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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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91話 忘れ続けた友 ―武田康太―

本日もよろしくお願いします。

 俺は武田康太、異世界のサンデル王国に召喚された高校生。

 いや、召喚されてから既に八年くらいは経っているから高校生ではないか。

 魔王や邪神との戦いを経て、現在は隣国且つ敵対しているフレイメス帝国に潜伏中。

 他にもサンデル王国で結成された工作部隊の精鋭四人が一緒にいる。

 敵国へ潜入したのは戦争で攫われた異界の勇者達の救出。

 フレイメス帝国は捕虜と言っているが俺達からすれば人質に感じた。

 帝国の要求を呑みたくないサンデル王国は極秘裏に俺達を使って攫われた勇者達を救出、不利な交渉をなくそうと画策した。

 そのために俺達は強力なモンスターが大量に生息している山脈を命懸けで突破して不法入国を果たした。

 その後も検問を潜るのに一苦労したし、帝都に入ってからも最低限の生活をするために冒険者稼業もしないといけないから滅茶苦茶大変だった。

 色々な苦労があったけど、それもおさらば。

 帝都郊外や西側でモンスターを誘引する薬剤を撒いたし、帝都内で残りの段取りを整えればサンデル王国へ戻るだけ。

 とは言え、またあの山脈を超えるのは嫌だなぁ。

 いっそ、ここで生活する方が良い気がする。

 いや、他の密偵に殺されるかもしれない。

 そう言えば結局帝城は警備が厳しくて入り込めなかったんだよなぁ。

 それに魔法士団区画にも入り込めなかったし蘇生魔法を知ることは終ぞ出来なかった。

 強硬手段も考えたけど流石に捕まるわけにはいかないし。

 別の機会を狙うしかないな。

 気を取り直して貧困街で抑えてある建物に仕掛けを施して、賑やかな街へ戻った。

 正直サンデル王国の王都よりも一般家屋がしっかりしている気がした。

 それにインフラも何だかんだで先を行っている。

 まぁ、一部は何処も前時代的に感じるけど。

 夕方は適当にぶらつき、完全に日が沈んだ頃に何処かのお店へ行こうとした。


 「コウタ、久しぶりですね。」


 俺を呼ぶ女の子の声が聞こえた。

 そこにはローブを頭から被ったポーラがいた。


 「ポーラちゃん!久しぶり!」


 俺は駆け寄る彼女に返事をした。


 「暫く見ないと思ったから心配しました。」


 「そっかぁ、心配してくれたんだぁ!」


 彼女が心配してくれたことに俺は嬉しかった。

 そうだ、俺は彼女の事が気になる。

 何度か一緒にデートみたいなことをしたよな。

 もしかしたら脈ありだろ!

 付き合えるなら彼女をそのままサンデル王国へ連れて行きたい。

 事前に許可は貰っているから大丈夫だ。

 帰ったらキスしたり手を繋いだり大人の階段を一歩駆け上がるんだろうなぁ!

 いやぁ、女の子とか縁がなかったから待ち遠しいよ!

 生き返らせたらあいつらにも自慢できるしウヘヘェ~!


 「そうだ!俺、今から夕ご飯食べようと思うんだけど一緒に食べない?」


 「いいですね、わたしも丁度お腹が空いていたので。」


 「それなら行こうか!」


 行こうか、とは言ったけどおしゃれな店に連れて行けるほど俺はお金を持っている訳じゃなかった。

 場合によっては全額奢ることも考えたがポーラちゃんのお勧めの店に行く事になった。

 その店は大衆食堂で建物は大きいけど特徴らしい特徴はなかった。

 ウェイトレスの女性は綺麗な子が何人かいて目移りした。

 勿論おばちゃんも働いているけど眼中にない。

 あとはケモミミっ娘もいて興奮した。

 サンデル王国の王都じゃ獣人は見かけなかったから当時はファンタジー感が物足りなかった。

 一方でフレイメス帝国はこうして帝都内のお店で獣人が働いている姿を見かけるし帝国が彼らに対して寛容であるのはよくわかった。


 「ここはわたしがお勧めする飲食店です。」


 ポーラちゃんがお勧めする店。

 そっかぁ、俺は彼女に認められているのかぁ。

 料理はポーラちゃんにお任せした。

 鹿肉のソテー、白パン、スープ、サラダ、フルーツエールだった。

 雑談を交えて待っていると混んでいるとは言えそんなに待たずに二人分の料理が配膳された。

 テーブルに並べられた料理を見たが正直言えば定番メニューだ。

 まぁ、この店で高級料理を期待するなって話だな。

 それにポーラちゃんが勧めてくれたからありがたく食べないと。


 「最近はどんな仕事を受けていたのですか?」


 「そうだねぇ。基本的には村や町の付近に出るモンスターの討伐かな。あとは薬草採取とか。」


 「一人でモンスターの討伐何てコウタは凄いですね。わたしは一人で討伐するのは大変なので極力受けないようにしています。」


 「そうなんだ、前に戦ったウルサクと戦っていたから凄いって思ったんだけど。」


 「あれはコウタが居たからです。あそこにいる冒険者達に比べたらまだまだですけどね。」


 ポーラちゃんに言われて後方にいた冒険者二人組。

 一人は俺よりも大柄な男性、もう一人は猫人の女性だった。

 サッ

 何か音が聞こえた。

 小さいけど何だろうか?

 姿勢を正したけど正面のポーラちゃんに変化はない。

 ちょっとした違和感があるけどあれは粉を水に溶かすときの音に思えた。

 まさかポーラちゃんが俺のフルーツエールに何か入れた?

 いや、彼女はそんなことをするはずがない。

 もしかしたら俺達の目を盗んで第三者が入れたかもしれない。

 小さな疑念を感じると手元の飲み物が飲みづらい。

 頼んでくれた手前、飲まないと怪しまれる。

 だけど。


 「ポーラちゃんの方にあるそっちのフルーツエールの方を飲んでみたいなぁ!貰っていいかな?代わりに俺のをあげるよ!」


 この提案を断ればポーラちゃんが俺の方に何か仕込んだ可能性がある。

 その場合は適当に理由を付けて飲まなければいい。

 そうしよう!


 「ええ、どちらも同じですけどこれが良いと言うのであれば差し上げますよ。」


 彼女は特に躊躇うこともなければ怪しい挙動もなく自分のフルーツエールを俺にくれた。


 「あ、ありがとう。」


 まさかあっさりくれると思わなかった。

 俺は自分のフルーツエールを代わりに差し出した。

 少なくともポーラちゃんが仕組んだ可能性はない。

 俺の飲み物に何か入れたなら俺の飲み物を貰うはずがない。

 彼女は白。

 いや、それ以前に俺の勘違いだったのかもしれない。

 喧騒のあるこの店で何かを聞き間違えた、きっとそうだな。


 「じゃあ、俺達の冒険に!」


 「乾杯。」


 俺の音頭に彼女が付き合ってくれた。

 同じタイミングで飲む。

 初めて飲んだフルーツエール。

 この世界に来てエールを飲むことはあまりないが仕事の一杯が美味しいと言うのはよくわかった。

 味は名前の通りフルーティで幾つもの果物を使っているように感じた。

 匂いも爽やかでジュースを飲んでいるようにも思えた。

 強いて言えば後から苦みを感じたからこれが仕事をした人間が飲む味なんだな。

 鹿肉のソテーは他の店に比べたらスパイスが効いている!

 これもあとから苦みがほんのり感じるけどこんなもんだろう。

 それに噛み応えもあるしソースも美味しい。

 予想よりは美味しいかった。

 夢中になって食べたのは久々だ。

 彼女はゆっくり食べていたから序にフルーツエールをもう一杯と腸詰肉を頼んだ。

 腸詰肉は俺達の元の世界のソーセージと殆ど同じだった。

 ただ、値段はちょっと高いから気軽に食べられない。

 今回は前祝として食べよう。

 腸詰肉はハーブが聞いていて旨い!


 「そうだ、ポーラちゃん。」


 「何ですか?」


 体が温かくなりいつもより気分が高揚している。


 「俺、ポーラちゃんに出会えて良かったよ。」


 「そうですか。」


 「出来たら今後も一緒に居たいんだけど、どうかな?」


 「一緒、とは?」


 「それは……あれだよ、恋人!」


 「恋人……。」


 「どうかな?」


 「直ぐには答えは出せませんね、待ってもらうことは出来ますか?」


 「うーん、出来れば直ぐにも返事を聞かせて欲しいんだけどなぁ?」


 「急ぐ理由があるのですか?」


 「実は明日の朝、郷に帰ることになってね。」


 「急なんですね。」


 「そうなんだよ!毎日のように仕事していて君に伝えるのが遅れちゃったよぉ。」


 「仕方がないですね、コウタも事情がありますし。」


 「うぅ!君みたいな可愛くて俺の事を分かってくれる人中々いないからさぁ!どうかなぁ?俺の住んでいる場所へ行けば不自由な暮らしはさせないからさぁ!」


 そうだぁ、俺を見てくれる女子が目の前にいるんだ!

 あぁ、どうせならぁもっと早くに告白して手を繋いだりキスをしたりすれば良かったぁ!

 サンデル王国前に早速連れ込むのもありか!?


 「それなら夜道を歩きながら答えを出しましょうか。」


 「ぜったぁ~いに一緒に来てよぉ?おれはぁきみのことがぁすきぃなんだからぁさぁ~!」


 なんか眠くなってきた。

 何とか気合を振り絞って意識を保っていればポーラちゃんは食べ終わった。


 「それではお店を出ましょうか。」


 俺はいつもより重く感じた体を持ち上げて彼女を一緒に店を出た。

 店の外に出れば喧騒が漏れ来るも通りは人が少ないから大分温度差を感じた。


 「少し歩きましょうか。」


 彼女に連れられて暫く散歩に付き合った。

 こんな風に女の子と歩く事なんてなかったな。

 まるでデートだな!

 つまり俺の彼女になってくれる可能性があるってことだな!

 目的地がないからなのか大通りを歩けば脇道を歩くこともあった。

 街中の狭い路地じゃ空の景色は分からないけどそう言う場所でもロマンチックに感じる。

 高鳴る心臓に合わせて素直な気持ちを叫びたいな。

 気づけば街を抜けて農業地帯に近い、小高い丘に来ていた。

 周りに人や建物がない。

 この場所なら空は星が見えるし雲が少しある。

 これは明日も晴れだな。

 ちょっとどうでもいいことを思った。


 「この体になって恨むことばかりだったけどこんなバカで頭の中がピンクで下卑た奴を釣れるとは思わなかった。」


 何の話だ?


 「コウタ、話を聞いてくれますか?」


 「話ぃ?良いよ聞くきく!」


 さっきのはよく分からないけどこれは告白ってやつか!?

 きっと良い返事をするための前振りをするんだな。

 俺との出会いや今日までの好印象を連ねてくれるに違いない!


 「わたし、昔は友達がいたんだ。」


 何の話?

 友達って騎士団と魔法士団にいるあいつらの事か?


 「彼らは同じ趣味だったから出会って数日で仲良くなった。」


 同じ趣味?

 そう言えば彼女の趣味ってなんだ?



 「多分気の良い人達で当時のわたしも彼らと過ごすのが楽しかったと思う。わたし達の事を陰口で叩く人達もいたけど友達がいればそう言うのは気にならなかったはず。ある時まで彼らと過ごした日常が楽しかった。大人になっても偶に連絡を取り合って笑い合う、そんなことを漠然と思っていた気がした。あの時までは。」


 何だかよく分からない。


 「当時のわたしにとって彼ら三人は大事な友人だったはず。なのにこの世界に来てから一変した。」


 ん?

 この世界?

 どういうこと?


 「わたしは召喚された場所で最低のレッテルを貼られた。最初でこそ違う世界に来て喜んでいたと思ったけど現実は違った。その日を境に同じように召喚された人達からは冷ややかな目で見られるだけじゃなくいじめることを是とされ見て見ぬ振りをされた。挙句の果てに国からは要らない存在としてダンジョンの奥へ追放されてモンスターに殺される寸前だった。結果が変わらないとしてもせめて…友人だった彼らにだけは見捨てられたくなかった。それがとても嫌で嫌で苦しくて気持ち悪くて!」


 彼女の話を聞いて想像できた。

 ただ、それに該当しそうなのは一人だけ。

 だけどそいつは男だし髪の色は黒、目の前にいる人は女の子で赤毛だ。

 前提として性別が違う。

 彼女は何の話をしているんだ?


 「ポーラちゃん、その話は……だれの何のはなしなんだい?」


 店を出る前よりも眠気、或いは酔いが回っている気がした。

 だから頭の中で想像したものは多分出鱈目だ。


 「誰の?何の?本気で言っているの?お前達にとってわたしは、ヒラモトシンゴはその程度の存在だったって言うの!?」


 初めて彼女の怒気を孕んだ声を聴いた。

 それよりもおかしなことが聞こえた。


 「ポーラちゃんがヒラモト?えっ!?だって平本ってサンデル王国のダンジョンで逃げ回ってしんだんだよなぁ!?」


 「向こうではそうなっていたんだ、そっかぁ……。」


 悲しそうな声になった。

 頭のローブを取って彼女は素顔を現した。

 怒りと悲しみが混ざったような瞳に見えた。


 「わたしは嘗てサンデル王国に召喚された異界の勇者の一人、ヒラモトシンゴだった人間だ。」


 「は?だってあいつは男だろ?そもそも君は女の子だし……」


 ポーラちゃんから平本との思い出を聞かされた。

 俺達が出会ったのは高校に入学してからで桑原と鈴木も同じ時期に知り合ったこと。

 趣味は架空の物語でこの世界も当初は夢見ていたこと。

 それから俺達でしか知りえないこと。

 だけどそれらを説明するときの言葉は曖昧な表現もあった。

 何と言うか正確な知識を持ち合わせてない、見ただけを表現した感じ。

 平本を名乗るポーラちゃんには信じるとは言って話を進めた。

 ただ目の前の少女があいつだと言われても半信半疑。

 魔法がある世界だから男が女になることだってあるかもしれない。


 「この世界に来てからは死に物狂いだった。あの場所のモンスターは強かったと思う。普通なら死んでいたけど、生き延びた!だけど!あいつのお陰で全て奪われてこの姿にされたんだ!お前にあの時の苦しみが分かるか!?自分の全てを奪われた絶望を感じたことがあるか!?」


 訳が分からない。

 目の前の女の子が平本だって?


 「ポーラちゃんが…平本だなんて嘘だろ?そんなわけ……。」


 そんな馬鹿な話があるのか?


 「コウタ、それに他の二人も許さない。あの時わたしを見捨てたお前達も許せない!残りの二人も見つけ出して絶対に復讐してやる!」


 今にも人を殺しそうな形相のポーラちゃん。

 残りの二人、かぁ。


 「鈴木は魔法との戦いで死んで、桑原は帝国の戦争で死んだよ……。」


 異界の勇者と面識のない相手にこんなことを言うとは思わなかった。

 自分でも驚くはずが不思議と落ち着いていた。

 彼女から溢れ出す憎悪によって無意識の部分では信じているとか?


 「……ハ、ハハッ!あいつら、もういないんだ!アハハ!ハハハハハハハハハハ!」


 何が可笑しいのか右手を顔に当てて上を向いて笑っていた。


 「ねぇ、どうしてわたしを助けてくれなかったのさ?仮に運命が変わらなかったとしても今までと同じように話せていれば!?教えてよ!?」


 正直ポーラちゃんが平本とは思えなぃ。

 気になった女の子が昔見捨てた友人だったとか笑えないよ。

 どちらにしても俺に殺意があるなら抵抗させてもらぅ。

 少なくとも俺の方が実力はあるからなぁ……。

 さっきから意識がぁ……。


 「わたしはお前達三人を殺したくて仕方がなかった!それでもわたしは……。」


 そっか、何だかわからないけど殺す気はないんだぁ。


 「お前が永遠に苦しんでほしいことだけ。」


 「はぇ?」


 意識を保とうとしたけどこれ以上は持たなぃ。

 なんでこんな時に。

 もしかして俺ってエールを飲むとねむけを催す質だったのか?

 もえるような怒りに満ちたあかい瞳にあくまの様なえがぉ。

 初めて見るその顔だったけど。

 途端に目の前の女の子の姿がぼやけて、真っ暗になった……。




 次に目を覚ましたのは知らない部屋。

 一面以外は全て石造り。

 その一面は鉄格子だ。

 松明の光と通路の奥から取り入れられている太陽の光で何とか把握できた。

 体を意識すると横たわっている状態。

 それに手足が縛られている。

 しかも金属製。

 俺の力じゃ解けない。

 装備品は全て失っている。

 何か頭も痛いし。

 どういう事?

 昨日の夜を思い出そうとした時に足音が聞こえた。

 鉄格子越しに現れたのはフレイメス帝国の従士だった。

 俺を見て驚き、直ぐに来た道を戻って行った。

 ちょっと失礼な奴じゃないか?

 そう思ったが暫くすると四人の従士と中年の騎士らしき男が現れた。


 「目を覚ましたか。お前には聞きたいことがある、別室に移るぞ。」


 俺が寝ていたのは牢屋らしい。

 何で捕まっているのかは分からないけど計画のこと以外は素直に言えば解放されるだろう。

 出来るだけ心を静めて従士達に引っ張られた。

 別室と言われたけど牢屋よりも大きな石造りの部屋。

 ただ、色々な道具があった。

 嫌な予感。

 木製の吊るし台のロープを足に括りつけられた。

 そのロープを引っ張られて俺は空中にいた。

 ある程度の高さまで引っ張られた後に俺の真下に大きな水釜が用意された。


 「お前にはサンデル王国の密偵としての嫌疑が掛けられている。素直に白状すれば多少は罪の重さがマシなものになるだろう。」


 「そうですか。」


 何でこうなっているのか、最後の記憶を思い出そうとしたが。


 「この帝都にはどうやって入って来た?」


 「元々帝都の出身ですよ?」


 答えた瞬間、吊るしたロープが緩んで水に落とされた!


 「!?!?!?」


 いきなりでしっかりと息を吸い込んでいなかったから予想以上に苦しい。

 死ぬんじゃないかと思った時に漸く引き上げてもらえたけど、ひどすぎる。


 「お前がこの帝都の出身と言う証拠がない。」


 「な…何を…言っているんですか?貧困街…の…出身者なら…そんなものないでしょ?」


 息を整えながら答えたけど即座に水に漬けられた。


 「!?!?!?」


 ふざけんな!

 再び引き揚げられたけど、予想以上に苦しい。


 「お前の両親は?」


 「物心ついた時には」


 ザブンッ


 「冒険者になる前はどうやって生きてきた?」


 「それは……。」


 サブンッ


 質問されて答えても答えられなくても水に漬けられた。

 なんだこれ?

 証拠があるわけじゃないのにどうしてここまでやるんだ?

 クソッ!

 証拠がないなら無実じゃないか!

 元の世界なら訴えることが出来る案件だぞ!


 「一つ勘違いしていないか?」


 「な、何を?」


 騎士のおっさんが俺を睨みつける。

 こんな拘束されていなければお前なんて手玉に取ってやれるのに!


 「俺達はお前と友好的な関係を結びたいだけだ。」


 「は?」


 何を言ってる?

 こんなことをされて好印象を抱けるかよ!


 「少なくともお前に嫌疑が掛かっていること、帝国民の人間と言う証拠がない以上は素直に情報を吐いてもらうしかないんだ。」


 「なっ!証拠がない?そもそも国が全員を把握しているわけじゃないだろ!?」


 「それを教える義理はない。サンデル王国の異界の勇者であるコウタ・タケダ。君の能力ではここから脱出は不可能だ。素直に言えば君はサンデル王国に帰ることが出来るかもしれない、サンデル王国も君を無下に出来ないだろうからな。」


 俺を知ってる!?

 何処で知られた?

 フレイメス帝国との戦争で顔を見せた覚えはない。

 それなら……あ。

 そうか、あいつなら。

 俺が気を失う前に会った冒険者の女の子、ポーラ。

 いや、確かあいつは自分の事を平本だって……。

 頭の中で今の状況を理解した。

 そう言う風に思うしかなかった。

 どうしようか。

 俺がここに居ることはサンデル王国が知っているかもしれない。

 任務の事を言えばサンデル王国に戻れるかもしれないけど戻った後の待遇とかどうなるか分からない。

 逆にフレイメス帝国に取り入って蘇生魔法を教えて貰うとか?

 そこから協力しながら出世して重役に就いて贅沢な暮らしが出来るかもしれないじゃん!

 少なくとも俺を殺す可能性は低いから耐えれば光明が見えるかもしれない。

 へへっ!

 何も喋らず拷問を受け続けるよりさっさと喋ってフレイメス帝国に忠誠誓えば貴族、いや皇族の綺麗なお姫様と結婚させてもらえるかもしれないじゃん!

 いやぁ、今後の事を考えると楽しみだなぁ!


 「なんかこいつ気持ち悪いな。」


 「こんな状況で顔をニヤニヤさせているなんて……。」


 「実は打たれるのが好きなのか?」


 「だったら好きなだけ痛めつけるしかないようだな。」


 その時、誰かがこの部屋に入って来た。

 この場に居た全員がその人に目を向けた。

 青と銀の鎧を身に纏った長身の男性。

 武器は携えていないが、ウェーブの掛かったマロンブラウンの髪にまつ毛がパッチリ。

 髭もなく綺麗な三十代に見える。

 その男性に向かって騎士達は姿勢を正した。


 「これはウヴェ様!こちらへ何用で!?」


 慌てている様子からすると予定外とか?

 しかもこいつらより偉いんじゃね?


 「あら~、アタシがここにいちゃダメな理由があるって言うの?」


 オネエ系?


 「いえ、滅相もございません!ただ、何分今は尋問中でして!」


 騎士があたふたしているから予想外の事をする人か?


 「それならアタシも混ぜて頂戴!んん!この子、よく見ると可愛いわねぇ!結構好みかも!」


 低い声でそんなことを言われても嬉しくないぞ、おっさん!

 近づいてきたと思えば鼻息が掛かるまで顔も寄せてきた!

 恐怖は無いのに嫌な感じがする。

 いや、偉い人ならここはチャンスじゃないか?


 「ねぇえ、暫くこの子と遊ばせてもらうけど問題ないわよね?」


 騎士達に振り向いた表情がどういうものか分からないけど彼らはちょっと引き気味だった。

 しかし、彼らの返答は即答だった。


 「ウヴェ様であれば問題ありません!では、我々は暫くの間外に出ていますので終わりましたらお呼びください!」


 「ありがとうあなた達!」


 投げキッスをされた騎士達はそぞろと部屋を後にした。

 これで交渉ができるな!

 変な人だけど大丈夫だろう!


 「じゃあ、お互いの事を知るためにもま・ず・は!」


 ウヴェとか言う騎士がこの場で鎧を脱ぎ始めた。

 え?

 何をしているのか分からない。

 気づけば大事な部分を布で隠している状態。

 鍛えれた体を見せつけられるだけ?


 「あなたも脱ぎましょうねぇ?」


 「は?」


 「そして語り合いましょう!」


 水瓶の真上から脇へ移動させられて頭の位置が相手の膝あたりまで動かされた。

 そして拘束具を付けられたまま服を破かれた。


 「お・た・の・し・みタイムね!」


 「ああああああああああああ!?」


 希望は絶望になった。

 そして俺の悪夢が始まった……。 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




補足・蛇足


武田康太【シーカー】(Eランク)

身体能力が向上。探知能力に優れている。また複数のスキルも使える。

スキル1:マジックサーチ/一定範囲内の魔力反応を認識できる(最大範囲は当人の実力に左右され、認識に関してはEランクだと索敵対象の魔力保有量に関係なくあるかないかの判断のみになる)。

スキル2:ムービングサーチ/一定範囲内の動く対象を肌で感じ取れる(最大範囲や感度は当人の実力に左右される)。

スキル3:ビューイング/環境に関わらず一定の視界を保って認識できる(デバフの影響を受けない)。


飲食店で注文の料理が並べられたあとに武田康太がよそ見している間に聞いた小さな音。何となく怪しい気がした武田康太がポーラのフルーツエールと交換して飲ませることで毒は入っていない、気のせいだと思いました。

しかし、実際はポーラがフルーツエールに煎じて粉にした睡眠薬を入れたときの音。

更に言えばポーラの手元にあるフルーツエールです。

武田康太が疑って交換まですると織り込み済みでの行為でした。

仮に交換を提案されなければ使用した睡眠薬にも耐性のあるポーラはそのまま飲んだでしょう。

裏設定ですがその場合でも事前にキッチンとホール担当にそれぞれ睡眠薬を友人の為に喜ばせるスパイスだと称して一皿だけに盛らせて提供させました(彼は特殊な癖を持っていてそのスパイスは他の人の体には良くないから絶対に食べないように、と言いつけた上で)。

なので、武田康太はどちらにしても睡眠薬入りの料理を口に含んだと言う話にしました。

絶対にやらないようにしましょう。


最期の吊るされた武田康太とウヴェの展開は……皆様の想像にお任せします。

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