94話 人災
本日もよろしくお願いします。
昨日は平本慎吾を見放して裏切った武田康太に引導を渡した。
本当は殺してやりたかったけど、出来るだけ苦しんで欲しかったから帝国の騎士団に引き渡した。
欲を言えば残りの二人もわたしの手で苦しめたかったけどあれの言葉を信じるならこの世にいないらしい。
その真偽はサンデル王国へ行けば分かるはず。
宿に泊まって朝方に起きて訓練しようとした時のこと。
離れた場所で音が聞こえた。
この場所ではうるさいと思わないし、人によっては気づかないかもしれない程度。
だけど気になって何時でも戦えるように準備をして外へ出た。
まだ街には人は出ていない、静かだけど空は少しずつ明るくなり始めていた。
音の発信源は大通りかな。
ただ、大通りと言っても一般区画には南北と東西の二本があるけど先に東西の大通りへ向かった。
最初は全然見かけなかった人も進むにつれて少しずつ増えて行った。
何時も通りに仕事へ出かけるために起きたと言うよりは異変を感じて起きたと言う感じ。
走っているから詳しい会話は分からなかったけど何か良からぬことが起こっているのは確かだった。
そして走る方向からある飲食店を連想してしまった。
と言うのも進行方向の先にはカイがお世話になっている店があるから。
悪いことに巻き込まれていないと願いつつ、途中から入り組んだ道を進んで東西の大通りへ出た。
大通りを見渡すと朝方まで巡回していた従士達が何人も倒れていた。
近くの住人達が手当てをしているけど、それよりもカイが気になった。
周辺の会話も気にせずそのまま店へ向かうと、店はなかった。
「は?」
飲食店の屋根は何処へ飛ばされており、貯蔵庫の中は食い荒らされた跡があった。
そしてその奥には住み込み従業員の為に用意されていた建屋が……崩壊していた。
この場所以外にも一直線に進んで壊されたような跡が続いていた。
しかも周辺の家も千切って投げた物によって半壊している始末。
飲食店の瓦礫を飛び越えたけどここにも従士達が倒れていた。
ただ、彼らを介抱する余裕がない。
「誰かー!生きている人は居ませんかー!?」
声をあげるけど瓦礫の中からは反応がない。
実は皆は避難している?
それならまだいい。
だけど……。
目の前の瓦礫に人がいないと願いながら必死に瓦礫を退かし始めた。
この体じゃ対して動かせないけどそれでも万が一を考えた。
軽い物を退かした時、ふと近くに人の手が見えた。
想像はしたくなかった。
犠牲者はいた。
しかも見えるのは子供の手。
悪い想像がどんどん膨らんでいく。
その手が誰であるかを見るためにそっちの瓦礫を退かし始めた。
崩れた柱とかがあまり細かくなっていないから言うほど退かせなかった。
それでも腕を伸ばしていたのは誰なのか見えた。
よく知る少年の顔だった。
「カイ?」
木材が頭にぶつかった状態で頭から血を出して顔を青くしていた。
血だまりだってそれなりになっていた。
「カイ、返事をして!カイ!」
呼びかけても反応はしない。
顔に手を伸ばして呼吸を確かめたけど息をしていない。
それから伸ばした手首に指を当てた。
これはこの世界へ来る前の記憶と言う名の映像にあった方法だと思う。
それで確かめても何も感じなかった。
ここから出さないと!
そう思って彼にのしかかっている木材を退かそうとしてもやっぱり動かせない。
「手伝おうか?」
後ろから男性の声が聞こえた。
振り向くと恰好から冒険者だと分かった。
そう言えば何度か見かけたことがあった、それに昨日もこの店で見かけた。
猫人の冒険者と一緒にいることが多い、男性冒険者。
手を貸してくれるなら誰でも良い!
「お願いします!」
わたしと男性冒険者で軽い瓦礫を退かしながら何とか空間を作り出してカイを引きずり出した。
心臓の鼓動を確かめたけどやはり動いていない。
治癒魔法を使えないわたしでは体の傷を治せないけど既にそう言う話ではなかった。
カイを始め瓦礫の下敷きになっている人達は……。
「手伝って頂きありがとうございます……。」
「いや、気にしないでくれ。君は……。」
「ポーラ、冒険者です。」
「そうか、同業者か。俺はジョエルだ。俺はこの店を良く利用していてな、まさかこんなことになるなんてな……。」
彼は日課で街中を走っていたら騒音を聞いてここまで来たらしい。
冒険者としての装備で走っているのは何時でも緊急時に対応できるようにしているからだと言った。
両手斧を武器に戦うだけに体格もわたしよりも大分大きくそのお陰で瓦礫を退かすことが出来た。
そんなことよりも、カイや街をこんな風にした原因は何なのか?
しかも従士達の叫びも至る所で聞こえ始めてきた。
「これはやばいな。」
ジョエルも何かを感じ取ったらしい。
街中で従士達が広範囲に渡って対処していることは分かった。
それがこの惨劇を生んだ存在なのかは分からないけど。
ただ、悲しかった。
復讐に燃えていた少年を死なせないために戦いから遠ざけたのに。
彼の心は少しずつ立ち直り始めていたはずなのに。
許さない、こんな事をした存在がいるなら許すわけにはいかない。
それを追うと思ったけど破壊の痕は大通りを境に無くなっていた。
つまり大通りを歩いたことになる。
しかも従士達の倒れた姿が南北に続く大通りへ続いていることから恐らく帝都を出る可能性は低い、と思えた。
手伝ってくれたジョエルを見れば彼は困惑した顔をしていた。
「もしかしたら街でモンスターが暴れているかもしれないな。」
「モンスター、ですか?」
「あぁ、ここまで異常な破壊や従士達の悲鳴を聞けば恐らくそうだろう。」
「そうですか。」
「俺は命あっての物種だと思うがポーラはどうするんだ?」
冒険者は荒くれ者が多いと聞く一方で常に自分の命を第一に考える人もいる。
それは善性悪性に関わらず、自分の実力を天秤に掛けて行動する稼業だから当然と言えば当然。
そもそも死ぬために危険な依頼を受けている訳ではないから。
ジョエルの話は冒険者としてどんな風に行動をするのか?
先の様に思い入れのある店だったことに加えて周囲は安全だったから手伝ってはくれたけど、見えない場所では何が起きているか分からず場合によっては自分達の手に負える状況じゃない可能性もある。
凶悪なモンスターではないにしても命を脅かされると判断すれば、一目散にこの街から逃げるのも冒険者の性かもしれない。
だけど、わたしにとって冒険者は仕事でしかないしこの状況下において冒険者として行動する必要がない。
「わたしは、店や街をこんな風にした存在を突き止めます。場合によっては……。」
わたしの言葉を聞いて迷っていた彼を置いてその場を後にした。
時間が惜しい。
大通りに戻れば従士達の倒れた姿が南北の通りに向かって続いている。
これを辿れば!
わたしの中で渦巻く怒りと悲しみを大きくしながら走り出した……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




