叩いた。
「騎士達は帝城へ続く四つの通路を防衛をしているな!騎士達の一部を呼び戻せ!一部はここで待機させ、残りは異界の勇者へ向かわせる!編成した従士達の小隊の半数をモンスター討伐に向かわせろ!まだ編成できていない従士達も防衛と異界の勇者への対応に回せ!魔法士団にも至急連絡!」
「「は、はい!」」
二人の伝令役の従士達は急いでその場を後にした。
「クソ!なんだって言うんだ!」
「牢屋で死んでいる従士だけなら騎士団内部で裏切り行為があったと見るべきですが……。」
「目的が分からないな。」
「強いて言えば打倒皇帝でしょうか。貴族の社会では様々な思惑がありますからね。現皇帝に対しての反対派、或いは改革派と言いましょうか。彼らの改革の可能性も否定できません。」
「確かにこの国の貴族は一枚岩じゃないからな。」
「異界の勇者であれば一騎当千も出来る力の持ち主。皇帝を守る騎士達もなぎ倒して貰えると考えたのでしょうかね?」
「或いは異界の勇者を囮にしてクーデターもあり得るかもな。」
「クーデターならもっと穏便にするかと。」
「そこら辺は平民の俺には分からな話だ。」
「ボクもですよ。ただ、これが帝国内部の裏切りではない場合。フレイメス帝国の混乱を一番喜ぶ存在の仕業だとしたら……。」
「他国か、しかも異界の勇者が捕虜にされているのを知っていると言えば。」
「サンデル王国。」
「奴らが仕掛けたってことか?」
「その可能性もあります。異界の勇者を脱獄させて暴れさせるだけでは戦力を集中させますからね。もっと広域に戦力を分散させられればと考えられたのが。」
「モンスターによる攪乱。」
「ニクテプロキデの情報から察するにもしかしたら暴れているモンスターは全部元帝国民、しかも貧困街の住民の可能性もありますね。」
「嘘だろ!?」
フォルクマーが青ざめた。
言った本人であるザシャも目線を下げた。
「嘘だといいですけど。」
「胸糞悪い!」
「報告を聞く限り完全なモンスターなので覚悟を決めましょう。」
「そうだな、これ以上の被害は食い止めないとな。」
「あとはあの人達が来てくれると良いのですが。」
「俺達騎士団とは違って独立しているからな、要請もしたしこんな状況で放置するほどの奴らじゃないと思いたいが。」
「そもそも人数も欠けたままですし、この場合は皇帝陛下を守護することが最優先だと思われますので……。」
「編成後は俺も出る、あとは頼むぞ!」
「好きですねぇ。」
「後ろで頭を使うのが苦手なんだ。」
「ボクも得意じゃないですけど、任されました。」
「ちょっと体を動かすからな!」
そう言ってフォルクマーは大きな鎧を身に纏ったまま本部の外に出た。
ザシャはやれやれと言いながら見送った。
フォルクマーが本部の傍で木剣を振り始めたことで見ていた従士達がワッ!と声を上げた。
その歓声を聞いてザシャは小さく微笑んだ。
一般区画の南北と東西の大通りが交わる大広場。
マイルズの体には何か所も痣が出来ていた。
かなり疲弊もしているようで体全体で息をしていた。
そんな様子を見て大官寺亮典は高らかに笑った。
「威勢の良い事を言っておいてそのザマか!大した事ないなぁ!」
ただ、大官寺亮典の体にも何か所か切傷があった。
どれも浅く当人もそこまで気にしていないようだ。
「そうかもしれない、だけどお前の体には傷跡を残すことが出来たぞ。」
「クソがっ!こんなのは斬られた内に入るか!」
「言うねぇ。」
「そろそろおっさんの相手も飽きてきたところだ、止めを刺すぜ!」
大官寺亮典はその大柄な体格を地面に這わせそうな勢いで倒した。
クラウチングスタートだろうか。
何かを仕出かすと感じたマイルズは剣を構えて出方を窺った。
「ガンシュート!」
大声を上げたと同時に大官寺亮典は走った。
今までよりもずっと速く。
最初の一歩目から既に人の動きではなかった。
元の世界で言えば既に走行している新幹線に近い速度。
左肩を突き出してタックルを繰り出した大官寺亮典のスピードにマイルズは驚き、直ぐに動いた。
「っ!?」
予想以上の速さと勢いに圧倒されていた。
背後を見ると角の建物にぶつかって倒壊させていた。
いや、吹き飛ばしていた。
しかも一直線に何件も。
奥の建物があった場所には大官寺亮典ただ一人が残されていた。
「おっさん!避けるんじゃねーぞ!そんなに俺が怖いのか!?」
声を張り上げた大官寺亮典の挑発にマイルズは脅威に感じた。
(壊された建物に人が残っていたら彼らは生きているのか?避けなければ良かったか?いや、そうじゃない、これ以上の被害を食い止めないといけない!あの攻撃は一直線にしか動けないと見た。それならタイミングを見れば倒せるんじゃないか?)
大官寺亮典の能力【メタルガン】は鋼色のオーラを纏うことで金属の硬度を纏うことが出来る。
それでいて普段通りに体を動かせるため相手の攻撃を気にせず戦い、不意打ちすらも効かない。
しかし、その絶対防御は過去に何度も崩されていた。
それこそ同じ異界の勇者の一人である英雄人も前例の一つ。
そして、今回は異界の勇者ですらないこの世界で生まれ育った普通の冒険者であるマイルズも【メタルガン】を使っている状態に傷をつけた。
大官寺亮典は内心腸が煮えくり返っているだろう、現に彼の顔はかなり険しく怒りで顔が歪んでいた。
マイルズは大官寺亮典の心情を何となく読み取り、再び剣を構えた。
「来い!お前をここで止めてやる!」
「俺を止められる奴なんざいねーんだよ!」
大官寺亮典が再びクラウチングスタートをするために姿勢を低くした。
マイルズは呼吸を整え、体や剣に魔力を巡らせた。
以前ポーラを見て教えて貰った技法は仲間の協力を得て意識的に出来るようになっていた。
ここまで大官寺亮典に傷をつけられたのもこの技法によるもの。
だからこそマイルズは鋼の様に硬い大官寺亮典の能力にも太刀打ちできると確信できた。
これ以上の被害を防ぐためにマイルズは渾身の一撃を叩きこもうとした。
大官寺亮典が動こうとした直前。
「マイルズさん頑張れ!」
「絶対に勝ってくれよ!」
「私達信じているから!」
マイルズの後方にある建物の陰から声援を送る住民達。
気づいたマイルズは慌てて後ろを振り返り叫んだ。
「今すぐそこから離れてくれ!」
きょとんとしながらも動く住民達だが動きが遅い。
寧ろう彼らが動こうとしたタイミング。
「余所見の暇はないぞ!ガンシュート!」
大官寺亮典が好機と見たのか走り出した。
並のモンスターでもこの速度を出せる存在はいないだろう、直ぐにマイルズへ肉薄した。
(斬り払っても余波が発生するかもしれない。せめて大通りへ誘き出すべきだった!)
マイルズは切先を正面に向けて腰を落とした。
直後。
左肩を向けていた大官寺亮典は体を抱えていた左腕で自身に向けられた剣を正面左へ振り払った。
そこから右肩を向けてそのまま一歩踏み込んだ。
大官寺亮典の走った勢いがマイルズを襲った。
「!!」
踏ん張ろうとしていたかもしれないがマイルズだけがその場から吹っ飛ばされた!
角の建物を始め、奥に立っている数々の建物を次々に貫通した。
留まる勢いを知らない。
どの建物も倒壊こそしなかったが気づけば一般区画を通り越して騎士団区画の壁をも壊した。
そして勢いがなくなり、ギリギリ騎士団区画の外縁部で転がり止まるのであった。
剣を握ったまま、マイルズは動かなかった。
建物が阻み、距離もあるため吹き飛ばした大官寺亮典にはマイルズがどうなったのか分からないだろう。
「何かするのかと思ったが何もなかったな。やっぱりこの国の冒険者も大したことがねーんだな!」
高笑いする大官寺亮典に近づく小田切翼。
彼の手には倒された従士達の持ち物を漁って手にした傷薬とポーションがあった。
「お疲れ様、一応怪我の手当てした方がいいでしょ?」
「なんであんなおっさんが俺に攻撃を通せたんだぁ?」
「さぁ?強いて言えば体中にオーラを纏っていたからじゃないの、多分?」
「小細工しないと勝てないって事だな!」
「小細工って……。」
小田切翼から奪う様に取った大官寺亮典は大雑把に傷薬を塗ってポーションを呷った。
「そう言えば帝城って何処だ?」
「えーと……あっ、あれじゃないの?」
既に朝日が昇り始めていたため、大通りの四方を見まわたせた。
小田切翼が指した方向に遠くからでも大きく聳え立つ城とそれを守る城壁が見えた。
「逆走していたのかよ、手間取らせやがって!」
憤慨しながら大股で進む大官寺亮典に呆れながら小田切翼は後ろを歩いた……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




