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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
88/131

88話 青の等級者(前編)

本日もよろしくお願いします。

この話と次とその次はマティアス達の話になります、ご了承ください。

(三話に分けました)


マティアス…鎧を着こんで剣と盾で戦う

マルテ…モンスターの毒に侵された女性 土の魔法で戦う

クラウス…刃の大きい槍で戦う

ゲルト…剣で戦う 兄貴分

エルケ…バスターソードで戦う 男衆よりも体が大きい女性

ドリス…斥候として活躍する女性

 暫く前からマティアス達は西側の地域へ討伐依頼を受け続けていた。

 正確に言えば冒険者ギルドからの指名依頼であった。

 その依頼を達成して帝都に戻っても数日内にまた近くの地域へ派遣される。

 それが最近の彼らのスケジュールだ。

 久々の冒険者ギルドの上階で体を休めた後、彼らは朝一に出立の準備を終えて冒険者ギルドのエントランスに向かった。

 その時、冒険者ギルドの掲示板で依頼を探しているポーラを見かけた一行はマルテの意向に沿って彼女に声を掛けた。


 「ポーラ、おはよう!」


 マルテの声にポーラは気づいて挨拶を返した。


 「皆さん、おはようございます。」


 マティアス達に気づいた冒険者達は彼らから少し距離を取った。

 それに気づいたポーラはマティアス達を先導して空いている場所に移った。


 「今日も仕事か?」


 ゲルトが気さくに声を掛けてきた。


 「そうですね、休んだ分は取り戻さないといけないので。」


 「無理はするんじゃないぞ。」


 「分かりました。」


 「何かあれば相談して欲しいです。」


 「ドリスもありがとうございます。」


 ドリスもポーラを心配した。

 いや、実際はマティアス達全員が彼女を心配していた。


 「皆さんはまた討伐依頼ですか?」


 「そうなのよ、ここ暫く郊外の町や村をモンスターが襲っているって。もうちょっと休みが欲しいわ。」


 体の大きいエルケが迷惑そうに言った。


 「俺達冒険者の本業だから仕方がないけどな。」


 クラウスも同じように感じているらしい。


 「そうですか、それでは皆さんも気を付けてくださいね。」


 「あぁ、ポーラもな。」


 「またお茶をしましょうね。」


 マティアスとマルテが返事をしてから全員冒険者ギルドをあとにした。

 今日も晴れ、朝から帝都は人で賑わっていた。

 帝都に住む一般人の殆どは平和に暮らしていた。

 それは皇帝の元、騎士団や魔法士団によって帝都内の治安が維持されているのが大きい。

 それだけでなく冒険者達が国内のモンスターを討伐することで帝都を襲う存在を排除していることもまた要因の一つだった。

 ポーラと別れたマティアス達一行は幌付きの荷馬車を借り、必要な物資を運んでから帝都を出発した。

 彼らのような最高等級である青を持つ冒険者達は冒険者ギルドと契約を結ぶ関係で行動を制限されるが一方で様々な事に融通を効かせてもらえる。

 その一つが荷馬車を無料で借りられる事。

 馬の世話や車の整備をせずに使いたいときに使えるのは冒険者達にとっては利益が大きい。

 ただ、御者は別に必要で技術のない冒険者は御者を雇うのが通例であるがマティアス達の場合はクラウスが商人から教えて貰っていたことでその費用も浮かせることが出来ていた。

 彼らが向かうは帝都より西にある地域。

 山脈までは行かないがそれでも森で生い茂っている地域はある。

 その近隣の村や町へ向かうらしい。

 何日もかけて向かった村には既に冒険者達がおり、彼らの内何組かはマティアス達と入れ替わりに引き上がった。

 村は特に建物が壊されている様子はなく、村人達は農作業に励んでいた。


 「まだ大きな被害は出ていないらしいな。」


 ゲルトが村を見回しながら思ったことを口にした。


 「出ているならそれなりのモンスター達が暴れているってことだろ?」


 クラウスの言葉に誰もが納得していた。


 「先ずは状況の確認だ。」


 マティアス達は村長や滞在している冒険者達から話を聞いて回った。

 何でも今までは森には行っても直ぐにモンスターと遭遇することはなかったのに一月以上前からモンスター達が現れるようになったと言う。

 この村には村人達が何人か持ち回りで見張りを立てていたが、異臭を放つ存在が出て来たことで冒険者ギルドに打診した。

 そこから冒険者達が異臭を放つモンスターと対峙したが、それがヘドレスリオと言う半液状のモンスターだった。

 スライムと似ているが表層に濁った水晶があり、それを壊すと空気に溶けるように消える。

 目や耳はないのに動物や人を探知しては襲い掛かる厄介なモンスター。

 何日もかけてそれを退治したがその間にも他のモンスターが現れたりして冒険者側も疲弊している。

 そして今回、最高等級の青を持つマティアスのパーティーが呼ばれた理由はサペンタマビウスと言うモンスターが目撃されたからだ。

 サペンタマビウスは三本の角を生やしたカバ顔でお腹以外に鱗を纏っている人型モンスター。

 木材と石で作った斧と地面に這いずらせている爬虫類の尻尾で戦うだけに膂力もあり、並の冒険者では太刀打ちできないとされている。

 冒険者ギルドではポーラが苦戦するウルサクよりも危険視されている。


 「一体だけなら楽勝だわ。」


 エルケが言うもゲルトが注意した。


 「サペンタマビウスはメスや家族の為にオスが単独で餌を探している可能性もあるからな、油断は禁物だ。」


 「おやおや、『白銀の大樹』の皆様はそんなに腰が引けているとは。」


 男の声に一行は振り返った。

 全員が三十代の男性で人数は四人。

 装備の差はあれどそれなりに整えている。

 声を掛けた男ともう一人が帯剣しており、一人は手斧、一人は盾とナイフだ。


 「あぁ、すまねぇ。俺は『豪胆の黒狼』のリーダーをやっているインゴだ、等級は赤だがそれなりの腕を持っていると自負しているぜ。」


 「初めまして、このパーティーを纏めているマティアスだ。明日は俺達も討伐に参加するのでよろしく。」


 「かぁー!先輩への敬意が足りないなぁ!等級はお前達の方が上だが俺達の方が長く冒険者をやっているんだ、何時だって先達を敬う気持ちを持てや!」


 インゴはマティアスに近づいて怒鳴り声を上げた。

 インゴの仲間はニタニタしており、止めようとするものはいない。


 「それは失礼しましたね、インゴさん。」


 「頭を下げて初めて礼儀がなっていると言うだろうに!」


 好き勝手言い始めたインゴだがマティアスは数歩後ろに下がった。


 「俺達はそろそろお暇します。それでは。」


 マティアスは仲間と一緒にその場を離れた。

 彼らの後ろ姿を見てインゴは気に喰わなかったのか地面を蹴ってその場で唾を吐いた。


 「けっ!偉ぶりやがってよ!」


 インゴ達も話す相手がいなくなった場所から離れて行った。

 一方のマティアス達、特にクラウスとエルケはインゴ達に不満を抱いていた。


 「なんだあいつら!先輩だからって偉そうに!」


 「ああいうのは案外大したことないと思うわ。」


 二人ほどじゃなくても他の面々も似たような事を感じている、そんな表情をしていた。


 「あの人達の事は今は気にしなくていいだろう。俺達は俺達の出来ることをするだけだ。」


 「そうだな。」


 マティアスの意見にゲルトは同意して話を終わらせた。

 彼ら以外にも冒険者は何人も居たが仲間内以外で情報交換以上の交流はなく、この日は過ぎた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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