89話 青の等級者(中編)
本日もよろしくお願いします。
マティアス達の話、2話目です。
翌朝。
夜中に襲ってきたモンスターはいないようで村人達は安心していた。
最高等級の冒険者達の来訪もそうだが、ここ最近は先に来ていた冒険者達が持ち回りで夜の見張りを手伝ったことも大きいだろう。
早朝に準備をしたマティアス達は朝まで見張りをしていた男性達に話を聞いていた。
「モンスターはいなかったですね。他には……そうだ、少し前に冒険者一組が先に森へ探索に向かったようです。確か四人の男でした。」
話を聞いたマティアス達は村人達に見送られながら森へ入った。
先頭に立っているのはドリス、軽装備の彼女は周辺に目を配らせつつパーティーを引率していた。
「先に入った奴らが粗方倒してくれるなら有難いんだけどなぁ。」
クラウスが槍の石突で足場の悪い地面を叩きながらボヤいた。
「確かにな。」
ゲルトも同意しながら周辺へ気を配っていた。
暫く歩くとドリスは立ち止まり、伏せて地面を観察した。
「モンスターの足跡がありますね。人よりも大きいサイズですから間違いありません。」
その足跡は続いており薙ぎ倒された茂みに向かっていた。
一行が向かおうと歩き始めた時、マルテだけは足跡に顔を近づけていた。
「マルテ、何か気になる事でもあるのか?」
急いで引き返したマティアスにマルテは念のためと言ってあとに続いた。
偶にそよ風を感じ、緑の匂いで気分が晴れそうだが誰もが一定の緊張を保っていた。
「ん、この匂い……。」
マルテが顔を顰めたような声を上げた。
「どうしたマルテ?」
マティアスが声を掛けて全員が足を止めた。
「変な匂いがします、一番強い匂いは泥や腐敗臭……。」
「ヘドレスリオがいるってことかい?」
エルケの言葉にマルテは小さく頷いた。
「サペンタマビウスとヘドレスリオが交戦したとか?」
「クラウス、行けば分かる事さ。」
ゲルトの言葉に一行は再び歩み始めた。
今まで茂みや樹木で多い茂っていたが途端に空けた土地が見えた。
尤も言うなら腐敗臭が充満した空間だった。
広さは凡そ民家一件分くらいだろうか。
地面も何か削られたような、浸食されたような跡が残っていた。
その後は別の場所から引きずられたように進んでいたがこの場所で途絶えていた。
「森の奥からヘドレスリオがここまで来たが」
「何かと交戦して倒されたってところじゃないの?」
ゲルトの言葉をエルケが引き継いだ。
「ドリス、この一帯を調べてくれ。他は周辺を警戒。」
マティアスの号令を元にそれぞれが動き出した。
「マルテ、少しの間だけ我慢してくれ。」
「はい……。」
マティアス達以上に異臭を感じているのかマルテは顔を覆う仕草をしていた。
ドリスが一通り見た結果。
「見立ての通り、ヘドレスリオが交戦して倒されたのは間違いなさそうです。残っていた足跡から多分冒険者。足跡が多いから複数人で動いていると思います。」
「サペンタマビウスの痕跡は?」
「ありました、サペンタマビウスが通ったあとでヘドレスリオがここに来たと思います。」
「分かった。このままサペンタマビウスの足跡を辿ろう。」
彼らが再び探索を続けると途中から茂みを抜けた。
とは言え木の根っこが剥き出しであり、大小様々な石も転がっているため悪路であることに違いはない。
「そろそろモンスターの一匹でも現れて欲しいところだな。」
「どうせならサペンタマビウスが良いわね!」
クラウスとエルケは戦いたくてウズウズしている。
「その前に先に探索を始めた冒険者達が交戦しているだろう?」
「もしかしたら別の個体がいるかもしれないだろう?」
「それはそれで厄介だな。」
ゲルトが冗談は良してくれと言って手を振った。
その時、ドリスとマルテが反応した。
「何か来ます!」
「植物型のモンスターかもしれません!」
二人の言葉に全員が武器を手に取り構えた。
マティアスはロングソード、クラウスは刃の大きい槍、ゲルトは剣、ドリスはナイフ、エルケはロングソードよりも大きなバスターソード、マルテは木製の杖。
数秒後、小さく飛びながら向かってきた集団が現れた。
「シャウナッツだと!?」
クラウスが驚くも相手は構うことなく襲い掛かって来た。
人の顔よりも大きい丸型の果実に見える、表面の色は紫色。
目や鼻はないが大きい口は獲物に噛み付いて食べつくしてしまうと言われていた。
彼らが獲物をたくさん食べて動き回り、栄養を蓄えたら体を割って芽を出して果樹になるらしい。
そして自身の枝から新たな果実を生み出して繁殖する。
マティアス達が直面したシャウナッツの数は十匹。
「マルテは援護!ドリスはマルテの護衛!残りは前に出ろ!」
「「「「「「「「「「shawwwwwwwwwwww!」」」」」」」」」」
叫ぶモンスターに怯むことなく立ち向かうマティアス達。
周辺は乱雑に育っている木々があり、武器を思いっきり振り回すことが出来ない。
「開けた場所なら良かったのにな。」
クラウスが槍で振り降ろすもシャウナッツ達は左右へ避けてしまった。
しかし、右側からバスターソードが地面すれすれで薙ぎ払った。
正面右にいた四匹がバスターソードによって上下真っ二つになった。
中は瑞々しい赤の果肉と透明な果汁をまき散らした。
「低い位置で斬り払うのは得意じゃないってのに!」
エルケが不満を漏らすが早速半分近くを倒してしまった。
「あいつら堅いから大変なのに簡単に斬ったのは凄いぜ。」
クラウスが呆れているがまだ六匹残っていた。
その六匹は固まっているのは危険と判断したのか散らばり始めた。
但し、逃げている個体は一匹もいなかった。
「「「「「「shawwwwwww!」」」」」」
「クエイクウォール!」
マルテが後方から魔法を唱えて散らばる六匹を囲う様に土の壁を作り上げた。
人の身長よりも大きい壁にシャウナッツ達は飛び越えられないでいた。
「ハッ!」
マティアスのロングソードが飛び跳ねるシャウナッツを頭から斬り裂いた。
その隙を突こうと気づいた別のシャウナッツが飛び掛かって行く。
「甘いっ!」
鎧姿であっても器用に片足でシャウナッツの底部を蹴り飛ばした。
「shaw!?」
飛ばされた先には剣を構えたゲルトがおり、タイミングを計って斬り上げた。
真っ二つにされたシャウナッツの体はゲルトの両脇へ抜けて後方へ落ちた。
別の二匹はそんな光景に関係なくマティアスとゲルトへ飛び掛かった。
「残りは!?」
「今相手しているのが終われば、だが!?」
二人がそれぞれ両断した直後、壁のない場所から一匹のシャウナッツが脱出していた。
しかも向かっている先はマルテとドリスのいる場所。
「ドリス!」
マティアスに呼ばれ、ドリスが右手と左手に一本ずつナイフを持ち替えた。
「はい!」
飛び掛かって来たシャウナッツにドリスは躊躇せずに両のナイフで上部と底部から思いっきり刺した。
「!?!?!?」
ドリスの顔の前でシャウナッツが叫ぼうとしても上下から挟まれて叫べない。
「ちょっと前に出してくれ。」
クラウスの声にドリスはシャウナッツを前に出すと、槍の刃が右から左へ流れるように通過した。
シャウナッツは上下に別れ、ドリスが両方とも地面に置くと足で抑えながらナイフを一生懸命抜いたのであった。
「このモンスター、結構重いです……。」
「その割にしっかり支えていたじゃないか?」
「限界です……。」
土の壁からマティアスとゲルトも出てきたのを確認したマルテは土の魔法をゆっくりと崩した。
「十匹倒しましたか?」
マルテの確認に全員が討伐した数を申告すると問題なかった。
彼らは周囲を警戒しつつ手持ちの道具でシャウナッツの死骸を埋める準備に入った。
「何だかもったいない。」
マルテは物欲しそうに呟いた。
「こいつらって毒を持っていなかったかい?」
エルケはシャウナッツの特徴を思い出したが、マルテはそれを聞いても物怖じしなかった。
「何と言いますか、今なら食べられそうな気がするんですよね……。」
「もうお腹が減ったのか?ここら辺で休憩するかい?」
「そうだな……。」
マティアスは考えようとした時、何処からか木々が薙ぎ倒される音が聞こえ始めた。
しかも、それは段々と大きくなっている。
「向こうから何か来ます!」
ドリスが指した方角はサペンタマビウスの足跡の先だった。
目を凝らして見ると三本角のブタ顔に鱗を生やして石斧を振り回している姿があった。
更に、それの前方には三人の男達が慌てて逃げている様子も窺えた。
「あいつら!」
クラウスが憎々しげに言うがマティアスは気にせず号令を掛けた。
「目標が向かってきた!彼らと協力できるなら一緒に戦う!」
クラウスやエルケは乗り気でなかったがそれでも全員戦闘態勢に再び入った。
マティアス達が戦闘に入る前。
彼等より先に森へ探索に入った冒険者パーティー、インゴ達もサペンタマビウスの足跡を追っていた。
「早速サペンタマビウスを追えるとは俺達ついているな!」
手斧の冒険者が意気揚々と笑っていた。
「これで俺達がサペンタマビウスを倒せれば一気に評価が上がるってもんだ!」
盾の冒険者も気分が高揚していた。
「しかもあの『白銀の大樹』よりも先に倒すんだから俺達の評判も広がってあいつらの評判が悪くなるってもんだ!」
剣の冒険者も胸を張っていた。
「お前ら、止めは俺が刺すからな!ちゃんと注意を引いてくれよ?」
インゴも既に倒せると踏んで顔がニヤついていた。
「そこは早い者勝ちだろ?」
「違いねぇな!」
彼らは常に笑いながら進んでいたが、前方に目標となるモンスターの姿が見えた。
頭に三本の角を生やしたカバ顔でお腹以外に鱗が生えた尻尾付きの人型モンスター。
「あいつだ!間違いない!」
盾の冒険者が指した先。
それにつられて他の冒険者も喜び、我先にと足場の悪い森を駆け始めた。
ドタバタと走る彼らの音に気付いたのか背中を見せていたサペンタマビウスはゆっくりと振り向いた。
「気づかれたか!?」
「構わない!俺が引き付けてやるからお前らダメージ与えろよ!」
盾の冒険者に言われて三者が分散した。
「おらっ!こっちだデカ物!」
自身の盾をナイフで叩いて音を鳴らした。
その音に反応してサペンタマビウスはニヤリと笑いながらゆっくりと盾の冒険者に歩み始めた。
盾の冒険者は走る速度を落として相手との距離を測った。
「のろまな奴!こっちだこっち!」
再びナイフで盾を叩いて挑発。
それに乗ってか乗らずかサペンタマビウスの表情は変わらない。
そして両者の距離が近づいた時。
「おらっ!」
手斧の冒険者がサペンタマビウスの背後から飛び出て相手の背中を思いっきり叩いた。
多少動いたが叩かれた当人の反応は今一だった。
しかも手斧の直撃した部分には傷一つなかった。
「クソッ!聞いていたが後ろは堅いな!」
「根性足りないんじゃないのか!」
正面から盾で防いでいる冒険者が相手の攻撃をいなしてお互いに一本も引かない。
更にインゴともう一人の剣の冒険者もサペンタマビウスへ飛び掛かった。
「俺が本命だ!」
「隙あり!」
それぞれ頭と脇腹を狙った一撃が放たれた。
しかし、頭を狙った斬撃は三本の角に遮られ、脇腹を狙った一撃は空いている手の甲で防がれていた。
「バカなっ!?」
「ざけんなよっ!」
サペンタマビウスは直ぐに手の甲で剣を弾き、頭を振って防いだ剣を冒険者ごと振り飛ばした。
「うごっ!?」
剣の冒険者は近くの木に衝突。
更に正面で盾を構えていた冒険者にタックルを仕掛け、無理やり後退させた。
「こいつ、力強い!」
脇で剣を弾かれたのはインゴだが、彼は既に怯えていた。
「こんなに動きが速いなんて聞いてないぞ!」
そんな彼の弱音に関わらずサペンタマビウスは石斧を大きく振り上げた。
「それは隙だらけだろっ!」
インゴは好機と見て足に力を込めて剣を正面に構えて突っ込んだ。
「貰った!」
あと三歩で届きそうなところでインゴの表情は変わった。
彼は咄嗟に体を右へ強引に動かした。
無理やり体を動かしたが、先程彼の頭があった位置に石斧が思いっきり落ちてきた。
いや、振り降ろされたいた。
「がぁ!?」
致命傷は避けたインゴだが左肩に触れていた。
直撃ではないが服の袖や肉が削られていた。
その痛みに彼は地面に転がりジタバタした。
「いてぇ!」
そんな彼に止めを刺そうとして再び斧を振り上げようとしたが盾の冒険者と手斧の冒険者が飛び掛かった。
「やらせるか!」
「うおおおお!」
サペンタマビウスの石斧は盾の冒険者に狙いを定めて再び振り下ろされた。
しかし、盾の冒険者はタイミングを狙ってその攻撃を弾き返した。
同時に石斧に皹が入った。
「よし!これで奴の攻撃は半減したな!」
石斧の状態を見て興奮した盾の冒険者。
一方、サペンタマビウスは石斧の状態を一瞥した後、横から手斧を振り下ろしてきた冒険者へ無造作に振り回した。
その攻撃に手斧の冒険者は反応して咄嗟に避けた。
何故なら石斧が飛んで来たからだ。
ギリギリで避けた手斧の冒険者はにやりと笑いながら手斧を思いっきり振り回そうとした。
「この一撃は重いぞ!」
叫んだ手斧の冒険者。
その攻撃に備えたのかサペンタマビウスはかなり姿勢を低くした。
寧ろ地面と平行になっていた。
それでも攻撃をやめない手斧の冒険者だったが次の瞬間、サペンタマビウスが回ったと同時に尻尾が手斧の冒険者に巻き付いてきた!
その勢いを利用して器用に尻尾で掴めた手斧の冒険者を持ち上げた。
「うおおおお!?」
何度も振り回されて上手く尻尾に攻撃できない手斧の冒険者が叫ぶ中、盾の冒険者が助けるためにサペンタマビウスに突撃した。
だが、それを待っていたのかサペンタマビウスは盾の冒険者に向かって巻き付けた尻尾を振り下ろしてきた。
咄嗟に盾で防いでしまった結果。
尻尾に巻きつけられた手斧の冒険者は思いっきり頭から叩きつけられ、動くことはなかった。
それを見ていたインゴともう一人の剣の冒険者はただ見ていた。
その光景に二人は絶叫してその場を離れてしまった。
「俺達の攻撃が通じないなんて!」
「勝てるわけがねぇ!」
「おい、お前ら待てよ!」
盾の冒険者も逃げる二人を追いかけるように慌ててその場を逃げ出した。
そんな三人を見ながらサペンタマビウスは冒険者が握っていた手斧を手に取り、彼らを追いかけ始めた……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




