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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
異世界と言う現実
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9話 消えたクラスメイト ―異界の勇者達―

本日もよろしくお願いします。


 イビルモル戦から帰還して夕暮れ時。

 召喚された生徒達は疲れが溜まっている中、兵士達に促されて身だしなみを整えて謁見の間へ招集された。


 「此度は良くぞ戦い抜けてくれた。異界の勇者達は予想以上の成長をしているようで嬉しく思う!疲れていると思うが今晩は豪華な食事で持て成したい。本当にご苦労だった。」


 「準備が出来次第、兵士達に案内させる。それまでは自由にしよう。」


 王様の言葉の後に大臣の一人が通達した。

 それを聞いて大半は嬉しそうな顔をしていた。


 「豪華だって!」


 「生きてて良かった。」


 「ホントだよな!」


 口々に言う彼らを兵士達は誘導して謁見の間から退室させた。


 「暫くの間、自由時間とするが近くに我々が居ることを忘れぬように。」


 謁見の間から離れて城内のホールで兵士の一人が言い渡した。

 安堵の声が上がって各々が自由に散らばる中、中園利香が兵士の一人に近づいた。


 「あの、少しよろしいですか?」


 「はい、何でしょうか?」


 「仲間が一人いないんです。平本晋吾という少年ですが。」


 「ヒラモトシンゴ?申し訳ありません、私には分かりかねます。他の兵士なら知っているかもしれません。」


 そもそも存在を知らないのか、どこで何をしているのかを知らないのか、曖昧な態度や言葉に感じた中園利香だが努めて冷静に返して別の兵士の元へ向かった。


 「付いてくよ。」


 近野樹梨が中園利香と合流した。


 「ありがとう。」


 「私も途中で気づいたけど。彼、いなかったね。」


 「うん、イビルモルが現れた後から見てない・・・。」


 「そんなに前から?」


 「うん・・・。」


 そこへ船戸玄も近づいてきた。


 「船戸君。」


 「兵士に何か聞いていたから、もしかしてと思ってな。」


 「平本がいない。」


 近野樹梨が短く答えた。


 「そうか。確かに思い返せばダンジョンに入ってから見かけたのは中層エリアで合流した直後だったような。」


 「私達は今から心当たりがありそうな兵士を探すの。」


 「それなら俺も付き合って良いか?」


 「いいの?船戸君も疲れているんじゃないの?」


 「これでもラグビー部だからな、他の奴よりも体力はあるほうだ。それにクラスメイトが一人いないのは気がかりだ。」


 中園利香の心配に船戸玄は無用だと答えた。


 「物好きなやつ。」


 「近野は友達思いの良いやつだな。」


 「うん、樹梨ちゃんは大事な友達だよ。」


 「あのねぇ。」


 近野樹梨は船戸玄や中園利香の言葉に照れてしまったようだ。

 そんな彼らは城内を散策して何人かの兵士やメイド達に聞いて回るが中々明確な答えを得られない。


 「誰なら知っているの?」


 「そもそも知っているのかどうなのか。」


 「兵士達の返答はほとんどがはぐらかしている気がするな。」


 中園利香、近野樹梨、船戸玄がそれぞれ思ったことを口にした。


 「いっそのこと王様に訊いてみるか?」


 船戸玄の提案に二人が思案した。


 「答えてくれるかな?」


 中園利香は不安を隠せないでいた。


 「一応兵士達から報告は上げられるんじゃないの?」


 尤もなことを言う近野樹梨に中園利香はそうだねと返した。

 彼らが謁見の間へ向かうため移動をしている途中で男の声が引き留めた。


 「そこの三人、少しいいかな?」


 「あなたは?」


 中園利香は勿論のこと他の二人も首を傾げていた。


 「あぁ、これは失礼。私はサンデル王国の騎士団の一人、バスコ・ペレスだ。あまり会う機会はないかもしれないが以後よろしく。」


 軽装姿で名乗りを上げたバスコに三人は戸惑いながらも差し出された手を握り返した。


 「用件は?」


 単刀直入に近野樹梨が聞き出した。


 「はは、早速か。と言ってもこちらから呼び止めたんだね、失礼。先程から君達が何やら聞きまわっていると耳にしたのでね。」


 「つまり、俺達の知りたいことを知っている。そういうことですかね?」


 船戸玄が一歩前に出た。


 「うーん、厳密に言えば少し違うのだが。」


 「何か知っているなら教えてください!」


 中園利香が食って掛かるのを近野樹梨と船戸玄が慌てて抑えた。


 「落ち着け中園。」


 「・・・ごめんなさい。」


 「私は気にしていないが。そうだね・・・。簡潔に言えば君達の知りたい人物、シンゴ・ヒラモトは現在行方不明だ。」


 「えっ?」


 バスコの答えに中園利香はつい声に出してしまった。

 近野樹梨と船戸玄も自分の耳を疑っているようだ。


 「私が聞いた限りだが、彼はダンジョンに現れたイビルモルとの戦いの途中でダンジョンの奥へ行ってしまったという証言があってな。」


 またしても三人は固まってしまった。


 「どうにも大量のモンスターや巨大なイビルモルに恐怖して錯乱していたらしい。それで兵士が呼び止めても構わず一人でイビルモルが現れた道へ行ってしまったようだ。」


 「それで行方不明と?」


 中園利香が小さい声で呟いた。


 「今回の戦闘の直後だと君達を守るだけで精一杯だったのでな。明日の朝、改めて捜索隊を編成して彼を探すつもりでいる。」


 「そうですか・・・。」


 力なく答えた中園利香に近野樹梨が肩を寄せた。


 「その捜索隊に俺を加えてもらえませんか?」


 船戸玄の思わぬ申し出にバスコは面食らってしまったが冷静に答えた。


 「それは嬉しいが残念ながら君を参加させるわけにはいかない。」


 「どうしてですか?」


 「君が異界の勇者であり明日の探索で万が一のことがあったら国として困るからだ。それに君達が強くなったと言ってもダンジョンの奥はまだ強いモンスターがいる。我々はダンジョンの事も詳しく、隊でもしっかり動ける。だから、捜索は私達に任せて体を休めて鍛錬に打ち込んで欲しいんだ。」


 「・・・わかりました。」


 船戸玄は素直に引き下がった。


 「二人もそれでいいかな?」


 「はい。」


 「まぁ。」


 三人の返答を聞いてバスコは締め括った。


 「先ずは三人とも体を休めるように。特にリカは顔色が悪いようだ。今日は部屋で休んだ方がいいかもしれないな。」


 「・・・そうさせてもらいます。」


 「私も利香の傍にいます。」


 「わかった、大臣には私から伝えておこう。」


 そう言ってバスコは来た道を引き返してその場を去った。


 「これ以上は何も分からなさそうだな。」


 「多分そうだろうね。」


 船戸玄の意見に近野樹梨が同意した。


 「二人とも、部屋まで送ろう。」


 「ありがとう。」


 「船戸は意外と紳士なんだな。」


 「そうか?まぁ、念のためだ。」


 彼らは来た道を戻って中園利香の部屋まで行き、船戸玄は見届けてから二人の元を去った。

 暫く歩いていると後方から兵士の一人が駆け寄ってきた。


 「ゲン様。そろそろお時間ですのでご同行願います。」


 「もうそんな時間なのか。」


 船戸玄は兵士に案内されて晩餐会へ参加するのだった。




 船戸玄が案内された大部屋は二つの長机に人数分の椅子が並べられており、奥には煌びやかな装飾の施された長机が鎮座していた。

 彼が指定された席は奥の机に近い方で既に来ていた北山洋成の隣だった。


 「おう、船戸。」


 「さっきぶりだな。」


 北山洋成以外にもクラスメイト達は席についており、奥の席には英雄人達いつもの六人が座って手前に行くにつれてランクの低い人達が座っているようだ。

 船戸玄の左隣やAランクが固まっている座席の一つが空席になっている。

 これで全員が揃ったようでタイミングよく広間のドアから国王と后が入室した。

 全員が静かになって注目する中、一番奥の長机に並んだ。


 「異界の勇者達よ、改めて。ダンジョンでの実践によくぞ答えてくれた。更にダンジョンで強力なモンスターであるイビルモルの討伐も成したと聞いておる。この地に来てから三か月だがここまで成長したことに我々はただ驚くばかりだ。これからの躍進を願って今宵は精一杯持て成そう。遠慮せず楽しんで欲しい。」


 国王の挨拶が終われば給仕達が次々と料理を運んできた。

 新鮮なサラダ、ふんだんに具材を使った塩味とブイヨンで味を調えられたスープ、野菜を煮込んで熟成させたようなソースを掛けた何かの焼き魚、半透明の黄色のゼリー、この世界に来て初めて食べる別の肉料理、口をさっぱりさせる地球と似た小さな赤い果実。

 地球と似ていて、去れど材料や調理法などが異なっていそうな料理の数々は暫く食べていた料理とは比べられないくらい豪華なもので大半の人達はフォークやスプーンを使って口にした。


 「美味しい!」


 「うまいな。」


 「これが異世界の料理。」


 と口々に感想を伝えあっていた。

 英雄人達も同じように食べては美味しいと口にして、近くにいた国王や后と話し込んでいた。

 船戸玄も口にしていたが内心複雑だった。


 (俺達は今日まで頑張っていた。それに対するお礼と言われれば悪い気はしない。しかし、これは明らかに飴と鞭だよな。それ以前に平本がここに居ないことに誰も疑問に思っていないのか?特に平本は人一倍頑張っていたにも関わらず。)


 食事が終わったところで大臣が今後の方針を伝えてきた。

 月が三回満ちた時、魔王の討伐を始めること。

 また、それまでの間により厳しい訓練になること。

 他にも解決して欲しい問題があるなど兎に角やることが多いということだ。

 それらを聞いて不安を感じる人、期待に応えようと生き生きする人など反応は様々だ。

 今夜の晩餐会は無事に終わり、国王と后が退室してから高校生達が順次広間を出て行った。


 「船戸、飯の時はどうしたんだよ?」


 北山洋成が船戸玄へ陽気に話しかけてきた。


 「あぁ、いや。特にな。」


 「そうか?何か悩んでいるなら聞くぞ?」


 「・・・ここではなんだから場所を移させてもらうぞ。」


 「構わんぞ。」


 二人は人気のない外へ出た。


 「今日は色々大変だったけどお互い無事でよかったな。」


 「そうだな。」


 月明かりに照らされながら心地よい風が二人の間を通り抜ける。


 「それで何か相談事か?」


 「相談事・・・。ではないな。少し確認したいだけだ。」


 「確認?」


 「そうだ。俺達のクラスは四十人だよな?」


 「あぁ、そうだな。それが?」


 「今、この城には何人いると思う?」


 「そりゃ、四十人じゃないのか?」


 「一人いないんだ。」


 「いない!?そりゃ一体誰だよ。」


 「平本晋吾だ。」


 「平本・・・。あぁ、あいつか。最初は兵士達が当たってたよな。途中でお前や中園が訴えてたな。」


 「その平本がダンジョンで行方不明になったんだ。」


 「はぁ!?どういうことだよ?」


 「俺も詳しいことは分からない。」


 「そう言えば雄人と同じグループだったような。中層フロアの時点で居たような気がするから、モンスターの群れが襲ってきたときにやられたのか?」


 「具体的には分からんがその可能性も捨てきれないな。」


 「なんか煮え切らないな。」


 「俺も夕食前にバスクという騎士から話を聞いただけで確定した情報を持ってはいないんだ。」


 「それで結局平本は?」


 「明日から調査隊が調べるらしい。」


 「そうか・・・。見つかるといいな。」


 「そうだな・・・。」


 「他にも心配事か?」


 険しい顔をする船戸玄に北山洋成が気にしだす。


 「俺達は訳も分からずこの世界に召喚された。目的は敵を倒すこと。だよな?」


 「ざっくりと言うならそうだな。」


 「俺達は元の世界に帰れるのか?」


 「そりゃあ・・・。帰れると思うしかないだろ。」


 「確かにそうなんだが。国王は何も明言していないし何かしらの保証もしていない。」


 「言われてみればそうだな。」


 「これはお前の胸の内に仕舞って欲しいが、俺はこの国をあまり信用できない。かと言って何か事を起こそうと言う気もない。お前も一応警戒はして欲しい。」


 「お前がそう思ったならそれでいいんじゃないのか。少なくとも俺は否定しないぜ。まぁ、全てを肯定できないが警戒するに越したことはないな。」


 「ありがとう、それでいい。」


 二人とも表情を緩めて月を眺めた。


 「そろそろ戻るか。」


 「そうだな。」


 北山洋成は船戸玄の背中を叩いて城内へ戻った。


 「ああいうのが居ると気が楽になるかもな。」


 月を見上げて独り言ちた船戸玄も城内へ戻るのであった。




 ある一室。

 板で閉じるだけの窓からそよ風が流れる。

 蝋燭の火が風で小さく揺れる。

 広くはない部屋のベッドに二人の少女が腰掛けていた。


 「ごめんね。」


 「いいよ、これくらい。」


 涙で目元を腫らす中園利香を近野樹梨が肩を寄せて抱き合っていた。


 「どうしてこうなったんだろう・・・。」


 中園利香が呟いた言葉は本来であれば皆が思うこと。


 「利香のせいじゃない。」


 「それでも、私は。」


 「やれることは他にあったかも知れない。けど、利香に出来る最善は尽くした。」


 「それにまだ居なくなったわけじゃない。」


 「そうだよね・・・。」


 落ち着きを見せる中園利香に表情が沈む近野樹梨だが声のトーンは変わらない。


 「もう寝よう。今日は私も一緒だよ。」


 「ありがとう。」


 彼女達はベッドの中で体を寄せ合いながら深い眠りについた。




 一週間後。

 中園利香達に催促されたバスコはゆっくりと口を開いた。


 「君達の仲間だったシンゴは、ダンジョンの奥で発見された。但し、見る影もなかった・・・。」


 険しい顔で伝えたバスコに中園利香、近野樹梨、船戸玄は最初は何を言っているか理解できないという顔だった。


 「死体は見るも無残でな。彼が身に付けていた一部を回収してきたくらいだ。骨すらまともに残っていなかった・・・。」


 沈痛な面持ちで語るバスコへ中園利香が崩れ落ちようとして、それを近野樹梨と船戸玄が支えた。


 「彼を救えず、済まなかったな。」


 バスコの謝罪に三人は答えられずにいた。

 この日、サンデル王国にて平本晋吾の死亡が確認され、召喚された異界の勇者たち全員に知らされることになった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが今後も暇つぶしに読んでいただけたら幸いです。


主人公の平本慎吾とは違う視点の話ですが、今後も挟んでいく予定です。


今回登場した騎士のバスコは最初に登場したガンボーとは別人でダンジョンへの引率担当でもありません。偶々バスコの元へ中園利香達の話が舞い込んできたから直接対応した、という流れです。

当のガンボーにも彼女達の話は入っていましたが関係する兵士達には何も話さないように命令しており自身から関わらないようにしていたため、バスコが出張った訳です。




以下は召喚されたクラスメイトのC、D、Eランクの簡単な紹介です(8話のあとがきの続き)。

Cランク

大重心愛  【ダブルフェイス】身体能力が向上。もう一つの人格が備わり、危機的状況になると好戦的な人格が現れて主導権を握る(人格の性別は変わらない)。


小川智也  【アイアンタンカー】身体能力が向上。体力と防御が増加する。


小田切翼  【スラッシャー】身体能力が向上。持っている武器の切れ味が向上する。


上中舞   【ヒットメーカー】身体能力が向上。投げた物、撃った物などを当てたい場所へ当てる能力。


高木唯   【マジック・ウォーター】魔力、精神が向上。水属性の魔法を使える。


Dランク

飯田翔太  【アタッカー】身体能力が向上。攻撃の意思がある行動の時に相手に与える威力が増加する。


幸田悠人  【マジック・ウィンド】魔力、精神が向上。風属性の魔法を使える。


谷川麻紀  【バーサク】身体能力が向上する。一時的に〈狂化〉して目の前の対象を攻撃し続ける(当人が死んでいると判断すれば近くにいる次の対象へ向かう)。


十津川千尋 【ジェネラルソーサラー】魔力、精神が向上。複数の魔法を使える(火、水、風、土、治癒)。


藤田杏奈  【ヒーラー】魔力、精神が向上。治癒魔法を使える。


山田航大  【ディフェンサー】身体能力が向上。防御の意思がある行動の時に相手から受ける衝撃を低下させる。


Eランク

桑原健斗  【マジック・ウォーター】魔力、精神が向上。水属性の魔法を使える。


鈴木隆利  【ヘビータンカー】身体能力が向上。武器の威力を上げたり自身や防具の防御力を上げたりする。


武田康太  【シーカー】身体能力が向上。探知能力に優れている。また複数のスキルも使える。


徳田俊介  【ラックホワイター】魔力、精神が向上。ゲームで言えばバフを掛ける役職。任意の対象に体力、筋力、思考、魔力などの上昇を与える魔法を使える。


三戸卓己  【ドラッグクラフター】魔力、精神が向上。薬品の製作に強くなる能力(知識欲が高まる、探知系スキルが使える)。

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